J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年07月号

人材教育最前線 プロフェッショナル編 教育は人事制度の柱。 人が育って初めて人事制度が回る

オフィスから工場、水道・エネルギー設備まで、あらゆる施設で使われるバルブなどの流体制御機器を手掛けるキッツ。国内のみならず、アジア、アメリカ、ヨーロッパ各地に製造・販売拠点を持ち、世界規模で事業を展開するグローバル企業である。そんな同社の発展を人事、教育制度の構築で支えてきたのが、管理本部 総務人事部 人材開発グループ長の海治勝氏だ。「教育は人事制度の柱であり、人が育って初めて人事制度が回る」と語る海治氏は、ビジネス拡大につながる人材の育成をめざし、DNAの継承と教育に取り組んでいる。

管理本部 総務人事部 人材開発グループ長
海治 勝(Masaru Umiji)氏
1989 年北沢バルブ(現:キッツ)入社。1992年KITZ Corporation of AMERICAに赴任。
帰国後、人材開発課、総務人事部を経て、2001年人材開発グループ長に就任。1990年代後半以降、教育体系や目標管理制度を構築し、同社の人事制度の基礎をつくり上げた。

キッツ
1951年設立。バルブをはじめとする流体制御機器などの製造・販売を中核事業とする。建築設備や水道・給水設備、ガス・エネルギー設備、産業機械・生産設備など、幅広い分野で製品が使われている。
資本金: 212 億700万円(2014年3月期)、連結売上高:1170 億3600万円(2015年3月期)、連結従業員数:4032名(2015年3月末現在) 

取材・文/髙橋真弓 写真/編集部

理屈で人は動かせない

流体制御機器メーカーのキッツで現在、人材開発グループ長を務める海治勝氏は、大学卒業後に入社した企業で、1年目から工場採用の高校卒の新入社員教育に携わった。もともと父親が中学校の教師で、教育という仕事を幼い頃から身近に感じていた。また自らも大学で社会学を専攻し、人や組織に興味を持っていたため、いきなりの新入社員教育にも抵抗感や不安はなかったという。

その際、今でも変わらない育成への考え方につながる大きな学びを得た。それは、「無理矢理押しつけても人は動かない」ということ。

「高卒者に限らず新卒者は、仕事への期待や、自分なりのやりたいことを抱いて入社してきます。まだ自分の気持ちに素直ですから、面白いと思えることには進んで取り組みますが、そうでないものにはなかなか興味を持ってくれません。そんな時は、一人ひとりを見て指導することが必要だと思いました」

ただ「これをやれ」と一方的に伝えるのではなく、相手の考えていることを理解し、興味を引くところをうまくアピールする。加えて、「なぜこれが必要なのか」を、相手の理解度に合わせて説明する。そうして納得してもらえれば、人は興味を持って自ら動くようになるのだ。

さらに、海治氏に大きな影響を与えた経験がもう1つある。

海治氏は1989 年に北沢バルブ(現・キッツ)に入社したが、3 年後の1992年から3 年間、米テキサス州ヒューストンにあるグループ販売会社、KITZCorporation of AMERICAに赴任し、海外工場への発注や在庫管理、経理などを担当した。

「KITZ Corporation of AMERICAでは、日本人社員と現地のアメリカ人が一緒に働いている様子をよく目にしました。当初、アメリカ人は“英語が流暢な日本人”についていくのだと考えていました。しかし、よく観察するとそうではなく、重要なのは“人間的に信頼できる人かどうか”でした。人間的魅力のある人に周りがついていく姿を幾度となく見て、語学が必ずしも絶対条件ではないこと、また、人として一番大切なのは、“人間性”であることを実感しました」

重視するのはDNA の継承

「人間性」の重要性に海外で改めて気づいた海治氏だが、それ以前、キッツに入社した時から、同社社員の「誠実さ」も強く感じていた。

「弊社社員には“ウソやごまかしなく、真っ直ぐやろう”“お客様のために誠心誠意尽くし、社会に貢献していこう”という姿勢が強いのです。意志の強さや、誠実に、しかしスピード感を持って仕事に取り組む慣習というか……。そうした会社のよい伝統を受け継ぐ人を育てていきたいと考えています」

この想いを具現化した教育がある。「Do it True(誠実・真実)」「Doit Now(スピード・タイムリー)」「Doit New(創造力・チャレンジ)」の3つからなる行動指針と、これらを60 数個の項目にブレイクしたものが以前からあったが、海治氏はこれらの項目を、新入社員の育成ツールとして活用。日々の仕事の中で実現できているかを社員が自問自答し、振り返ることができるよう仕組み化した。

例えば、新入社員はこれをもとに入社3カ月後、1年後、2年後、3年後とクリアすべき項目を決め、自分でチェックし、上司にも確認してもらう。そして、3年間かけて全てを達成することで、キッツの社員としての行動指針が身につくという。

なお、この行動指針のチェック項目は管理職に任用する際にも活用されている。上司、同僚、部下によって、管理職として本当にふさわしいか見極めるための基準の1つとなっている。

「実は私が入社した頃、教育部門はまだありませんでした。当時は中途入社が多く、教育部門が教育するというよりは、現場で実践しながら学ぶという考えが強くありました。

しかし、90 年代初頭から会社が拡大し人が増えていく中で、DNAの継承や職務知識の伝承の重要性が認識され、会社としても教育を制度として構築しようと考えたのです」

実際、1991年には、創業者で初代社長の北澤利男氏の想いを形にするため、経営理念と共に行動指針が明文化され、「教育」や伝承に会社として取り組んでいくという動きが起きた。95 年にアメリカ赴任から戻り、人材開発課に配属された海治氏は、以降、まさにその動きの中で、同社の教育制度構築の要となっていった。

「目標管理」は育成ツール

人材開発課でまず新入社員や中堅社員の教育を担当した後、総務人事部で人事制度企画に携わった。現在にまで続く教育体系の基礎をつくったのはこの時だ。

前述の通り、90 年代半ばまでは大量採用と共に組織が大きくなっていった。しかし90 年代後半、バブルが崩壊すると環境は一変。コストや人員削減を迫られる厳しい時代となった。教育も例外ではなく、極力、社内で内製することを求められた。

そうした中、海治氏が着手したのが、人事制度の見直しである。

「“育成(個人の成長)”“評価 (人事)”“処遇(給与)”の3つをセットとする体系をつくりました。育成は人事制度のベースとして位置づけており、人が育って初めて人事制度が回っていくという考え方です」

さらに、育成の1つのツールとして目標管理制度を導入。上司と部下が目標を共有しながら、達成にはどんな障害があって、どのように飛び越えていくかを話し合い、結果だけではなくプロセスも記入するシートも作成した。

「少し背伸びしないと達成できないチャレンジ目標を立て、被評価者が達成に向けて行動する。上司は支援し、プロセスも含めて評価する。こうした過程で人は育っていく。ですから目標管理は評価ツールでもあり育成ツールでもあるのです。また、成果主義も取り入れたため、賞与配分や昇給、昇格にも反映させました」

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