J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年07月号

常盤文克の「人が育つ」組織をつくる 第1回 日本企業ならではの人づくり

元・花王会長の常盤文克氏が、これからの日本の企業経営と、その基盤となる人材育成のあり方について、東洋思想に根ざした独自の視点で提言します。企業にとって大切なのは「人育て」。その理由、そして企業活動や仕事のあり方について考えます。

常盤文克( ときわ ふみかつ)氏
1957年、東京理科大卒、花王入社。米国スタンフォード大学留学後、大阪大学にて理学博士取得。76年取締役、90年社長、97年、会長を歴任。著書に『新・日本的経営を考える』(JMAM)『人が育つ仕組みをつくれ!』(東洋経済新報社)など多数。

「楕円思考」で物事を捉える

人は誰しも、自分なりの価値観や思考様式を持っており、知らず知らずのうちに自分の尺度で物事を捉えてしまう傾向があります。その結果、外から入ってくるものに対して、自分の尺度に合わなければ排除してしまうことになります。これでは、新しい世界は見えてきません。

今立っている自分の“杭”とは対極の地点にもう一本別の杭を打ち、そこから自分を客観的に捉えてみる必要があります。これは人材育成についても言えます。いつも考えている・やっている“人育て”という杭の対極にもう1本杭を打って、そこから新しい人育ての在り方を論じてみることが重要だと思います。

私は、物事を考える折の原点として、中国の古代自然哲学である「易」(陰陽思想)に強い関心を寄せてきました。易は、中国古代の聖人、賢人たちが、自然や人間、社会などを広く深く観察する中で、物事の本質とは何か、また人間の在り方、生き方はどうあるべきか、を追求した哲理です。

その根幹のひとつは、例えば男と女、昼と夜、表と裏というように、物事は全て陰と陽の“対”になって存在している、という考え方です。いずれか一方だけでは成立せず、対になる2つが対立したり矛盾したりしながらも1つになっている─これを“対立的統一”、あるいは“矛盾の同一性”といいます。対になるもの同士が、相互に作用することによって、初めて両者は存在する、ということです。男女の関係で考えるとわかりやすいと思います。このことから、易は自分の対極にあるものをしっかりと見ること、そしてその対極に立って自分自身を見ることの大切さを教えてくれます。

私たちは普段、円の中心に自分を置き、そこから周囲を見よう・考えようとします。これは「円思考」です。そうではなく、自分と自分の対極にあるものとを包含するようなものの考え方が大切なのです。そのような考え方を私は、「楕円思考」と呼んでいます。

図1のような2つの円A、Bをイメージしてください。この2 つの円を近づけていくと、重なりが生まれ、やがて楕円形になります。2つの正円の中心(楕円では中心と言わず、焦点と呼ぶ)は、1つの楕円に包含され、しっかりと残っています。この姿が“対立的統一”です。1つの楕円の中で自分の原点をしっかりと持ちながら、相手の存在も認める。これが楕円思考です。

正円では、円周上のどの位置でも中心との距離は同じです。楕円では、円周上の位置によって、2つの焦点との距離は違ってきます。しかし、円周上の点Pと焦点Aとの距離、点Pと焦点Bとの距離の和は、点P がどの位置(P’)に移動しても一定です。これが楕円思考の肝き もで、物事はAかBかではなく、時と場合によってAとBの重みづけが異なるということを表しています。Aの方が重要な場合もあれば、Bの方が重要な場合もある。しかし、それぞれの重要さの和は一定です。

よく知られる陰陽の太極図(※参照)は、まさにこの楕円思考を表している、と私は理解しています。この図では陽(白い部分)が優勢な時もあれば、陰(黒い部分)が優勢な時もある。しかも、どんな場合も、相対する陽と陰の和は同じです。相手の立場を認めながらも、自分を強く主張する場合もあれば、相手の立場を大いに評価して、しかし自分なりの主張は失わない場合もある。何事も、このような考え方で物事を捉えることが大切ではないかと思います。

最近、よく言われる多様性も、自分の対極、または対象にいろいろな物事を置いて見よう、ということです。対極を見ず、AかBか、いずれか一方だけを議論する二分法は最大の愚に陥ると思います。

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