J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年07月号

CASE 2 横浜ゴム 言葉が通じない環境で揉まれる配属前の2カ月半 新人研修で育む積極性とグローバル感覚

世界のタイヤメーカーとしてグローバルな展開を図る横浜ゴム。
同社では、半年間に及ぶ新人研修の一部に、海外の生産拠点でおよそ2カ月半を過ごすプログラムを設けている。その狙いとは。
海外研修の取り組みと効果を、体験談を交えながら紹介する。

廣川一八 氏 グローバル人事部 プランニング ゼネラルマネージャー
菊川倫太郎 氏 グローバル人事部 人材開発グループリーダー
和田憲明 氏 タイヤ国内REP営業部 消費財営業1課
宮下 雄 氏 グローバル人事部 人材開発グループ 兼 企画労政グループ

横浜ゴム
1917年創立。日本を代表するタイヤメーカーの1つ。先進的な技術と独自性の高い商品で、日本はもとより世界各国から高い支持を集める。「心と技術をこめたモノづくりにより、幸せと豊かさに貢献します」が企業理念。
資本金:389億900万円(2014年12月末現在)、連結売上高:6253億
円(2014年12月期)、連結従業員数:2万1441名(2014年12月末現在)

[取材・文]=田邉泰子 [写真]=編集部

● 背景1 駐在員候補を増やす必要

自動車用タイヤの製造・販売、工業用コンベアベルトやホースの製造、ゴルフ用品などを手掛ける横浜ゴム。タイや中国など海外にも製造拠点を構えるほか、ドイツやスペイン、ブラジルにも販売網を広げる。「海外売り上げ比率が高まる中、国籍に捉われない適材適所を実現する環境づくりを進める必要性も高まっている」とは、グローバル人事部人材開発グループリーダー菊川倫太郎氏の言葉である。

同じくグローバル人事部のプランニング ゼネラルマネージャー廣川一八氏は、早期からのグローバル人材育成の必要性をこう語る。

「海外拠点の拡大は急速なペースで進んでおり、海外に赴任する日本人駐在員の数が2005年から5年間で40人ずつのペースで増え続けています。しかし、だからといって社員数をただ増やせばよい、という話ではありません。国内だけでなく海外にも意識を向けられる人材を、私たちの手で育てる必要があります」─そこで、2009年からその導入として、新入社員全員を対象に、およそ2カ月半の海外研修が行われるようになった。

● 背景2 早期から海外への意識を育む

数十人の新入社員を、海外の現場に、それも一度に送り込むのは容易ではない。同社でも、海外で生活させることに対するリスクの大きさや、受け入れ側の拠点・工場の負担、コストなどを理由に、導入に躊躇した時期もあったという。しかし実施に踏み切ったのには、トップの強い意志が大きかった。

「以前から当時社長( 現会長兼CEO)の南雲(忠信氏)には、新入社員の段階から海外経験をさせたいという思いがありました。その必要性を強く認識していたことと、成長のチャンスは全員にあるため、早くから平等に与えるべきという思いがあったようです。また、駐在員や若手トレーニーなどの立場で日本人が実際に現地で働けているのだから、新人であっても問題はないだろうという判断からも、実施に至りました」(廣川氏)

● 背景3 「自ら考え行動する」経験

同社が海外研修を取り入れる背景が、もう1つある。それは、独自性を尊重する企業風土だ。

「2006 年から取り組む中期経営計画で掲げるビジョンの1つに『独自の存在感を持つグローバルカンパニーを目指す』というものがあります」(廣川氏)

もともと同社には、「他社がやっていないこと」に積極的にチャレンジできる雰囲気があるという。新しいアイデアを実践する時も、「とにかくやってみよう」という風土の中、社員たちは代々育ってきた。

「企業が『独自の存在感』を打ち出していくには、若手の柔軟な発想や意見を拒まずに受け入れることが大切です。そこで社員たちに『自分で考え行動を起こすような経験』を早いうちに積ませたい、という考えがありました。海外研修はその最適な機会といえるでしょう」(廣川氏)

● 概要1:研修先選定 一人ひとりの特性を踏まえる

では、同社の新人海外研修の概要とは。

この海外研修は、半年間にわたり行われる新入社員研修の一環である(図1)。4月の入社後、社会人としての基本姿勢から、国内の販売会社での販売実習、交代勤務を経験する工場での生産実習、そして語学研修などを含めた1カ月弱の渡航前研修の後、7月下旬から10月初旬にかけ、チームごとに研修先に向かう。

チームは事務系・技術系、および男性・女性混成で組む。実習先の規模により違いはあるが、1グループにつき8名前後で編成される。

研修先は生産拠点(工場)が原則。日本人によるサポート体制が敷かれ、生産活動が安定している現地法人を選定し、研修生の行動範囲は徐々に広げていくよう依頼している。現在は、アメリカ、タイ、フィリピン、ベトナムにある6つの事業所が研修を受け入れている。

「研修生は、現地の人とは英語または現地語を使って会話をします。意思疎通が難しい中、それでも自力でコミュニケーションを図ろうとする状況をつくり出すことに意味があるのです」(廣川氏) ─そのため、英語圏で生活してきた新入社員は、なるべくアメリカには派遣しないなど、工夫をしている。

ちなみに、研修先は、本人のキャリア観や興味、集合研修の様子や性格から判断し、グローバル人事部で決めている。

例えば、「日本人よりもパーソナルスペース(自分と周りの距離)が近い人が多い」(廣川氏)というタイには、人と打ち解けることを得意とせず、相手と距離をとってしまうような社員を派遣させる、といった具合だ。

● 概要2:事前課題と内容 「三現主義」を体感させる

研修の内容は、研修先に、「現地の人と共に働き、現地の文化を知ることができるプログラム」の企画を依頼。グローバル人事部から現地に対し、それ以上の細かい指示は出していない。この方法には、研修生のみならず、現地で働く従業員にもメリットがあると廣川氏は言う。

「アジアの工場は、日頃、日本からの指示や指導を聞く立場にありますが、研修ではその立場が逆転します。本社から来る新人を『私たちが指導できるんだ!』と、現地従業員のモチベーションアップにもつながっているのです」

研修生には、渡航前に主に2つの課題を与えている。1つは「個人目標の設定」だ。

「まず、自己分析やこれまでの自分の歩みの振り返りを行い、自身の強みや弱みを洗い出します。そのうえで目標を設定し、研修前後での『個』の変化に気づいてもらうことが狙いです」

もう1つは、「異文化理解プログラム」の企画立案である。チームごとに、研修期間中、現地で行う交流プログラムやコミュニケーションミーティングを企画して、現地に乗り込むのだ。ところが……。

「研修生たちが半ば気負い気味に企画を持ち込んでも、現地の人々の賛同を得られることは、まずありません。そこに実は、この課題の狙いがあるのです」(廣川氏)

いくら企画が優れていても、現場の人々の声に耳を傾け、尊重する姿勢がなければ受け入れてもらえない。「現場・現物・現実」を重視する「三現主義」の原則を、経験から学ぶことができる機会なのである。

● 体験談1 仕事以外から交流を図る

ここで、実際に海外研修を経験した社員2 名の話を紹介したい。まず1人目は、現在、タイヤ国内REP 営業部で働く和田憲明氏だ。2012年にタイの工場で2カ月半を過ごした。

タイ入りした和田氏が真っ先にぶつかったのが「言葉の壁」だった。

「タイ語はもとより英語も流暢に話せるわけではないので、もう何をどうすればいいか、わからなかったですね。工場の改善策を提案する課題を与えられていたのですが、最初はただ、工場をくるくると歩き回っているだけでした」

何かを提案するにしても、相手にされなければ仕方がない。親近感を覚え、かつ、こちらの話を聞いてもらえるような関係づくりをしなければと、和田氏はできることから現地の人との交流を図っていった。

「工場では大皿料理をみんなで囲みながら昼食を取っていたのですが、食事づくりをよく手伝いました。料理係の人に教えてもらいながら、毎日ソムタム(青パパイヤのサラダ)をつくっていました。帰国時には材料をつぶすのに使っていた石臼をプレゼントされたくらいです」

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