J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年07月号

OPINION3 ポイントは事前の準備と“遊び” アジアに駐在させる前に可能なメンタル・サポート具体策

早期にグローバル人材として育成した人を、いざ長期に海外派遣させる際に注意すべき問題の1つが、メンタルヘルスである。
昨今では特にアジア地域や中国に派遣される人が、うつ病などにかかりやすいと言われる。
果たして問題の所在はどこにあり、人事ができるサポートは。
日米中の企業と企業人に詳しい専門家が、その要因や提言を語る。

渡部 卓氏
帝京平成大学 現代ライフ学部 経営マネージメント学科 教授/
ライフバランスマネジメント研究所 代表


[取材・文]=楠本 亘 [写真]=編集部

若いうちにすべき海外経験

先日、教鞭を執っている早稲田大学で「将来、海外で働きたいか」と尋ねてみた。驚いたことに、希望者はおよそ半数しかいなかった。私の学生時代は、ほぼ全員が海外に憧れたものだが…… 。

人、モノ、カネとあらゆるものがグローバル規模で動く時代になった。好むと好まざるとに関わらず、これからの企業人はグローバルに通用するスキルと資質を持たねばならない。

大企業や官公庁はもちろん、中小企業でもグローバル化を意識して、スキルや語学、コミュニケーションの研修を積極的に行っているが、それらは文字通りの研修で、私に言わせるといささか“遊び心”に欠けている(詳細は後述)。

日米のグローバル企業で働き、中国の複数の大学で客員教授を務めたことから言えば、海外経験は若いうちに積むほうが有益だ。そして、内向きな若手を海外に誘うには、学びよりも前にまず“楽しさ”を伝えなければならない。「大変でしんどいけれど、すごく楽しい。そしてキミにも会社の成長にも有益なんだ」─そういったメッセージが求められる。

メンタルタフネス>語学

最近の若い人や企業の若手社員は、なぜ海外経験を積むことに慎重なのか。例えば、中国における日本人駐在員のうつ病リスクは、国内の実に3倍に及ぶ。心の不安定さからか、飲酒量も飛躍的に増えるという(MDnet調べ)。このような現実を社内外で見聞きするにつけ、「旅行で海外に行くのはよいが、仕事は国内で」と考える若手が増えているのかもしれない。

これも経験から言えば、海外に出て最も必要なのは、語学力でも本業のスキルでもなく、精神的なタフさだ。アジアの労働者たちは、日本人と比べれば「報・連・相」をないがしろにしがちだ。また、納期に間に合わないことを前日まで告げないといった人もいる。そうした考えや姿勢の違いを持つ彼らと交流していくのは、確かに一筋縄ではいかない。

日常生活でも、衣食住にまつわる衛生面の問題や、帯同した家族が現地になじめるか等の問題があり、公私にわたってさまざまなストレスにさらされることになる。海外駐在で最も必要なもの─それは強靭なメンタルなのだ。

地域で異なるメンタル問題

先述の通り、海外駐在時のメンタルヘルスは大きな問題だ。とはいえ派遣地域によっても傾向が異なる(図1)。

まず欧米では、駐在員のメンタルの問題がクローズアップされることは少ない。うつ病や、その予備軍とも言える「未病うつ」※1、「現代型うつ」※2等の“発症率”は、ほぼ国内勤務と変わらないだろう。

アジア勤務の場合、2つのケースがある。1つは、タイやシンガポールといった、親日的で従来から日本と経済や人的交流の歴史を持つ国だ。これらの地域では、メンタル面の問題は欧米と近い程度に考えておいてよい。

問題なのは2つめのケースだ。ビジネス面での難しさに加え、中国、インド、中東といった国々では、国家間の政治外交関係や宗教・文化の違い等も敷居となり、駐在員のメンタルヘルスに影響を及ぼすことがある。特に人口が多く、地理的にも近い中国(中華圏)で問題が深刻だ。

※1 未病うつ:うつ病として治療するほどではない状態、「Non-clinical depression」。渡部氏がロンドン大学キングスカレッジの宗未来医師との共著論文で初めて言及。

※2 現代型うつ:近年の20 ~ 30代の一部に見られる、仕事に対するうつで、医学的な定義はまだない。仕事以外の活動は比較的でき、他責の傾向が見られる。

中華圏の中でも差

「中国」といってもひと口には語れない。メンタル注意度の観点からは、大きく3つに分けられる。

影響が他の地域との比較で小さいのは香港、台湾である。これらのエリアでは以前から自由主義的な経済が行われ、駐在する日本人も多かった。いわゆる反日感情も、本土と比べると薄い。

次いで大連や瀋陽(シンヨウ)では、反日感情は根強いが、アウトソーシング先であることなど、ビジネスで日本と縁の長い地域だけにメンタル面への悪影響は少ないと言える。ただ中国でのコスト高からベトナムやインドなどへ拠点の移転を計画する日系企業も多く、その影響が多少出てきているようだ。

最も影響を被りやすいのが、人口も産業も多く、必然的に日本人駐在員も多くなる中国本土の3大都市、上海、北京、広州だ。特にケアが必要となるだろう。

ある不調のケース

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