J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年05月号

TOPIC−2 KAIKAカンファレンス2015 レポート KAIKA賞事例に学ぶ、組織の卓越性をつくる取り組み

2015年2月、東京で「KAIKAカンファレンス2015」が開催された。
前身の「HRD JAPAN」の企業の人事・人材開発の情報共有の場としての役割はそのままに、経営や事業に直結する課題にまでテーマを広げ、さまざまな企業の先進事例を担当者から直接聞くことができるイベントである。
今回は3日間・全29プログラムの中から、KAIKA賞の獲得企業による事例発表講演の模様を取り上げる。

開催日:2015 年2月18 日~ 20 日 
会 場:ベルサール八重洲(東京都千代田区)
主 催:一般社団法人日本能率協会

取材・文・写真/田邉泰子

KAIKA賞とは

「KAIKA賞」は、企業や団体をはじめとする組織活動における、表彰制度の中の1つだ。KAIKA(「個の成長・組織の活性化・組織の広がり(社会性)」を同時に高める活動を指した造語)のプロセスが認められ、かつ図1の基準を満たす組織に贈られる。

「KAIKAカンファレンス」では、多くの事例発表を見ることができるが、その中には、KAIKA賞を獲得した3社による、取り組みの概要を発表するプログラムも用意された。その一部を紹介する。

伝統継承とDNA醸成、そして進化する「新社員教育制度」~竹中精神を基盤とした社会との対話~

竹中工務店 人事室 能力開発部 部長 川井敏広氏 課長 松尾典之氏

「棟梁精神」の継承

「最良の作品を世に遺し、社会に貢献する」を経営理念に歩み続けてきた当社は、国内外の大規模建築物を数多く手がけてきた。そのルーツは、織田信長の家臣だった創業者が始めた神社仏閣の造営にある。そして当社の品質と技術は、「棟梁精神」の継承によって支えられている。

「棟梁精神」とは、棟梁としてお客様から全幅の信頼をいただき、構想・設計から施工、アフターフォローまで、全体で品質を保証する姿勢だ。協力会社を含めて多くの人の力が必要となる建築現場の中心を担う、竹中社員に根ざすべき精神といえる。

当社の人材育成は、棟梁精神の醸成を背景に、まずは一人前のプロになること、そのうえで管理者、経営者の視点を育むことを念頭に置いている。そして建築物という「作品づくり」を通じて、文化・社会・歴史への貢献と自己実現を図り、経営理念につなげていくという構造だ。

中でも、新入社員の育成はその後の成長過程に深く影響するので重視しており、新卒総合職を対象に1年間の「新社員教育制度」を設けている。1952年に導入された制度で、今年で63年目を数える。

1年間で3部門を経験

当社には「よい仕事がよい人を育て、よい人がよい仕事を生む」という考えが受け継がれているが、OJTは、「よい仕事がよい人を育てる」格好の場だ。

入社初年度は、4カ月ごとのジョブローテーションにより、原則3部門の職務経験を積む。さまざまな部門を経験することで、「竹中工務店の総合力」を体感するのが目的だ。そして、全員が当社の生産活動の根幹である作業所(建築現場)を必ず経験する。

配属先では、新入社員1人につき指導担当者を1人配置したマンツーマン指導が基本。指導担当者は新入社員と歳の近い、入社5年目以降の若手・中堅社員が担う。

指導担当者は、上司と相談しながら、自ら立案した教育計画に基づき指導する。新入社員の提出する日誌に目を通し、業務上の疑問点や悩みに対し必要なアドバイスを施すのも大切な役割だ。

とはいえ、指導担当者に全てを押しつけるわけではない。当社では「寄ってたかって」の気質が息づいており、職場ぐるみで新人の育成にあたる。

一方で、指導レベルの統一と配属先による指導のブレやバラつきを最小限に抑えるため、「履修項目チェックシート」の導入、配属先での課題設定とそのフィードバックの実施、年度末の修了試験の実施を徹底している。

主体性を磨く寮生活

また新入社員には1年間の寮生活を必須としている。

「よい人がよい仕事を生む」という考えに基づき、寮を「主体的に業務に取り組み、学びや働きがいを見出す姿勢を育む場」として位置づけている。共同生活を通じて多様性を養い、建築業で不可欠なコミュニケーション能力を養うことが狙いである。

2人1組の相部屋で、出身地や学歴、職種の全く異なる相手とペアを組み、4カ月ごとに交代する。

自治運営が原則で、全員参加のミーティングを毎週開き、寮のルールや生活について話し合う。寮内の委員会活動には、全員1つ以上参加が必須だ。さらに地域住民との交流の場として行われる「寮祭」も、企画から運営まで彼らで行う。

そして寮は「学びの場」としての位置づけも持つ。例えば、毎月開かれる「寮会」では、役員が1名ずつ寮を訪れ、分担分野の最新の取り組みや自身の経験談を講話する。

また近年は、グローバル人材の育成に向け、語学研修制度を設けている。通信教育を受ける通常クラスに加え、選抜クラスは外国人講師によるレッスンを寮で受ける。2011年からは、選抜で新入社員を海外の現地法人へ派遣する、「海外異文化研修」をスタートさせた。寮では仲間が努力する姿を目の当たりにするので、互いに切磋琢磨し合う関係が生まれる。

また寮内には「歴史資料展示室」があり、自社の伝統と歴史をいつでも体感できる環境が整っている。

60数年にわたり「新社員教育制度」を続けてきた理由には、経営理念と「モノづくり」に対する考えが根底にあるだろう。当社独自の「棟梁精神」の醸成には、最初の1年の基盤づくりが非常に重要である。そして、その重要性を経営層のみならず、社員たちも自らの経験から深く理解している。

これまでも、社会環境の変化に応じて指導内容をブラッシュアップし続けてきた。しかし、「建築にかかわる人々の想いを作品に結実させ、世の中に価値を創造していくこと」は、当社にとって普遍的なテーマであり、それに基づいた人材育成の手法が「新社員教育制度」に集約されているのである。

「学ぶ責任」「育てる責任」が創る“最強の職場”

三井住友海上火災保険 人事部 部長(能力開発担当) 沼田健美氏

「役割イノベーション」

2001年に当時の三井海上火災保険、住友海上火災保険の合併により誕生した当社。2010年にはあいおいニッセイ同和損保と経営統合し、国内最大規模、世界でも十指に入るメガ損保グループ「MS&ADインシュアランスグループ」が発足した。現在、約1万9000人の社員を擁する当社で2011年から続くのが、「役割イノベーション(役割イノベ)」から「Be プロフェッショナル forall」へと続く一連の役割変革プロジェクト(図2)である。

「役割イノベ」は、全ての社員が新たな役割にチャレンジし、「働きがい」と「成長」を実感できる会社づくりを進める全社的な取り組みである。社員レベルでは、業務領域の拡大や質の向上を図り、組織の目標達成に貢献すること、また組織レベルでは生産性と競争力を高め、ミッションを達成するための行動を自分たちで考え、実践してきた。部支店長、課支社長を推進責任者に置いて、各現場の環境や状況に応じて主体的に進められていることが、大きな特徴といえる。

導入当初は多くの社員が戸惑いを感じていたが、トップの経営に対する危機感は強く、強力な旗振りのもとにスタートした。

収益力強化のための改革

この取り組みを導入する前の2009年当時、損保業界は危機的状況にあった。リーマンショックの影響を受け、日本の各企業が生産拠点を海外に移すほか、個人消費では住宅着工件数が大きく減少した。すると、当社の主力商品である火災保険などの「モノ保険」の契約数は伸び悩み、さらに若者のクルマ離れもあり、自動車保険や自賠責保険にも大きな影響が出た。

当社にとって収益力強化は最重要課題であり、全社員が業務領域を拡大させ、生産性と競争力を強化する必要に迫られていたのだ。

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