J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年04月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 育てたいのは、20年先を見て 自分と組織を変えられる人

2020年までに売上高を現在の約3000億円から5000億円に拡大し、創薬型製薬企業として成長するというビジョンを打ち出した塩野義製薬。
その実現のために、どのような人材を求めているのか。
そして、その人材をどのように育成しているのか。
同社の手代木功社長に聞いた。

手代木 功(Isao Teshirogi)氏
塩野義製薬 代表取締役社長

生年月日 1959年12月12日
出身校 東京大学薬学部
主な経歴
1982年4月 塩野義製薬 入社
1987年より二度、計7年間の米国勤務
(ニューヨーク1987~1991年、ノースカロライナ1994~1997年)
1997年1月より秘書室長、経営企画部長等を歴任
2000年 薬学博士号取得(東京大学)
2002年6月 取締役 就任
2004年4月より常務執行役員、専務執行役員と
して、医薬研究開発本部長、続いて4本部(研
究・開発・製造・営業)管掌
2008年4月 代表取締役社長 就任
現在に至る

他の主な兼務
2010年7月~ 大阪商工会議所 副会頭
2011年5月~ 2014年5月 日本製薬工業協会 会長
2014年5月~ 同協会 副会長

塩野義製薬
1878年創業、1919年会社設立。「常に人々の健康を守るために必要な最もよい薬を提供する」という基本方針のもと、医薬品、臨床検査薬・機器などの製造・販売事業をグローバルに展開。
資本金:212億7974万円、連結売上高:2897億1700万円(2014年3月期)、連結従業員数:6165名(2014年3月31日現在)

インタビュー・文/赤堀たか子
写真/西山輝彦

15年先を見てしなやかに対応

──中期経営計画「SGS2020」で、「創薬型製薬企業をめざす」と宣言されました。このビジョンを描かれた理由を教えてください。

手代木

その背景には、先進国、新興国で異なるニーズがあります。

今、先進国では、高齢化の進展に伴い、限られた社会保障でどう医療を支えていくかが課題になっています。一方、新興国では、安価な薬をどれだけのボリュームで提供していけるかが課題です。

このようにニーズが地域で全く異なれば、1つの製薬企業で対応することは難しい。そこで当社は、自社の得意分野とスケールを踏まえ、新しい薬を開発していくことで会社の付加価値を上げていく道を選んだのです。

──目標実現に向けた戦略の柱の1つに、人材育成を挙げていますが、求める人材像とは。

手代木

私が社長になってからの7年間だけでも、リーマンショックやヨーロッパの経済危機、地政学的なリスクに端を発した世界の揺らぎなど、大きな変化が相次いで起こっています。こうした激しい環境変化の中で求められるのは、社会にアンテナを張り、自分なりに状況を受け止めたうえで、守るべきところは守りつつ、柔軟に対応すべきところは柔軟に対応するケイパビリティ※です。

社会の流れの中で、会社や患者様の求めるものは変わっていくため、そこに対応できる柔らかさ、しなやかさが必要になるのです。

例えば、各国の財政状況が変われば保険財政が変わり、保険財政が変われば、医療に対してどれだけ償還できるかも変わってきます。一方、医薬品は開発に15年といった長い時間がかかります。したがって、将来起こりうる変化を読んだうえで、研究・開発を行っていかなければ、薬ができた時にはすでに時代遅れということになってしまいかねません。

※ケイパビリティ:能力や知識・知恵・対応力などを複合的に表す言葉。「活用可能性」とも訳される。

しなやかさのカギは“関心”

──社会の変化と関連づけて、自社の研究・開発を見続けていかないといけないということですね。

手代木

そうです。強みの分野をこつこつ鍛え積み上げてきても、10年、20年経った時に、それが必要とされているかどうかはわかりません。ですから、常に社会の変化を見ながら、自社の研究・開発の方向性を見直していく柔軟性、しなやかさが求められます。

そのためには、社員一人ひとりが常にアンテナを張って勉強し続けることが重要です。従業員には2020年、2030年のありたい姿に対して、今自分がしている仕事が将来に対して価値ある仕事であるかを問い、仕事を変容することに対しても柔軟に考えてほしいと言っています。会社の方向に自分のストレングスを合わせていく。そういった行動変容の中で、自分なりに試行錯誤をして取り組んでほしいのです。

私は3カ月に一度、全社に向けてメッセージを発信していますが、その中で、「去年と同じ質と量の仕事をしていたら評価を下げざるを得ない」と伝えています。環境が変わっているのに前と同じことをやっていたら、それは“現状維持”ではなく、“退化”であり、それが会社の危機を招くこともありえます。

実際、世の中を見ても、好調だった会社がある日突然、逆風に見舞われることは珍しくありません。著しく変わる環境には、行動変容を通して対応していかなければならないのです。

もう1つ考えているのは、それぞれが自社に関心を持つことです。

組織には、自部門以外のことは知らないし、興味もないという人も残念ながらいますから、これを改めなければならない。当社では、部門間の交流の場を設けている他、社長メッセージでも年に2回、各バリューチェーンについて説明し、自部門以外の部門への理解を促しています。他部門のことがわかれば、会社に対する関心も高まるでしょうし、そうなれば、全社的な視点で物事を考えるようになってくるでしょう。

次世代を鍛える「社長塾」

──そうしたボトムアップの取り組みに加え、次世代リーダーの育成にも力を入れているとのこと。

手代木

はい。まず、以前は執行役員になっても部門代表でしかなく、全社視点で経営が見られないという課題があったため、私が社長になってからは、無理のない範囲で本部長を入れ替え、執行役員であれば、最低2つの本部の本部長を経験してもらうようにしています。このことで、営業本部長は元生産本部長、生産本部長は元営業本部長、信頼性保証本部長は元開発本部長という具合に、多くの本部長が、未経験の部門をマネジメントするようになり、執行役員として全社的な視点が持てるようになってきました。

加えて、次の執行役員候補の育成のために、3年前から「社長塾」を開催しています。これは、各部門の本部長が次の本部長候補として選んだ7名を、私が1年間かけて鍛えるというものです。

社長塾では、例えば「新興国経済についてどう思うか」「人口が80億人になった時の全世界の医療制度についてどう思うか」といったテーマを与え、各人が考えた内容を発表させ、そのロジックや説明スタイル、プレゼンの構成などを一人ひとり鍛え直しています。

大体1セッションにつき4、5時間かかりますから、終わった後は、私自身も消し炭のようになります(笑)。

これを1年間に7、8回行い、修了者には卒業証書も出しています。

社長塾の目的は、勉強したり、仲間と鍛え合う習慣をつけることなので、真価が問われるのはむしろ卒業後です。卒業から1年ほど経った頃に抜き打ちでテストするなど、学ぶ習慣が定着しているかを確認しています。

ちなみにこの社長塾は、私にとってもいい学びの場になっています。1回4、5時間ものセッションをするには、こちらも勉強しなければなりません。また、自分のメッセージがしっかり理解されるよう、伝え方にも工夫が必要です。大変ですが、これも自分の成長の機会だと思い、取り組んでいます。

なお2013年度からは、社長塾以外に、本部長、執行役員が運営する「経営塾」も始めており、ここで育った人を社長塾でさらに鍛えることで、常に人材が育つ環境をつくっていきたいと考えています。

──社長塾を3年運営された手ごたえはいかがですか。

手代木

個人差があり、これを機にひと回りもふた回りも大きくなった人もいれば、その時だけだった人もいます。

社長塾で指示された以上の課題をやった人は、課題の捉え方から課題へのアプローチまで、取り組み方が身につき始めています。また、自分の教わったことを若い人たちに教えている人もいますが、彼らは、教えることが自分のためになることを理解しているのでしょう。そういう取り組みをしながら上に上がってくる人材は、間違いなく執行役員、本部長になっていくと見ています。

マネジャーには、物事を深く考える知力が求められますが、同時に、物事をやりとげるための体力と、継続できる強い精神力も必要です。その意味で社長塾の受講生は1年間、現業との両立に苦労し、社長の罵倒にも耐えながら卒業するため、体力、精神面でも非常に鍛えられています。

求めるリーダー像は変わる

手代木

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