J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年01月号

HRD JAPAN 特別対談 「目に見えないものを見る力」 真山 仁 小説家 × 船川淳志 グローバル インパクト 代表パートナー

2010年9月10日HRD JAPAN 3日目に、長年グローバル化について提言を行ってきた船川淳志氏がホストとなり、
小説家・真山仁氏を迎えた。グローバル化に課題を抱える現在の日本に対して、両氏が鋭い提言を行う。

真山 仁(まやま・じん)氏
小説家。1962年、大阪府生まれ。同志社大学法学部卒業。中部読売新聞(のち読売新聞中部本社)記者を経て、フリーランスとして独立。2004年、企業買収の世界を赤裸々に描いた『ハゲタカ』でデビュー。近著に『ベイジン』『プライド』など。
船川 淳志(ふなかわ・あつし)氏
(株)グローバルインパクト 代表パートナー。慶応義塾大学法学部卒業。東芝、アリコ・ジャパン勤務の後、アメリカ国際経営大学院(サンダーバード校)にて修士号取得。米国で組織コンサルタントとして活躍後、グロービスのシニアマネジャーを経て独立し、現職。

「昨日といっていることが違う」と文句を言った小学生時代

船川

真山さんの作品には、現在も日本企業にとっての大きな課題であるグローバル化に関して、本質的な示唆が含まれています。今日はその点を伺いたいのですが、最初になぜ小説家になったのか簡単に聞かせてください。

真山

子どもの頃から小説を読むのが大好きだったのですが、そのうちに小説が世の中を変える力を持っていると気づき、高校時代には小説家になると決めていました。新聞記者になったのも、ジャーナリストとしての経験を積み、小説家になるための準備をするためでした。

もともと、みんなが右を見ている時に左を見るような天の邪鬼な性格で、小学生の時には「昨日といっていることが違う。いうことを変えないでほしい」と先生に文句をいったことも。後から呼ばれて、「ああいうことは私1人にいってほしい」といわれたりもしました(笑)。

船川

日本で異を唱えるのは大変です。それをそんな小さな頃からできたのは、なぜだったのでしょうか?

真山

単純に、正しいことはみんなで共有すべきだと考えていたんだと思います。今小説を書くうえでも、「常識を疑う」ことは、大切なテーマの1つです。

『ハゲタカ』では目に見えない大切なものを描きたかった

船川

『ハゲタカ』には非常に鋭いセリフが多いのですが、たとえば主人公の鷲津が「世の中には目に見えている以上に重要な、見えていないものがあるということです」といいます。

これは我々があまりにも目の前のことにとらわれてしまい、大切なことを見失ってしまうという警鐘かと思いましたが、真山さんご自身はそのような視点はどうやって養ってきたのでしょうか?

真山

取材では「それは誰がいったことなのか。あなたが自分で見たことなのか。それとも誰かから聞いた話なのか」を非常に意識して確認します。世の中には伝聞の事柄が非常に多く出回っており、意識してそのフィルターを外していかないと、見誤ってしまうのです。

どうも日本人は、“信じたい”傾向があると思います。非常に均質化した社会なので、生きていくうえで、周囲を無条件に信じて同質化することが楽だし必要だったからです。

平穏な時代や右肩上がりの時代には、それでも良いのですが、そうでなくなった時には、信じているだけではやっていけません。自分で考える力、疑う目が必要になる。その点が、今、日本人に一番足りない部分だと思います。

船川

それはまさに「見えていない大切なもの」ですね。ただどうしたらそういった「疑う目」を持つことができるのでしょうか?

真山

まずは、違和感を持ち続けることが大切です。「あれっ?」と思うことや「そうかなぁ」と思ったことが、誰でもあると思うんです。そうした小さな違和感を見過ごさないことから、見えないものを見る目が養われるのではないでしょうか。

違和感を言語化するには「聞く力」が必要

船川

通常は違和感を持っても、「まぁいいか」「いっても仕方ないか」などと思って、いつの間にか忘れてしまいます。しかしそこを踏みとどまって、言語化していくことが大切なのかもしれません。

真山

もう1つ最近よく思うのですが、若い記者やフリージャーナリストと話していると、彼らの多くがすぐ「わかります」というのです。「ええ、そうですよね」「その感じ、わかります」と、盛んに繰り返して相手に同調します。

でもこれは、取材じゃないんですよ。本来取材というのは、「本当にそうですか?」「今、こうおっしゃいましたが、それはどういう意味ですか?」と、クエスチョンを出し続けなければならないものです。

ところが相手に嫌われたくないからか、安易に相手に同調してしまう。

ですから違和感を言語化するためには、言葉の力も必要ですが、聞く力が重要なのだと思います。「この人はこういっているけど、なぜなんだろう」「本当にそうだろうか?」と、疑問を持ち、それについて聞こうという気持ちを持つ。それだけでも違ってくると思うのですが。

船川

いわゆる、日本の“わかりますカルチャー”ですね。わかっていないのに「わかる」といってしまう。問題なのは、わかりますといっている間に、本当にわからなくなってしまうことです。

真山

あとで原稿になってから、がっかりすることが少なくありません。「どうしてあの時“わかりません”といってくれなかったのかな」と思います。ですから最近「わかります」という相手には、「何がわかっているんですか?」と聞き直すようにしているんです。

取材というのは相手に寄り添って話を聞くためにするものなのですから、ぜひ「なぜですか」と聞いてほしいですね。

船川

なるほど。寄り添うために、「わかりません」と敢えていうと。その通りですね。

その意味では、本来「わかります」といっていたのは、相手に寄り添いたかったからなのかもしれません。同調したい、寄り添いたい。ところがそれが、むしろ逆に働いているわけですね。

目に見えないものを扱うことが不安で仕方のない人々

船川

現在の日本を見ていると、現実に向き合わず、時代の変化に背を向けてしまっていると感じます。それはなぜだと思いますか?

真山

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