J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2011年01月号

Column マザーハウスの人づくり

1人の若き日本女性が「途上国にある良いものや人に光を当てたい」と考え、2006年、行動を起こした。アジア最貧国に向かった彼女は、その国の人たちの労働に正当に報いる方法として、ビジネスを始めた。その実態はまさに、「日本的」モノづくりと人づくりである。

マザーハウス
2006年3月、山口絵理子氏の「途上国にある良いものや人に光を当てたい」という強い思いが、バングラデシュでのバッグ生産と、日本国内での販売という形で実現し設立された。「途上国から世界に通用するブランドをつくる」ことをミッションとして、その活動をアジア各国に展開中。
文/増田 忠英、写真/マザーハウス提供

途上国から世界に通用するブランドをつくる

そのバッグを欧米や日本のあるブランドのものだと紹介されても、何の疑問も抱かないだろう。しかし、タグを見ると、「メイド・イン・バングラデシュ」であることがわかる。

アジア最貧国といわれるバングラデシュ。現地に工場をつくってバッグを生産し、日本で販売し、人気を集めている新進気鋭の会社がある。その名も「マザーハウス」。2006年、代表取締役社長の山口絵理子氏が24歳で設立し、副社長の山崎大祐氏(2007年に経営に参画)らと成長させてきた会社だ。

途上国では、多くの企業がその安い労働力を利用して、低コストでの大量生産を目的に進出している。しかし、マザーハウスは現地の人と、人と人として対等に向かい合い、彼・彼女らの創造性を刺激しながら、一からモノづくりに取り組む。山口氏は、「バングラデシュ(や途上国)の人々は、先進国の人が思うよりももっと能力を持っている」と、現地の人へ絶対の信頼と、愛情を持って接する。そうして、現地工場から日本でも通用する、質の高い製品を生み出すことに成功している。そんな同社の成長の背景には、「日本的」といえる人づくりが垣間見える。

途上国の現状を知り現地ビジネスを考案

マザーハウスでは、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」ことをミッションに掲げている。このミッションには、「途上国にある良いものや人に光を当てたい」という強い思いが込められている。

大学で開発学を学び、途上国の開発援助に携わる仕事がしたいと考えていた山口氏は、米国の国際機関のインターンとして、ワシントンで働く機会を得る。しかし、途上国の状況を知らないままに援助政策が行われている現実に違和感を感じ、自分の目で現地を見ようと、中でもアジア最貧国といわれるバングラデシュを訪れる。そこで、「ただただ生きるために、生きていた」貧しい人々の姿に衝撃を受けた山口氏は、「ここで自分にできることを探そう」と決意し、現地の大学院に進学。2年間の生活を通して、汚職が横行し、世界各地からの寄付や援助が、本当に必要としている人々に届いていない状況を目の当たりにした。「もっと健全で持続的な協力の方法はないものか」――山口氏が考えに考えて導き出した答えが、「途上国の資源を使い、途上国で、先進国にも通用するモノづくりを行う」ということだった。「バングラデシュの工場の多くは、海外のバイヤーから安いものを大量生産することばかり求められています。そして、そこで働く人々は、劣悪な労働環境の中で、うつむきながら仕事をしている。でも、ここで働く人たちにも、もっと大きな可能性があるのではないかと感じたのです。彼らが誇りとプライドを持ってモノづくりにあたり、先進国のお客様に商品として提供する。この活動なら、現地で働く人々の頑張りが正当な利益になって報われますし、国際競争力のある商品を途上国から世界に展開することができれば、経済の構造はきっと変わっていくはずだと考えたのです」(山口氏、以下同)

山口氏が資源として注目したのが、バングラデシュが世界の輸出量の90%を占める天然繊維のジュート(麻の一種)。耐久性や通気性が高く、コーヒー豆を入れる袋などに利用されてきた。

「バングラデシュの特産品である、このジュートを使い、バッグをつくろう」

そう考えた山口氏は、アルバイトで貯めた僅かなお金を手に、自らの考えるバッグを作ってくれる工場をバングラデシュで探し始める。自らのビジョンを一生懸命説明するものの、端から相手にされなかったり、サンプル作りの料金を前払いした工場に逃げられたりするなど、約半年にわたり苦労を重ねた末、「君の夢にかけてみよう」といってくれた工場長と出会うことができた。

現場でともに働き現地スタッフの意欲を高める

生産工場が決まると、次は商品の品質を向上することと、それを可能にする人材の育成が必要だった。

というのも、バングラデシュで作られていたバッグは、そのままでは到底日本で通用する品質ではなかった。品質や顧客満足とは全く無縁の工場で、日本でも受け入れられるレベルのモノづくりを実現するために山口氏が最初に取り組んだことは、工場で働く現地の人々の意識を変えることだった。

もともと、バングラデシュでは、採用面接に応募してきた人の半分が来なかったり、雇用しても突然働きに来なくなってしまったりということが、どの企業の工場でもよくあった。労働への意識が、日本人とはだいぶ異なるのである。

しかし、山口氏は工員を信じ、自ら現場に入り、職人たちと一緒にバッグを試作する毎日を続けた。会話を交わしながら、相手の気持ちを理解するとともに、品質の良し悪しや、バッグを使う顧客のことを考えるといったことを直接伝えていった。

「多くの外資企業のバイヤーは、ただ指示をするだけで、生産現場をまったく見ようとしません。工場を探す中で、そうした姿をいくつも見てきました。それが反面教師になってよかったのかもしれません。私は現場で、皆と同じ目線で作業しながら皆と同じ気持ちになり、打ち解けることをまず心がけました」

それでも、当初は「何でできないの!」などと、よく声を荒げていたという。しかしそれでは、工員たちのモチベーションは上がらない。そこで、心に寄り添い、声をかけることにしたのだ。

たとえば、モチベーションの低いスタッフがいれば横に座り、同じ仕事を一緒にやってみる。そして、「何これ、すごく難しい!

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:2,342文字

/

全文:4,683文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!