J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年01月号

Opinion Column 日本の人づくりの原点を探る 宮大工流・人材の育て方

ここまでグローバル時代で通用する日本の強みについて紹介してきた。そこで明らかになったのが、日本人は、人に対するケアができる、協調性がある、相手を思いやるといった世界に通用する強みを持っているということだ。そうした強みが生まれた源泉とは何か……。伝統を重んじてきた宮大工の世界での人材育成から、日本の人づくりの原点を探る。

菊池 恭二(きくち・きょうじ)氏
社寺工舎 代表
岩手県遠野市出身。中学卒業後、家大工の修業を始める。21歳から伝説の宮大工、西岡常一棟梁の元で社寺建築を学び薬師寺金堂・西塔の建立に携わる。1990年社寺専門の工務店、社寺工舎創業。棟梁として多数の社寺の建立や文化財建造物の保存修理を手がける。

取材・文・写真/高橋 美香

6年間のお茶出しが今の自分の財産

社寺建築の魅力に惹かれ、家大工から宮大工への転身をめざしたのは21歳の時のこと。薬師寺で金堂が建立されるという情報を聞き、身一つで薬師寺を訪れたのだった。そこで見たものは、建築途中の金堂。「こんなにも荘厳な社寺を建てる棟梁はどんな人なのだろう」と身震いしたのを今でも覚えている。

本坊で尋ねたところ、この工事が西岡常一棟梁の担当だと知る。西岡棟梁は、「伝説の宮大工」と評されていた人物。西岡棟梁のご自宅へ訪問し、無理を承知で薬師寺金堂の建立に携わりたいと申し出たところ、その場で薬師寺への紹介状を書いてくださり、宮大工としての第一歩を踏み出すことができたのだった。

西岡棟梁の元で働いて一番勉強になったことは何かと聞かれるといつも答えるのが「お茶出し」の仕事だ。お茶を出すのはいつも社寺建築の中枢ともいえる「原寸場」。ここは棟梁や副棟梁が仕事の進捗確認や打ち合わせをする重要な場所であり、通常ならば若手の職人はそう入る機会がない。私はお茶を出しながら棟梁から副棟梁への指示の出し方、ミスの軌道修正の仕方など、あらゆる話を若手でありながら直接見聞きすることができた。今思えばこの時、西岡棟梁に付きっ切りで「棟梁学」を学ばせてもらったのだと思う。

教えないことが最高の「覚える環境」

私がお茶出しを通して棟梁に必要なことを学んだように、昔から宮大工の世界では、弟子が先輩や師匠の後姿を見ながら仕事を覚えてきた。端的に表すならば、私は宮大工の人の育て方の基本は「教えない」「待つ」「考えさせる」ことだと考えている。西岡棟梁の元で働いていた時、よく棟梁から「何でも質問しろよ」といわれたのだが、いざ質問すると「どう思う」と逆に質問されてしまう。知らないことを聞くだけでは、正解を教えてもらえないのだ。

棟梁になった今、私も弟子たちに同じように接している。わからないことに個別に答えるのではなく、他のことと関連付けて考えるからこそ、自分の知識として定着していくのだ。

それに、「知りたい」「覚えたい」という、うずうずする気持ちは、貪欲に学ぼうとする意欲につながる。自発的に学ぶのと与えられた学びでは、理解や記憶の度合いが全く異なる。あえてやり方を丁寧に教わらなくても、先輩の仕事を盗み見て、真似してみて、さらに自分なりのやり方を加えてみる……。その積み重ねで、一人前の職人に成長できるのだ。

共同生活が人を育て鍛える

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