J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年01月号

Opinion対談 グローバル時代における「日本的」の意味を問う

これまで日本企業の強みとされてきた、「人づくりの力」。今後、グローバルな舞台において、その強みはどのように発揮されるのだろうか。また、課題はどこにあるのか。人材マネジメントの教育研究で第一線に立つ一橋大学大学院商学研究科教授守島基博氏と、中央大学大学院戦略経営研究科の特任教授であると同時に、現在外資系金融機関の人事実務に携わる中島豊氏に、それぞれの立場から話を伺った。

守島 基博(もりしま・もとひろ)氏
一橋大学大学院商学研究科 教授
1982年慶應義塾大学大学院社会学研究科社会学専攻修士課程修了。1986年に米国イリノイ大学大学院産業労使関係研究所博士課程修了、組織行動論・労使関係論・人的資源管理論でPh.D.を取得し、カナダ・サイモン・フレーザー大学経営学部助教授。1990年慶應義塾大学総合政策学部助教授、1999年同大学大学院経営管理研究科教授を経て、現職。主な著書に『人材マネジメント入門』『人材の複雑方程式』(いずれも、日本経済新聞出版社)など。
中島 豊(なかしま・ゆたか)氏
中央大学大学院戦略経営研究科特任 教授
1984年東京大学法学部卒業後、富士通に入社。その後、富士通経営研究所、国際人事を経験する一方で、ミシガン大学ビジネススクールに留学、MBA取得。リーバイ・ストラウスジャパンに転職。以後、ゼネラルモーターズ、ギャップジャパンの人事部長、2006年に楽天の人材本部長、シティグループ証券の人事部長を歴任。2006年、中央大学大学院総合政策研究科総合政策専攻博士後期課程修了。博士(総合政策)。現在は、外資系金融機関に勤務すると同時に、大学院戦略経営研究科特任教授。

取材・文/西川 敦子、写真/吉田 庄太郎

丁寧な「人のケア」が育てるローカル人材

―― 本日は、グローバル化が進む中で、どうしたら日本企業が、日本的な強みを生かせるかというテーマで対談をしていただきたくお集まりいただきました。

中島

この問題を考えるうえで、まずは何が「日本的」なのか、単純な比較論では語れないことを認識しておいたほうがいいのではないでしょうか。

日頃、私たちは「向こうに比べて日本はこんな点が弱い、こんな点が強みだ」などといいがちですが、この場合の「向こう」というのはつまり主として米国のこと。グローバル化といっても、向こう側とこっち側の二元思考をしていたに過ぎないんです。1980年代の国際化(インターナショナリゼーション)の時代から進歩していない。

一方、香港やシンガポールのビジネスパートナーと話していて気づくのは、彼らが多元思考の持ち主だということ。欧州、米国、アジアを同時に見ている。二元思考から多元思考に切り替わると、単純な優劣がなくなります。それぞれが違うわけですから。そうすると簡単に自国の強み、弱みを口にしません。

守島

私も「日本的」という言葉を久しぶりに見たという気がしています。現在多くの日本企業が直面している経営のグローバル化とは、過激なたとえかもしれませんが中国の「文化大革命」のようなものなんです。それほど大きく変化しなければならない。そのため、今後を考える上では今、

中島

さんがおっしゃったような視点を踏まえたうえで、何が「日本的」な強みなのか、再考する必要があると思います。

中島

日本的という定型のものがあるわけではないでしょうね。

守島

そうですね、これから、日本企業がグローバル経営に移行するうえで、日本のノウハウやシステムのうち、強みとして活かせるものと活かせないものがある、と考えるといいのではないでしょうか。

それらはすべての業種において機能するものではないでしょうし、またグローバル経営に移行する過程で、ある段階では強みになり、ある段階では弱みになるというものかもしれません。

そういう前提を踏まえたうえで、人材グローバル化の問題を検証するなら、大きく分けて3つの論点が挙げられると思います。

①外国人社員、特にボトム層のグローバル化。②中堅層における次世代グローバル人材育成。そして最後に③トップ層のグローバル化です。

中島

まず、①ボトム層のグローバル化について言えば、日本企業の伝統的な育成ノウハウは、1つの強みになると思います。

きめ細かなケアによって内部労働市場を育て、企業の人的資源を確保していく知識やノウハウは、日本企業が伝統的に持つ強みといっていい。

特にチームワークが要となる自動車などの製造業や、ホテル、銀行窓口といったサービス業では、こうした日本型の育成力が物をいいます。

守島

たしかに、1人ひとりの育成という点では、日本企業は非常に優れているんですね。新卒入社の若者を、まるで植物を育てるかのように丁寧にケアする。

たとえばコマツのグローバル人材ポリシーは、生まれ育った国や地域、宗教・信条を問わず、すべての従業員をフェアに扱う、というもの。ファクスを送る時なども、日本語版より先に現地語版を送るそうです。

そうした小さな心遣いを積み重ね、ローカル人材を尊重した環境の中で育成するのは日本企業の特徴です。

コミュニケーションの壁さえ越えられれば、このノウハウはローカル人材のマネジメントにも有効に働くはずです。だから、外国人留学生を採用すると、すっかり日本びいきになることも多いようです。

中島

新卒を採用して現場でじっくり育てるのが日本流ですが、欧米企業ではこれが理解されないことが多い。なぜわざわざ戦力にならない新卒を育てるんだ?

手間がかかってしょうがないじゃないか、と。日本企業の意識とは、大きなギャップがありますね。

ただ新卒採用は守り通すべきだと思います。米国のように大学卒業後、ビジネススクールに行く余裕のある人しかホワイトカラーの仕事に就けなくなると、極端な二極化が進んでしまう。

守島

私も新卒採用には賛成ですね。現場に人を育てる意識が根付いている日本の強みでしょう。

香港など外部労働市場ができている国では、せっかく育てても中国企業や欧米系の企業にすぐヘッドハントされてしまうのが残念ですが。

中島

日本では外国人に対する差別意識も比較的薄くなったと言えるんじゃないでしょうか。ダイバーシティー活動が浸透したおかげで、異分子を排除する風潮もここのところだいぶなくなりました。

守島

外国人社員側の日本に対する理解も深まっている。「飲めばわかりあえるよ」という日本式の文化も浸透しているようです。

ダイバーシティー・マネジメントの要は、実はこうした個人レベルの付き合いにあったりします。

中島

1980年代、日本企業が強かった時代に、米国では日本の組織の研究が盛んになりました。

こうした研究の成果、つまり異文化適応をちゃんと学んだうえで、日本企業に入社する外国人社員が増えているんでしょうね。

ただ、日本の企業は内部労働市場を確保することには長けていますが、すべての産業でこの強みが当てはまるわけではありません。

守島

モノづくりとかホスピタリティ産業などといったサービス業はいいが、製造業でも、部門同士のすり合わせが難しい自己完結型の生産現場では事情が違う。ホワイトカラーでも、ジョブディスクリプションが明確になっている職場も同様です。業種や職種によって、グローバル人材のマネジメントは変わるわけです。

中島

特に1人の社員の貢献が組織全体にインパクトを与えるような分野では内部労働市場における日本独自の強みが機能しません。たとえば、システム開発会社などでは、特定のカリスマエンジニアの功績で莫大な利益が生まれたりしますね。こうした産業では、外部労働市場からいかに優秀な人材を獲得するかが問われますから。

人事制度のひずみがグローバル人材を枯らす

―― 具体的に、日本企業が直面する、グローバル時代の壁とは何でしょうか?

守島

例外があるとはいえ、日本企業ならではの企業内人材育成の強みは、グローバル人材を育成する上でも、ある程度、機能します。

心配なのは人事制度が抱える“ひずみ”ですね。かつての年功序列の名残りがあるから、働き盛りの世代はまだまだ給与が低い。若い外国人社員はなかなか給与が上がらないので、どんなに日本びいきでも嫌になって辞めてしまう。

昔の日本企業が持っていた年功序列や育成の仕組みが、今は弱みになっているということですね。

中島

しかも1990年代以降、早期退職制度が定着し、終身雇用の前提は崩れています。

必要なのは、働く人それぞれの価値観に合わせた仕組みではないでしょうか。

同じ若手でも、人の回転が速い投資銀行やコンサルティングファームに入り、3、4年で1000万円超える年俸を手にする人もいる。かと思えば、待遇は低くていいから、もっと安定した人事制度の会社で長く勤めたいという人もいる。そうした多様性を見極めることが大切です。

守島

人材グローバル化はダイバーシティー対応の問題と密接につながるんですよ。そのため、個人対応だけでなく、システムのダイバーシティーを実現しなければ。

これが結構難しいんです。外国人だけでなく、日本人を含めた多様な人材に対応していくダイバーシティー施策が必要と言えますね。

中島

そういう問題を含め、今こそ雇用や人事管理のシステムを全面的に考え直さなければいけないわけですが、企業の人事部には人事制度をゼロから作り上げた経験を持つ人材が、現役世代にはいません。

今の世代は既存の制度を改善することで問題を乗り越えてきたため、ゼロから制度設計をしよう、という発想になかなかならない。

守島

今、人事制度は戦後から2度目の転機を迎えようとしている時です。1度目は年功主義から能力主義への転換が進んだ1960年代。その次が今です。

たしかに、かつて職能資格制度を作り上げた時のような思想家、インテレクチュアルリーダーはいなくなりましたね。

グローバル化時代の人事制度改革は、既存の制度を総取り換えする覚悟が必要です。これまでとはまったく違った思想を取り入れなければ難しいのですが――。

ミドル崩壊が広げるグローバルな波紋

―― 次に中堅層における次世代グローバル人材育成についてです。課題となるのは?

中島

②のミドルのグローバル化は今、非常に大きな問題に直面していると思います。職能ピラミッド構造での真ん中の部分に当たる仕事が、現在、どんどん海外にシフトされている。あるいはIT化され喪失してしまっている状態です。

守島

ミドル層自体が弱体化しているということですね。

大きな歴史の流れからいうと、日本ではバブル崩壊をきっかけに、ものすごく採用を絞った時期が続いた。要するにボディの部分がやせ細っているという現状です。

中島

そう、今の中堅層は、ずっと下っ端の仕事をしていたため、ミドルとして育っていないんですよね。

守島

だから海外にも出せない。結果として起きているのが、海外派遣員の「たらい回し現象」です。

10年以上前に派遣された支社長クラス、つまり中堅層よりちょっと上の人たちですね、彼らが世界中の拠点をひたすら回らされていて、なかなか日本に帰れない。

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