J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年01月号

Opinion 協調性という日本人の強みに、個性とロジックを

通商産業省、JETRO、日欧産業協力センターに籍を置き、2010年には上海万博日本政府代表と、万博参加国議長として主催国中国とさまざまな折衝を行い、まさにグローバルに活躍をしてきた塚本氏。その氏に、グローバル人材に必要な要件と、海外にも通用する日本人の強みを聞いた。

塚本 弘(つかもと・ひろし)氏
日欧産業協力センター事務局長/上海万博日本政府代表
1946年滋賀県生まれ。京都大学法学部卒業後、通商産業省入省。大臣官房企画室長、大臣官房審議官(地球環境問題担当)などを歴任。2002年から5年間JETRO副理事長を務めた後、2008年から経済産業省顧問。上海万博において、各国代表が意見を交わす上海万博総代表連席会議では、議長として活躍。
取材・文/木村 美幸、写真/今駒 菜摘

相手を“察する”能力は世界に誇れる日本人の資質

私が事務局長を務める“日欧産業協力センター”では、将来の日欧関係を担う優れた人材を育成するために、日本とEU諸国の理工系の学生を相互に派遣し合う1年間の企業インターンシップ・プログラム「ヴルカヌスプログラム」を行っている。グローバル時代における、これからの“日本的人づくり”について考えるに当たり、このインターンシップ・プログラムを通じて、日頃私が感じている日本人と欧州の人々との相違点からお話ししよう。

まずは、日本人留学生がEU諸国の企業で働く場合。初めから自分の専門分野の研究開発部門に配属される留学生もいるが、ほとんどの企業は、1年間受け入れる学生向けの仕事があるわけではない。そんな時、日本人学生の多くは、専門分野にこだわらず、自らが置かれている状況を受け入れた上で、何ができるか考えるようだ。そして“日本に対するビジネス・プロモーションを手伝う”“日本からの来客の通訳をする”など、専門分野以外の仕事を見つける人が多い。

一方、日本企業に派遣されたヨーロッパの学生たちからは、同じようなケースについて、「自分の専門分野を生かせる部署に配属されていない」といったクレームを受けることがとても多い。

また、彼らを受け入れている企業の担当者からは“我々とはだいぶ発想が違い、まずは自分のことを大事にする”“時として、自分勝手過ぎる印象を受ける”といった声も聞く。もちろん「チームワークを重んじる、こういうやり方が日本流なのだ」と教えれば彼・彼女らもきちんと理解し、最終的には充実したインターンシップ生活を終えてそれぞれの国へと帰っていくのだが。

これはどちらが優れているということではない。ただこうした例から、日本人の良さを考えると、常に相手のことを考えながら物事を進めることができるという特徴を持っているといえる。黙っていても相手の気持ちを読み取る力に長けているのだ。“察する”という言葉を完璧に表現できる英単語がないことからも、こうした資質が日本人ならではのものだということがわかる。この長所はとりわけ、今後ますますウエイトが高くなるサービス産業において、大きな強みになることは間違いない。日本人が持っている“おもてなしの心”は、他国の人たちにはなかなかマスターできないものなのだ。

何事も自分自身を出発点にし、そこから発想していくヨーロッパの人たちと、相手と自分との関係性の中でいかに力を発揮するかを懸命に考える日本人。それぞれに良さがある。

グローバル化とは、さまざまな人が入り交じり、どこでも同じになることではない。多様な人が入り交じり、それぞれの場所の良さを生かしてやっていくことをいう。海外の人たちを受け入れたうえで、日本では日本の良さを生かしてやっていくことが大事ではないか。

日本とは異なる教育を受けた人々とともに働く

昔から日本社会では、相手の気持ちを察するとともに、不必要な口論をできるだけ避けるために、あえていわなくていいことは口にしないのが美徳とされ、それによって多くの物事がスムーズに運んできた。この美徳は素晴らしいものだし、ぜひこれからも維持すべきだと思う。

しかし、今後グローバルなビジネスを展開する中で、諸外国の人たちとさまざまな折衝を行っていくことを考えると、日本人にはたくましく自己主張をしていく力が必要となる。

そのために絶対に欠かせないのが、ロジックを持って議論していくこと。つまり自分が考えていることを、できるだけ明晰な形で相手に確実に伝えることが不可欠で、そこでは“自分”あるいは“個性”というものが中心になる。自分を中心に据えたうえで、相手ときっちりディスカッションしていく、これが国際社会における極めて基本的なマナーだ。

日本人の長所である“協調性”を大切にすると同時に、自分自身の個性やロジックも大事にする。言葉でいうのはたやすいが、1人の人間としてこの両方を備えていくことは決して簡単ではない。中には社会人になる前に、すでに両方を持ち合わせている人もいるが、それは非常に稀。多くの場合、それぞれの企業の中で、ある程度の時間をかけて育てていくしかないだろう。

日本人にとって、自分の個性やロジックに磨きをかけることと同時に、もう1つ重要になってくるのは、「欧米諸国の人たちは、子どもの頃から日本人とは大きく異なる教育を受けてきている」という事実をしっかり理解することだと考える。

日本語の「教育」は英訳すると「Education」だが、その元となっている「Educate」という単語には“人の能力を引き出す”という意味がある。つまり欧米での教育は“教える”のではなく、“引き出す”のだ。

何を引き出すのかといえば、その答えはずばり個性。各々の子どもや学生が持っている個性を引き出していくというのが、欧米の教育の基本なのである。その根底には、欧米社会での常識――人はみな顔形が違うように、性格も好みも違う。これは人間として何よりも大切にしなければいけない、というものがある。

そこで、アメリカなどでは小学校に上がると必ずスピーチの時間があり、そこで「私はこういうふうに考えます」という話ができるようにトレーニングされるわけだ(もちろん、すべての生徒に対して、計算や読み書きなどの基礎的なスキルを教え込み、一定のレベルまで導いていく日本の教育も、それはそれで非常に重要であることはいうまでもない)。

これからグローバルな環境の中で、さまざまな国の人たちとつながっていこうと考えているなら、私たちが相対するのは、このように幼い頃から「個性を大切にすること」「ロジックを磨くこと」を徹底されてきた人たちなのだ、という明確な認識を忘れてはいけない。

日頃から自分の個性を大切にすることを習慣に

私は1980年代半ばに、日本貿易振興機構・アジア経済研究所の調査員としてロンドンに赴任していた。その時、身を以て感じたのが、イギリスの人たちが最も軽蔑するのは“自分の考えがなく、何でも他人と同調する人(Conformist)”だということ。

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