J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2010年11月号

自ら考える頭をつくる世界基準の言語技術

三森 ゆりか(さんもり・ゆりか)氏
つくば言語技術教育研究所 代表取締役
東京都に生まれ、中学・高校の4年間を旧西ドイツで過ごす。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、丸紅に勤務。1990年に「つくば言語技術教室」(現「つくば言語技術教育研究所」)を開設、所長を務める。
取材・文・写真/石原 野恵

世界の共通基盤言語技術とは

「国際競争に勝てる自律型人材の育成を」――現在多くの企業が人材育成の目標として掲げている言葉だろう。大学が「レジャーランド化」してしまい、大学生がレポートを書けず、議論できなくなっているのだから、そこから入社してくる若手の考える力や書く力が低いのも当然だ。企業での英語公用化を推進する以前に、より根底から現状の問題を解決するには、私は英語ではなく母語教育が重要だと考えている。

それも、単なる母語教育ではない。「言語技術(language arts)」を幼少時から習得させることが最も重要である。言語技術とは、“自ら考える頭をつくるための教育”である。具体的には、体系的なカリキュラムを用いて、聞く、読む、書く、考えるためのスキルを指導する。そうすることでものの見方や考え方を身につけさせ、他者が理解しやすいように表現するための方法論を身につけさせる。ここで、言語技術の方法論について説明しながら、ビジネスパーソンにとっての言語技術の重要性と、その習得方法を述べたい。

レトリックから始まる世界の母語教育

言語技術は、欧米を中心とした諸外国で指導されている。そのため、言語技術はフレームワークとして機能し、多くの国々がものの考え方や読書技術、表現技術を共有している。

言語技術を知ったのは、旧西ドイツでの経験がきっかけである。私は、中学から高校にかけての4年間、父の仕事の都合で西ドイツの外国人受入校に通った。そこで自分が授業についていけないことに非常にショックを受けた。

西ドイツの授業は、科目を問わず、教科書や資料を読んで議論し、考えを文章にまとめることがベース。日本にいた頃私は、作文が得意だと自負していた。ところが、私が得意だったのは「感想文」。ドイツ人の教師からは「印象を述べるのではなく論証しなさい」と指摘されたが、論証とは何かも、どうすればよいのかもわからず、授業で求められていることが理解できなかった。

学校には北中米や欧州、アラブ、アジア、アフリカなど、各国から生徒が集まっていたが、出身国で言語技術教育を受けてきた友人たちは、授業で発言し、議論にも加わることができた。ドイツ語のレベルは私とそう変わらないのに、である。言語技術という共通基盤を持っていると、言語レベルが低くても方法論を共有しているため、議論に参加できるのだ。

ビジネスの文脈でも、言語技術は即戦力となる。このことは、大学を卒業後、商社に勤務して、東ドイツの公団と自社との交渉の議事録を翻訳する仕事に就いた時に痛感した。その際、議事録の書き方や交渉の仕方はすでに西ドイツで習っていたと気づいた。また、日本の大手商社の社員が、東ドイツ人との交渉についていけないという事実にも直面した。私が西ドイツ時代に学んだように、国際社会では、交渉の際には証拠に基づいて相手と議論を重ねていくことが基本だが、日本人はそれができていなかったのである。

そこで私は、西ドイツに限らず、世界各国に共通する言語教育のフレームワークが存在するのだという結論に至った。

各国で行われる母語教育は、どのように発想し、整理し、提示するかというレトリックから出発している。これが「言語技術」である。日本の国語教育は、その共通基盤から遠く隔たれている。それがビジネスや学問の世界において無視できない影響力を持つのだ。

日本の国語教育と言語技術の隔たり

日本の国語教育と、グローバルスタンダードの言語技術に基づく母語教育には、問題解決のプロセスに対する考え方の違いがある。

日本の教育全般においては、問題と正解が直結している(下図)。たとえば日本の国語の問題では、小説の一部を抜粋し、「この時登場人物はどう感じていたか」といった設問があり、解答の選択肢が並んでいる。解答の理由や背景、すなわち解答に至るまでのプロセスは問われない。したがって、選択肢から正解を導き出す方法を知っていれば、たいして考えなくても正解が導き出せる。

対して、世界各国で行われている教育は基本的にプロセス重視だといえる。情報から何を読み取り(読む、聞く)なぜそう考えるのか、その根拠はどこなのかを考えさせ、そしてそれをわかりやすく人に伝える(話す、書く)ための訓練を幼少時から徹底的に行っているのだ。

この言語技術のフレームワークが、認知・思考・表現方法における共通基盤として機能している。そのため多くの国々で人々がこのフレームワークを駆使して議論や交渉をすることになる。この時「英語」は、単に共通の言語としての働きを持つだけなのである。

また、言語技術の方法論は、外国語を学ぶ際にも活用できる。これは、言語技術を知らなければ、たとえば英語の学習もままならないことを意味する。英語を母語とする国々では、英語=言語技術だからだ。

したがって、国際的な競争力が必要とされる今、まずは日本の母語教育でも言語技術の訓練を行うべきだと私は主張したい。とはいえ、学校教育にこのカリキュラムを全面的に組み込むことは難しい。そこで私は現在、塾の形式で、子どもたちに言語技術の習得を指導している。

何を読み取り、どう論理的に伝えるか

言語技術の指導内容の例として、P46上図のドイツの母語教育カリキュラムを見て欲しい。この図はドイツのものだが、言語技術の方法論としては世界でほぼ共通しており、私は日本語でも同様の流れで訓練をしている。中身を一部紹介する。

①「書く」訓練

言語技術の訓練では、発達段階に応じて作文の書き方を順序立てて指導している。その作文も、日本の国語の授業で行われているように、ただ気持ちや印象を書く指導とは異なる。物語を読み聞かせて、その内容を自分の言葉で記述し直す「物語の再話」から始まり、「要約」、「説明文」、「議事録」、「小論文」と段階を踏んで書く技術を習得させる。

たとえば「説明文」の訓練では、図形や部屋の中など、空間の順序を認識し、相手に伝える方法を教える。通常、時系列での説明は日本人でもできるが、空間の順序は難しい。空間は、概要から詳細へと絞って描写することが基本になるため、物事の関係性の中で、何が概要で何が詳細かを把握していないと説明できない。

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:2,500文字

/

全文:5,000文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!