J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2010年10月号

企業事例(書く①) トヨタ自動車 書く機会を通じて仕事の流儀を育む

さまざまな伝説を生んでいる「トヨタ流企業改革術」。その1つに「A3用紙1枚」の文書作成法がある。あらゆる社内文書をA3用紙、あるいはA4用紙1枚でまとめ上げるという独自の手法は、果たしてどんな狙いに基づいているのか。「A3用紙1枚の筆力」を上げさせ、若手の仕事力を伸ばしている同社のノウハウとは。その具体像を聞いた。

中島 哲氏
東京総務部長
トヨタ自動車
生産・販売世界首位の日本を代表する自動車メーカー。創業以来「モノづくりを通じて、豊かな社会づくりに貢献する」ことを理念に掲げ、時代をリードする革新的かつ高品質な製品とサービスの提供により、社会の持続可能な発展に努めている。
資本金:3970億5000万円(2010年3月末現在)、売上高:18兆9509億円(2010年3月期連結)、従業員数:32万590人(2010年3月末現在連結)
取材・文/西川 敦子、写真/髙岡 隼人

A3用紙1枚が秘める仕事哲学

書く力を、さらにいえば仕事力そのものを「A3用紙1枚」で育てる──。数々の伝説を持つ「トヨタ方式」だが、中でも今、さまざまな企業が注目するのが、「A3プロセス」「A3マネジメント」、あるいは「問題解決シート」などと巷で呼ばれる文書作成方式。報告書や企画書などの文書をA3用紙、またはA4用紙1枚にまとめるというものである。

数十年にわたり、この方式を文化として定着させてきたトヨタ自動車。いったいなぜ「A3用紙1枚」なのか。その狙いと極意を同社東京総務部長中島哲氏に伺った。

「誤解されがちなのですが、最初からA3用紙に企画や報告書をまとめていくわけではないんですよ」

取材冒頭からこう断った中島氏。「A3用紙1枚」は、いわばゴールであってスタートではない。課題を発見し、その原因と解決法について調査、分析、熟考し、結論を導き出すという、長いプロセスの末に至る“結果”なのである。

同時にそれは、トヨタ流仕事術を実践するためのノウハウでもある、と中島氏。後述する通り、社員は入社後の研修でまず、「トヨタの問題解決の進め方」として、A3用紙1枚にこのプロセスをまとめることを習う。中島氏は次のように続ける。

「『A3用紙1枚』の基盤となるのは、トヨタのモノづくり精神を表した『トヨタウェイ』。連結で全世界に約30万人いる従業員が、同じ価値観を共有するために2001年に策定しました。キーワードは『Challenge(チャレンジ)』『Kaizen(改善)』『GenchiGenbutsu(現地現物)』『Respect(リスペクト)』『Teamwork(チームワーク)』の5つ。

少し解説を加えると、Kaizenとはご存知のように、現場の従業員がボトムアップで行っていく業務改革。GenchiGenbutsuは、『机上で議論、判断するのではなく、現場に赴いて現物を見て問題解決をしよう』という意味です。また、Respectには、お互い尊重し合いつつも、個人がそれぞれの責任を果たす、という哲学が込められています。

これらは決して絵に描いた餅ではなく、全員が共通の仕事の仕方、「トヨタの問題解決」として身につけ、絶えず仕事の現場で実践されていなければなりません。『A3用紙1枚』はそのための道具。いわば、トヨタウェイに基づく問題解決のプロセスと結果を仕事に落とし込む手段といっていい」

どうやら「A3プロセス」とは、単なる文書形式を指すものではなさそうである。とはいえ、どうして文書の書き方がChallengeやKaizen、Respectといった企業フィロソフィーに結びつくのだろうか。

8つのステップで仕事力が育つ

その理由は、A3用紙1枚で書く際の基本パターン「8つのステップ」の説明を聞くうちにはっきりしてきた。8つとは以下の通りである。

1.問題を明確にする2.問題をブレイクダウンする3.達成目標を決める4.真因を考え抜く5.対策を立てる6.対策をやり抜く7.結果とプロセスを評価する8.成果を定着させる

問題を明確にする:

日常業務の中で「何かがおかしい」と気づいたことをすくい上げ、「本来どうあるべきなのか」をイメージして、そのギャップ(=問題点)をはっきりさせる。

問題をブレイクダウンする:

大きくて曖昧な問題を層別具体化して、自ら取り組める問題を決め、現地現物で問題点をプロセス上から特定する。

達成目標を決める:

自ら解決する意志を込め、定量的・具体的・挑戦的な目標を定める。

真因を考え抜く:

ブレイクダウンした問題の原因を突きとめる。表面的な要因分析にとどまらず、現地現物で事実に基づいて「なぜ」という問いを繰り返すことで、根本原因『真因』にたどり着くようにする。

対策を立てる:

真因を解決し、目標を達成するため、できるだけ多くの対策案を洗い出し、付加価値の高い対策に絞り込む。「誰が、いつまでに、何をするか」といった具合に、内容だけでなく、期日や責任の所在も明確にして、関係者のコンセンサスも得る。

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