J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年11月号

企業事例2 対話と経験の振り返りから 管理職が学ぶメンタリング

住友スリーエムでは、課長職までの全社員を対象にメンタリングプログラムを実施。社員の自主性を重視した制度だが、メンタリングを単なるキャリア相談の場としてとどめず、自主的な学びの機会とするために、人材開発部門がサポートする独自の工夫をしている。管理職は、メンティとして相談することも、メンターとして相談に乗ることもある。この双方の立場での学びが、管理職が日常的に学ぶうえで大きな役割を果たしている。

太田 至彦 人財開発部 部長

住友スリーエム
1960年創業。米国の3M社と住友電気工業の出資する化学メーカー。自動車関連、電子機器関連、建築関連といった産業分野から、生活関連分野、ヘルスケア分野まで幅広い分野にイノベーションを提供している。
資本金:189億2927万円、売上高:2385億円、社員数:2918名(いずれも2010年12月末日)

取材・文・写真/石原 野恵

課長職も対象のメンタリングプログラム

企業での学びは、研修や自己啓発だけではなく、経験の振り返りと対話によっても起こる。その一例が、住友スリーエムで実施されているメンタリングプログラムだ。メンタリングとは、国際メンターシップ協会の定義によると「特定の領域において知識、スキル、人脈などの豊富な人(メンター)がそうでない人(メンティ)に対して成果と意欲の両面において、ともに学びながら一定期間継続して行う支援行動全体」のことを指す※1。日本企業では、新入社員の育成や、女性管理職登用のための支援策としてメンター制度を導入することが多い。経験の浅い社員(メンティ)が、豊富な経験を持つメンターと個別に話ができるため、一人ひとりのキャリア支援や、実務に即したアドバイスの機会として有効とされる。また一般的に、メンター制度を設けた場合、管理職はメンターになることがほとんどだ。管理職自身がメンタリングを受けられる仕組みを持つ企業は多くはない。その点、住友スリーエムのメンタリングプログラムは、メンティの対象を課長職まで広げている点が特徴的である。また、課長職の場合、自分がメンティになることも、メンターになることもできる。この両方の立場からメンタリングに関与することが、同社の管理職、特に課長職層の社員にとって貴重な学びの機会となっているのだ。

住友スリーエムにおけるメンタリングの変遷

同社のメンタリングプログラムが現在の形になるまでには、いくつかの変遷があった(図表1)。初年度の2002年はダイバーシティ促進を目的として行われ、6名の女性社員をメンティとし、役員等がメンターを務めた。当時の成果について、人財開発部長の太田至彦氏は次のように話す。「当時から、メンター・メンティ双方に良い効果があったようです。メンティからは、経営トップの考え方を知ることができた、キャリアのヒントをもらったなどの声が、メンターからは、女性がキャリア上のどういう点で悩みを持ちやすいのか理解することができたといった感想がありました」(太田氏、以下同)その後も同プログラムは順調に参加人数を増やしながら実施されてきたが、2005年にダイバーシティ促進を目的としたメンタリングはいったんの区切りを迎える。そして2007年、メンタリングプログラムの方法を大幅に改定。メンティの対象を拡大し、新入社員を対象とした「プログラムA」と、入社3年目から管理職層(課長)までの全社員を対象とした「プログラムB」に分けて行うこととなった。「社内でメンタリングの認知を高めることと、より育成に主眼を置いた体制に変更することを目的とした変更です。メンタリングの対象者も、受けたい人全員に門戸を開く形にし、メンターは立候補した社員になってもらいました。それを人事がペアリングしていたのです」

メンターの質向上で学びの質を上げる

2009年にはさらに制度をブラッシュアップし、現在も実施されている形に変更した。ここではプログラムBを中心に、管理職にとってどのような学びに役立つのかを見ていく。「まず取り組んだのは、メンターの質の向上です」と話す太田氏。具体的には、メンターを役員による選抜制にした。課長職以上の社員から、リーダーとして優れている人、育成の観点を持ってメンティに関与できる人を役員が選出する。育成に積極的、もしくは定評があるリーダー層をメンターとして選出することで、メンタリングを単なるキャリア相談の場で終わらせず、きちんと育成につなげることができる。選出された100~170名の社員は、社内イントラネットにプロフィールを公開。メンティがそのリストを見て、メンタリングを受けたいと思った社員に自らアプローチする。そこでペアリングが成立したら、1年間、月に1回、対面でメンタリングを受けることになる。人事がマッチングせず、よりメンティの自主性が重視されるようになったことが大きな変更点だ。「そもそも本来のメンタリングは、自分が師事したい人に自分でアプローチする主体的なものであるはず。米国の3M社では、人事が介入せずにメンタリングが行われていたこともあって、より自主的なスタイルをめざしました」メンタリングの成果はメンティ側の意欲によって大きく左右される。メンティ側が、学びたい、何とかしてキャリアのヒントを得たいと思っていない限り、育成にまではつながらないのだ。「メンタリングを申し込む際には、必ず動機を聞かれますので、それによってはペアリングが成立しない場合もあります。月に1回の時間を自分より上位階層の方に割いてもらうわけですから、メンティにはそれだけの意識が求められます」したがって、メンタリングで話される内容もメンティ次第で異なる。初日のスケジューリングも、メンティから声をかけるまでメンターは何もしないというルールがある。そうでないと、メンターが一方的に自分の話したいことを話して終わってしまう可能性があるからだ。こうしたルールやメンタリングの手順については、事前のオリエンテーションでメンター・メンティ両者に伝えられる。2002年の開始当初から、ガイドラインを明確にし、メンタリングの目的や方法を丁寧に伝えてきた。メンター向けのトレーニングも実施し、主に傾聴などのコミュニケーションスキルを伝えている。実際の運用に当たっては、人事はほぼ関与しないが、事前段階できちんと目的と手法を教えることによって、メンタリングの経験がより質の高い学びとして活かされるように場を整えているのだ。「大切なのは、メンタリングをしたいのは誰なのか――メンタリングはメンティの自主性によって成り立つという原則に立ち返ることです。本当に学びの場とするには、メンティの自主性と、育成の場であるというメンターの意識が重要だと考えています」この仕組みで、2010年度は38組のメンタリングが行われた。うちメンティとして参加した課長職は約3割で、次のような感想がある。●仕事に対する考え方、捉え方で学ぶことがあり、実際にそれが業務につながっている。●自身の環境の変化についてアドバイスをもらえ、マネジメント側の考え方として参考になった。

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