J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年11月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 顧客と一人の人間として 真剣に向かい合う社員は 組織の温かな絆が生む

東京海上日動システムズは、東京海上日動火災保険をはじめとする東京海上グループのIT戦略を担うシステム会社だ。社員間のつながりを醸成する「コミュニティ活動」や競争しない人事評価制度など、「毎日行くのが楽しい会社」をめざす取り組みはどれもユニークで、IT業界における能力開発、組織づくりのモデルケースとして高く評価されている。全社員を優秀なSEとして育成し、世界一の保険システム会社をめざしたい、と語る横塚裕志社長に、人づくりにかける想いを聞いた。

東京海上日動システムズ 代表取締役社長
横塚 裕志(Hiroshi Yokotsuka)氏
生年月日 1951年3月18日
出身校 一橋大学商学部
主な経歴
1973年4月 東京海上火災保険(現・東京海上日動火災保険) 入社
2004年10月 IT企画部長
2006年7月 東京海上日動システムズ 代表取締役社長就任
2007年6月 東京海上日動 常務取締役
2009年6月 東京海上日動 常務取締役 退任(東京海上日動システムズ 代表取締役社長に専任)
現在に至る

東京海上日動システムズ
1983年9月設立。「技術に心を乗せてお届けします」という理念のもと、国内最大級のシステム開発を手がける。東京海上グループ各社とパートナーシップを組み、システムの開発から安定的な運用までトータルなソリューションを提供している。資本金:5000万円、売上高:172億8460万円(2011年3月期)、従業員数:1444名(2011年4月1日現在)

インタビュアー/井上 佐保子 写真/太田 亨

温かい気持ちと本質を見極める力

――「働きがいのある会社2009」(GPTW主催)では9位、また第22回能力開発優秀企業賞(日本能率協会主催)の本賞に輝くなど、貴社の社員の働きがいの創出と能力開発への取り組みは高く評価されています。そんな貴社の人材に対する基本的なお考えをお聞かせください。

横塚

当社は、保険会社の業務をITでサポートするシステム会社です。顧客である保険会社とその代理店に喜んでいただくのが我々の仕事の目的。そのために当社社員として必要な要素は2つあると思っています。1つは、温かい気持ちでお客様のことを考えられることです。システムというものはお客様に使っていただくためにあるわけですから、お客様のことをどれだけ考えられるか、ということがいい仕事につながります。だから、一人の人間として温かい気持ちで「お客様のサポートをしたい」と、心の底から思えること、それがSEとしての仕事の原点です。

――「温かい気持ちでお客様のことを考える」――そうした気持ちはどこから生まれてくるものでしょうか。

横塚

お客様のことを温かい気持ちで考えるためには、まず、こちら側の気持ちを温かくしておかなくてはなりません。これは経験として知っていることですが、社内に組織の溝があって、トゲトゲした冷たい関係でいる時に、お客様に対してだけ温かく接する、ということはできないものです。自分のチームやコミュニティが温かい絆で結ばれている状況があってはじめて、お客様のことも温かい気持ちで考えることができるのです。ですから当社では、社員の気持ちが温かくなるような場をたくさんつくり出すことに力を入れています。

――社員として必要なもう1つの要素とは何でしょうか?

横塚

お客様にとって何が大事なのか、本質的な意味を考えられることです。我が社の企業コンセプトは「『技術に心を乗せてお届けします』~お客様にありがとうと言われるために~」なのですが、お客様から「ありがとう」といわれることは、実はとてもハードルが高いことです。なぜかというと、要望通りにやっただけでは、お客様に「ありがとう」といっていただけないからです。品質が良く、止まらないシステムを作るということは大前提。そのうえで、お客様に「ありがとう」といっていただくには、お客様のご要望をよく聞き、「本当に実現したいことは何か」を深く考え、「こうしたら、より本当にやりたいことに近づけるのではないでしょうか」と提案し、それが実現した時なんです。我々はこれを「要求開発」と呼んでいます。お客様自身気づいていない本質的な要求を見極め、「ありがとう。これがしたかったんです」といわれる。それこそがSEの醍醐味ではないでしょうか。そのためには、「“うち”としてはここまでしかできない」などと、組織の中の一人として考えるのではなく、いかに人間の素になって温かい気持ちで「お客様のサポートをしたい」と考えられるかどうか。やはりここが、いい仕事ができるかどうかの大きなポイントになってくると思います。

社長と新人が同じ情報を持っているのが理想

――では、SEとして持つべき資質、仕事に対する姿勢を醸成するには、何が大切だと思われますか?

横塚

3つほどあります。1つめは、なんといっても、社員が自主的に「横のつながりを持つ」ことです。弊社ではたくさんの「コミュニティ活動」が行われています。コミュニティとは、部活動のように、同じ興味や問題意識を持つメンバーが部門を超えて集まり、活動する会です。IT新技術の勉強会から、スポーツ、食べ歩きの会まで、現在、社内には200~250ものコミュニティがあり、組織、年齢、性別、肩書に関係なく、さまざまな人が活動を通して交流しています。活発なコミュニティ活動を通して育まれた協力し合う風土が、仕事をするうえでも、互いに助け合う姿勢につながっていくように思います。2つめは「情報の共有化」です。いい仕事をするためには、正確で豊富な情報が必要。全社員が自分で考えて判断する、そのためにも情報は全員で共有するほうがいい。私は社長と新人が同じ情報を持っている、というのが理想だと思っています。そこで今、社員用のポータルサイト内に「オープンテラス」というサイトを開設し、全役員の書き込みを、全社員とシェアできるようにしました。私を含めた役員は、「今日はこんな会議に出席し、このことについてこう考え、こう判断した」といったことを、毎日のように書き込んでいます。社員に対してダイレクトに情報が届くので「あの会社の取り組みは面白そうだぞ」と書き込めば、翌週には誰かが「早速、見学を申し込みました」と書き込んでくれるなど、反応が速いですね。また、これは情報だけではなく、価値観を共有するツールでもあります。たとえば「『お客様のことを一番に考えた結果、納期が遅れてしまった』といっていた○○さんのことを僕は褒めたい!」などと書けば、大事にしたい価値観をさりげなく伝えることができ、社員の意思決定の質を上げていくことにもつながります。これは、漢方薬のようにじわじわと、いつの間にか効いてきます。3つめは「人事制度」。温かい気持ちでみんな仕事を進めていける人事制度、ということを考えた時、成果主義人事制度というのは全く合いません。成果主義というのは、個人が目標を立ててその目標を達成したら給料が上がり、達成できなければ給料は下がる。これでは温かい気持ちは生まれません。しかも、チームとして働く中では、一個人の成果が全体のパフォーマンスに大きく影響するというものでもない。弊社では、常に300ものプロジェクトが動いていて、約1450名いる社員全員がいずれかのプロジェクトにかかわっています。どの案件もお客様にとって重要な案件で、失敗は許されない。1割の社員だけが飛び抜けて仕事ができるからといって、我が社の仕事は進みません。だからエースは要らない。めざすところは、「全社員のモチベーションが高い状態」です。みんなが温かい気持ちで仕事に取り組み、それぞれが自分のベストパフォーマンスを発揮できれば、いい仕事は増えていく。それこそが、組織、チームとしてのパワーを最大化するということだと思っています。

――では、プロジェクトのリーダーや職場の管理職の方々に期待することはなんでしょうか。

横塚

チームメンバーのモチベーションを上げるということでしょうか。最近、リーダーシップというものの質が変わってきているような気がしています。昔は「俺についてこい」といったスタイルが多かったものですが、今はチーム全員で考え、チーム全員で決める、というスタイル。リーダーから一方的に指示されてやるよりも、モチベーションが高まり、仕事も進みます。リーダーはそれを見守り、困ったことがあれば相談に乗る、一緒に考える、といったスタンスです。

――そうしたリーダーを育成するために注力されていることにはどんなことがありますか?

横塚

チームビルディング研修を、もう3年ほど行っています。外部からもアドバイザーや講師の先生をお呼びし、ほとんどのチームがそうした研修を受け、その成果を披露する発表会なども行っています。チーム全体のオペレーションをどうやっていくか、ということをチーム全体で考えるための研修なのですが、そこには当然リーダーもいるわけで、リーダーシップ研修でもある。リーダーだけを集めてリーダーシップ研修を行うよりも、リーダーを交えつつ、チーム単位でチームビルディングを考えていくほうが、組織全体としては強くなるように思います。

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