J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年12月号

中原 淳の学びは現場にあり! 第12回 世界に誇る伝統工芸の技を受け継ぐ  江戸切子職人たちの学び

江戸切子の制作、販売を手掛ける華硝は、その製品が洞爺湖サミットで各国国賓への贈り物として用いられる、江戸切子のトップブランド。その工房を支えるのは若い職人たち。一人前になるまで10年はかかるという職人の世界にあって、次々と若い職人が育つ現場の秘密を探ります。

中原 淳(Nakahara Jun)
東京大学 大学総合教育研究センター准教授。「大人の学びを科学する」をテーマに研究を行う。共著に『リフレクティブ・マネジャー』(光文社)など多数。
Blog:http://www.nakahara-lab.net/blog/Twitter ID:nakaharajun

取材・文/井上 佐保子 写真/真嶋 和隆 イラスト/カワチレン

伝統工芸の工房は注文殺到で大忙し

まばゆいばかりの光を放ちながら鮮やかに浮かび上がる文様が美しい江戸切子は、江戸末期に始まったカットグラスの伝統工芸です。江戸の技を今に伝える東京・亀戸にある江戸切子の店華硝の小さな工房の中では、何人もの職人さんが忙しく手を動かしています。壁にはたくさんの注文用紙が貼られ、ガラスを削るグラインダーの音が常に響き渡っています。華硝では、工房の直営店とホームページでしか江戸切子を販売していませんが、モダンで洗練された独自のデザインは海外でも人気が高く、国内外から注文が殺到。日本企業が海外進出する際の贈答品として用いられることも多く、注文が次々と舞い込みます。そのため、生産体制が追いつかず、受注生産に近い状態になっているそうです。「単に日本の伝統工芸というだけでなく、世界に通用するデザイン、技術を兼ね備えた一流の工芸品として認められている結果だと自負しています」とは、社長の熊倉隆一さん。それを支えるのは、ご子息の熊倉隆行さんと、20代・30代の若い職人たちです。伝統工芸の技は職人たちにどのように伝えられているのでしょうか。熊倉社長と、現場を取り仕切る熊倉隆行さんにお話を伺いました。

江戸切子職人の新人の仕事

まずは、美しい江戸切子がどうやってできるのか、その制作過程をご説明しましょう。1.割り付け素材となる色被せガラス(内側が透明で外側に色がついているガラス)に、模様の見当となる縦線、横線を引く。2.粗摺り金属製ダイヤモンドグラインダーで、割り付けした線を目安に、ざっくりとデザインの大枠を削っていく。3.仕上げダイヤ目の細かいグラインダーを使って細かな模様を削っていく。グラインダーは大小さまざまなものがあり、デザインによって使い分ける。精緻な模様を、手の感覚だけでバランスよく美しく削り出すのは難しく、熟練した技が必要。4.磨き削り出した部分を丁寧に磨いていく。華硝では、この作業に薬品などを一切使わず、独自の手磨き技術で行っている。5.表面の研磨ラシャ布などを使って仕上げ磨きをし、磨き残しがないか、検品を行う。華硝では、これらの作業を複数の職人で役割分担し、流れ作業で商品の制作を行っています。顧客から寄せられる大量の注文に応えるためには、美しく正確な模様を削り出す技術力と共に、スピードも要求されます。大きさ、デザインにもよりますが、40分ほどで小さなぐい呑み1つを作ることができるそうです。江戸切子職人になるための第一歩は、「ガラスの扱いに慣れること」。制作過程のうち、入ったばかりの新人が任せられるのは、「入口と出口の仕事」つまり、素材となるガラスを選び、割り付けをする作業と、出来上がった製品の検品作業です。その次は磨きの作業。削り出した部分を、何度も丁寧に磨くことで、削る時の手の動かし方を練習します。やり直しのきかないカットの作業は、練習を重ねてきちんとできるようになってから。新人が、商品として流通できるものを作れるようになるまで、通常5~6年かかるといいます。といっても、「昔は10年かかっていたものを5~6年ほどでできるよう、教え方を工夫しています。もちろん、熟練するためには一生修業。でも、今どきの若い人に10年、20年かかるなんていっても続かないし、こちらとしても人手が足りなくて困ってるんだから、早いところ育ってもらわなくちゃ」と熊倉社長。

5年間で一人前の職人を育てる方法

一人前になるまで10年かかっていた職人の育成を、5年に短縮するため、華硝では、旧来の職人育成とは異なるやり方を採っています。「昔は『技は見て盗め』といわれ、あまり教えてもらえなかったものですが、今は聞かれればいくらでも教えます。また、『新人は雑用だけ』ということもなく、新人にも、どんどんガラスを削る練習をしてもらっています」(隆行さん)。また、チューター制度があり、1対1で技術的なアドバイスから、道具のメンテナンス、デザインの相談まで、先輩がきちんと後輩の面倒を見て、放っておくことがないようにしているそうです。

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