J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年12月号

企業事例2 教育担当者の粘り強い説得と 上司の率先が社員を学ばせる

北海道における自動車販売の草分け、札幌トヨタ自動車では、社員の自己啓発の一環として、1986年に通信教育制度を導入。以来、四半世紀にわたり継続して取り組んできた。近年の受講率は70%、修了率は50%をそれぞれ超える。さらに2005年度からはグループ15社にも展開するなど、自ら学ぶ風土づくりを積極的に推進し、成果を上げている。その秘訣は、経営トップの教育への思い、教育担当者の熱意、そして自己啓発を重視した教育制度づくりにあった。

山田 利寛 管理部門担当 専務取締役

札幌トヨタ自動車
1946年設立。道内で自動車の販売および修理、自動車リース、損害保険・生命保険代理店など、自動車関連の事業を展開。その他、物流機器販売、レンタル・リース、自動車学校、商事・不動産、情報通信、教育・採用事業などを行うグループ企業15社を有し、グループ力を活かした事業拡大を行っている。資本金:2億4000万円、売上高:309億円(2010年度)、従業員数:824名(2011年3月現在)

取材・文・写真/増田 忠英

社員の意欲を高める自己啓発の重要性

今年創業65周年を迎えた札幌トヨタ自動車は、通信教育においても25年以上の歴史を持つ。近年の受講率は毎年70%を超え、修了率は50%以上と高く、自己啓発の社内への浸透ぶりがうかがえる。しかし、始められた当初から受講率が高かったわけではない。1986年から、社員の能力の底上げを目的に始められたのだが、学習意欲の高い一部の社員のみが受講する状況がしばらく続き、受講率は10~20%で推移していた。転機となったのは1995年、現・代表取締役会長の相茶俊介氏が代表取締役専務に就任した時である。日本デンソーから後継者として迎えられた相茶氏は、社員教育を重視し、同年、トヨタ自動車への3年間の出向から戻ってきた山田利寛氏(当時は総務部人材開発課長)等、人事スタッフに指示して教育体系の整備に取り組み始めた。山田氏は当時の状況をこう振り返る。「当社はバブル時代には全国の自動車販売会社で5位に入るほどの実績を誇っていました。しかしバブル崩壊以降、自動車の売れ行きは厳しくなり、また同じトヨタ系列の中で販売車種が競合するようになったことから、当社の優位性が崩れ始めた時期でした。この状況を打破するために、社員教育に力を入れるべきだという強い危機意識がありました」1997年に相茶氏が社長に就任すると、人事制度改革に着手。職能資格制度を導入するとともに、教育ビジョンを制定した。その基本は、Off-JT、OJT、SD(セルフ・デベロップメント=自己啓発)を社員教育の三本柱とし、それぞれが連携してはじめて社員の成長が促進されるという考え方である。「Off-JTは気づきや振り返りの場であり、そこで得られたことを日々のOJTに活かしていくことが教育の基本です。しかし、その前提として社員の意欲がなければなりません。仕事の成果は意欲×知識×行動によって表すことができると考えていますが、3つのうちの1つでもゼロなら、成果はゼロになってしまいます。したがって3つの柱は全て重要ですが、中でも成果のベースとなる“意欲”を高めるのがまさに自己啓発(SD)であり、社員教育の50%以上は自己啓発が占めていると考えています。その自己啓発を支援する手段が通信教育です」――通信教育、自己啓発は、自ら学ぶ風土づくりやOJT、Off-JTを効果的に進めるうえで重要な位置を占めると捉えているのである。通信教育を教育体系の中で明確に位置づけたことにより、通信教育の実施に一層力が入るようになった。相茶氏が通信教育への積極的な取り組みを指示した1995年、受講率は約40%に上昇。職能資格制度に対応した講座を導入した1998年には約60%に跳ね上がった(図表1)。

抵抗する営業部門を粘り強く説得する原動力

教育体系は整備されたものの、社内で教育を重視する風土や体制が直ちに出来上がったわけではなかった。最初の数年は、山田氏が年間の教育計画を立てて稟議を通しても、実施はなかなか思うように進まなかった。「当時は、教育を受ける時間があれば営業に行ったほうがいい、という空気がまだ根強く、営業部門から教育への理解がなかなか得られませんでした。予定していた研修が却下されることもしばしばでしたよ」それでも、山田氏は教育の重要性を社内で何度も繰り返し訴え続けた。山田氏を支えたのは、教育の重要性を理解する経営トップの存在、そして、名古屋のトヨタ自動車に出向した3年間の経験だったという。「トヨタでは、インストラクターとして全国の営業スタッフ1000人の教育を担当しました。この頃、トヨタは何においても教育ありきの会社だということをさまざまな形で実感しました。世界のトヨタが教育を最優先しているのだから、我々がやらなくていいわけがない。そうした思いから、当時の専務や常務に怒られながらも、めげずに教育、またその原点である自己啓発の必要性を訴え続けました」やがて、環境も変わった。自動車販売の現場では、従来のようにひたすら“足で稼ぐ”手法が頭打ちになった。社員一人ひとりが自ら学び、売り方やお客様との接し方を考える必要が出てきたのだ。営業本部も次第に教育の必要性を理解するようになっていった。「以前は新人教育だけ受けたら後は現場で『お客様から学ぶ』という考え方が主流でした。でも、それでは通用しない時代になったのです」こうした環境変化と、山田氏らの努力により、社員教育を重視する姿勢は社内に浸透し、通信教育の受講意欲も全社的に高まっていった。

強制ではないのか――しかし現実は違った

そんな中、新たな問題が起きる。各支店の受講意欲を高めてもらおうと、支店ごとに受講率や修了率を比較した資料を支店長会議で配布したところ、拠点間で通信教育の受講率を競う風潮が強まり、上司が部下に受講を強く促すようになった。その結果、受講率は80%を超えるまで向上したが、労働組合から「こうした上司の働きかけは社員への強制行為と捉えられかねない」との指摘を受けたのだ。「上から指示があれば、全社一斉に取り組むという良い意味での“札幌トヨタ魂”が働いてしまったのです。会社としては決して強制するつもりはありませんでしたから、翌年から資料を配ることをやめ、上司から強く受講を促すことはせず、自己申告で取り組むよう、支店長会議で指示をしました。その年は受講率が大幅に下がることを覚悟しましたが、実際には1割程度の低下にとどまり、修了率は逆に上昇したのです」このことから、長年の取り組みによって自主的に学ぶ姿勢が定着してきたことを実感したという。社内で自己啓発が浸透すると、相茶氏は2004年、社員教育の取り組みをグループ各社にも展開するため、同社の人材開発室を分社して教育会社を設立。通信教育も翌年からグループ全体への展開を始めた。グループ全体の受講率は2009年時点で47.5%。現状では会社によって受講率・修了率に差があり、底上げを図ることが課題となっている。

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