J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年12月号

特集 組織能力の基盤は個人が学ぶ力 個人学習力を高める自己啓発制度の革新

6割を超える企業で導入されているといわれる「自己啓発支援制度」。しかし教育制度全体から見た時、その位置づけは決して高いとはいえないのが実態ではないだろうか。自己啓発支援制度は、自ら学ぶ力、すなわち“個人学習力”を育むものであるが、これはいかなる企業でも開発可能な組織能力である。組織が個によって形成されている以上、この個人学習力を高めることが、組織力向上につながるはずだ。本特集では個人学習力の重要性と、実際にそれを高めるための自己啓発支援制度の見直し方について考察する。

写真/アフロ

景気の長期低迷、グローバル競争の激化、そして大震災や歴史的な円高など、ビジネス環境は極めて厳しい状況にある。こうした環境下で、日本企業が生き残りをかけて人と組織能力を向上するためのキーサクセスファクター(重要成功要因:以下KSF)とは何だろうか。本誌はそれを「個人学習力」だと考える。「個人学習力」とは、「主体的・継続的に学ぶ」姿勢そのものであり、ビジネスパーソンが成長するための基盤である。この力があれば、たとえ学んだ知識・スキルが陳腐化しても、新たな能力開発に対応できるからだ。まさに今、多くの組織で求められている「自ら学び、考え、行動(成長)する人材」の育成のためにも欠かせない能力となっている。そして、個人学習力を高める有力な手段となるのが、多くの日本企業で導入されている「自己啓発支援制度」である。しかし、せっかく設けられた制度も、「あまり活用されていない」という人材開発担当者の声が多く聞かれる。事実、厚生労働省の能力開発基本調査(平成22年度)によると、自己啓発支援を行っている事業所は全体の62.2%あるのに対し、従業員が実際に会社からの費用補助を受けたのは38.0%にとどまっている。こうしたデータからも、自己啓発支援という人材育成施策の目的が、十分に理解・活用されていないことがわかる。

自己啓発支援制度にもう一度向かい合う

自己啓発は、OJT、Off-JTとともに「教育の三本柱の一つ」とされてきた。このうち、OJTについては、コーチングやメンタリングなど、新しい指導スキルが次々と導入され、職場における上司部下のコミュニケーションのあり方にも革新がも図表1自己啓発革新3つのポイントたらされた。Off-JT(特に集合研修)でも、アクションラーニングや教育効果測定技術、ITの活用など、多様な教育技術が開発された。一方、自己啓発はどうか。今回のOpinion、金惠成氏も述べているように、自己啓発は1960年代から現在に至る約半世紀の間、他の2つの教育と比べると、そのやり方に革新的な進化があったとはいいがたい。「自己啓発は自己責任、よって個人任せ」という論理が前提にあったために会社の関わりが薄まり、積極的な改善に意識が向けられなかったことが制度の進化を阻んだ主たる理由と考えられる。しかし、逆の見方をすれば、これまであまり手をかけてこられなかった自己啓発支援制度こそ最も改善余地が大きく、その効果が期待できる教育施策といえる。では、何をどう見直せばよいのか。結論からいえば、個人学習力の向上のベクトルを、経営方針や人材育成方針など、組織がめざす方向性と合致させることだ。具体的には、1.経営課題との整合を図り目的を明確化する、2.具体的な目標と振り返りの質の向上、3.会社ぐるみの学習サポート(図表1)の3つのポイントから着手することをお奨めしたい。

自己啓発制度の見直し3つのポイント

1.経営課題との整合を図り目的を明確化する

1つめは、自己啓発の目的についての再考である。自己啓発支援制度は個人学習力を高める有効な手段だが、個人任せの運用では期待する効果は得られにくい。バブル崩壊後、能力主義から成果主義への転換期に、そういった個人任せの自己啓発が盛んになった。本誌1995年8月号『取り組め自己啓発』の記事でも、「自己啓発・資格取得に取り組むビジネスパーソンは増えているが『会社や上司・同僚には知らせていない』という人が全体の約5割にのぼる」としている。これは経済情勢が急速に悪化し、将来への不安が募る中、「自分の身は自分で守る」という意識が強く働いたためと思われる。今でも「自己啓発はあくまでも個人任せ」という考え方が根強い。しかし、こうした考え方のままでは、組織の望む方向と社員の自己啓発のベクトルを合わせることはできず、経営課題の解決に向けた人材育成施策として自己啓発支援制度を位置づけ直すことはできない。自己啓発支援による「個人学習力」の獲得・向上を、経営課題や人材育成ビジョンを実現する重要な手段と位置づけ、その目的や目標を明確に打ち出す意味は大きい。今回取材した札幌トヨタ自動車(P40)やホーユー(P62通信教育優秀企業賞事例)では、自己啓発といえども、“経営方針や業務につながる”と判断された学習テーマを会社として推奨する方針に転換してきた。かつて、趣味・教養講座といった、経営課題や業務とは直結しない講座で学習意欲を喚起した時代があったが、現在は会社が具体的に能力開発テーマを示し、その学習方法までも提案している。このような方法は、決して個人の学習の主体性をそぐものではない。会社が求める学習テーマを知り、これと自らの仕事とのつながりを意識する機会となり、むしろ個人の「学びたい」という潜在的な学習意欲を喚起することになる。もちろん、経営課題などの大きな方向性だけでなく、現場ニーズにも沿ったテーマであれば、さらに社員の意欲は喚起されるだろう。こうした橋渡しにより、自己啓発に消極的な社員の背中を押すことも人材開発担当者に求められる役割である。参考までに目的を明確にするうえでの8つの視点を図表2にまとめた。自己啓発支援制度の目的・位置づけを再確認し、企業目的につながる学習テーマを明示するために活用いただきたい。

2.具体的な目標設定と、振り返りの質の向上

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