J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2012年02月号

TOPIC①  シンポジウム『強いリーダーの輩出を目指して』レポート今、日本に求められる“ 強いリーダー”をいかに育てるか

2011年10月27日東京大学武田ホールで、一般社団法人強いリーダー育成研究会の設立を記念して、シンポジウム『強いリーダーの輩出を目指して』が開かれ、約200名が集まった。登壇者3名はいずれも、3.11後の日本に強い危機感を抱き、リーダーの要件、そしてどのようにリーダーを育てていくべきかを三者三様の視点から語った。

宮田 秀明 氏 東京大学
花田 光世 氏 慶應義塾大学
冨永 章 氏 PMラボラトリー代表

取材・文/関 敦子、写真/本誌編集部

基調講演「 リーダーシップとマネジメント」~ 難しい二つのプロジェクトの実例を通して~宮田 秀明 氏 東京大学 工学系研究科システム創成学専攻 教授

リーダーには、何が必要なのだろうか――。宮田氏は数々のプロジェクトをリードしてきた体験を踏まえ、以下の10ポイントを挙げ、リーダーに必要な能力を解説した。

1.価値と価値の連鎖・循環を理解することができる

2.全体像を理解することができる

3.未来予測ができる

4.ビジネスモデルを変えるために難しい決断を行って実行できる

5.創造に挑戦することができる

6.明確なビジョンと目標をもち、メンバーに共有させることができる

7.変化をおそれず自ら成長することができる

8.メンバーを成長させることができる

9.メンバーと、尊敬と信頼を持ち合うことができる

10.成功と進歩を信じることができる

チーム構造を間違えて成功するプロジェクトはない

多くのプロジェクトに取り組み、それらを成功へと導いてきた宮田氏だが、中でも特に難しいと感じたプロジェクトが2つ。1つは、「アメリカズ・カップ・プロジェクト(アメリカズカップ2000)」であり、もう1つは、今まさに取り組んでいる「東北・復興プロジェクト」だという。

アメリカズ・カップとは、ヨット(セイルボート)のレースである。だが、単なるヨットレースではない。これは、ヨットを介し、マネジメントであり、テクノロジーであり、チームワークであり、資金であり――それら全てをもって競う国際競技プロジェクトだといわれている。

宮田氏に要求されたのは、そのレースで日本を優勝させることだった。だが、状況は最悪だった。参加国中、ヨット文化が未確立で、最も浸透していない国が日本だった。その日本を優勝させるというプロジェクトの牽引がいかに困難な役割かは、想像に難くない。「成功のために必要な4要素は、テクノロジー、資金、チームワーク、そしてマネジメント。その掛け算が成果をもたらすのです。ところが与えられた資金は競合チームの3分の1。人材も明らかに層が薄かったのです」。

最初に集めた、機能型のチームをリードし、成果を上げることは難しかった。「世界一をめざすプロジェクトで、チームの構成員が役割分担に応じ、そこそこの仕事をこなしている状況では、ゴール達成は不可能」なのである。宮田氏はチームを組成し直した。「チームワークとは協調性や日本的な和のことではない。プロ同士の尊敬と信頼があって、初めて生み出されるものなのです」

チームワークとマネジメントによって勝つほかなかったこのプロジェクトを踏まえ、宮田氏は確信した。「リーダーシップとは、『チームを最高出力にして未来に挑戦させる能力』なのです」。

一方、現在取り組んでいる、東北復興プロジェクトでは、3つの提案による社会システムデザインの構築をめざしている。

ここでのリーダーは、「東北の復興」と「エネルギー安全保障の進歩」、「環境問題の解決」、そして「産業振興」という4つの方程式を同時に実現する、解決策を導き出さなければならない。またしても、高いハードルへの挑戦が、求められている。「リーダーシップとマネジメントが両輪になり、支えるキーテクノロジーがあれば、国家経営も企業経営も成功するのです」

そう宮田氏は、断言する。

特別講演1前向きに一歩踏み出す個を支援するリーダーの役割~強いリーダーを支えるBクラス社員の育成と活用~花田 光世 氏 慶應義塾大学 総合政策学部 教授 

「一握りのエリートや経営トップだけでは、組織は動きません。多くの社員がつながり、自信と誇りを持って、仕事をできる仕組みを構築してこそ、組織は動き始めるのです」

花田氏は、こう指摘する。

かつて日本の企業が強かった、1980年代、そしてバブル崩壊までの時代、日本の企業を支えたのは、非常に層の厚い一般社員、いわゆるBクラス社員たちだった。現在、そのBクラス社員は、どのような状況にあるのだろうか。花田氏は現状を分析し、「その変革なくしては、リーダーが力を発揮することはできない」と問題提起する。

日本企業の成長は、1985年をピークに下降している。優れた技術を持っていても、ビジネスでは勝てていない日本では、経済の停滞と裏腹に、社会と個人が成熟した。そうした状況下で、個人は自己実現を求め、企業内には、高度経済成長時代に一般的であったビジネスに対するバイタリティの発揮に関心をもたない社員が増加しているのである。若手だけでなく、シニアも中堅も同様に、不安にかられながら、組織で仕事と向き合っている。

こうしたバイタリティを欠きつつある社員一人ひとりが責任を持って仕事に向かえるようになってもらうためには、彼・彼女らの心を動かす必要がある。そしてそれを仕組みとしていかにつくっていくのか。ここに人事、教育の問題があるのだという。

バブル崩壊以降、長期にわたり、従業員を育成・活用するという発想は、一部のAクラス社員に限定されたものになった。多くのBクラス社員には、教育を十分に提供する余力がない。将来的に生み出す価値に注目する「資源価値」という見方から、現在価値を重視する「資産価値」へと人材に関する考え方のベースがシフトしたのである。短期的な成果を出し、現在価値を発揮する社員を評価、処遇する成果主義型の仕組みに人事の考え方がシフトしている。

こうした考えのもとでは、資産価値の発揮は個人の責任となる。組織の責任は主としてAクラス社員に対してのものであり、一般社員の成長に関しては、自己責任を期待するものとなってしまっているのだ。

OJTによってこそ育つ現場に強いBクラス社員

では、現在価値としては十分な価値の発揮には至らない、若者はどのような状況にあるのだろうか。

多くの学生は大学をサービスの提供機関だと捉え、就職してから受ける職場での指導も、サービスとして提供されるものという意識を持っている。民間調査機関が行った新入社員調査によると、上司、先輩の指導に期待することの第一位は、「やさしく・丁寧に接してほしい」。学ばなければいけない立場の新入社員が、である。企業が彼・彼女らに期待し、一方で若手自身、欠けていると自覚している最たるものが、「一歩踏み出す力」である。しゃにむにビジネスに取り組んで能動的、主体的に働きかけようという意志が著しく低下しているというのが実態となっている。

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