J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2012年02月号

Opinion② 「 またダメだ」→「ノルマに近づいた」へ!“ 捉え方”を変える認知療法

誰もがストレスを抱える現代社会。しかしその中でも、うつになる人とならない人がいるのはなぜか。その違いは、物事をどう捉えるか=認知の問題にある。認知療法・認知行動療法の専門家である東京家政大学教授の福井至氏が、ストレスが高い環境下でもメンタルヘルス不調に陥らない「 物事の捉え方」を身につける方法を解説する。

福井 至(ふくい・いたる) 氏
早稲田大学文学部、早稲田大学大学院卒業。札幌大学女子短期大学部講師および助教授などを経て、2002年より東京家政大学に勤務。臨床心理学、認知行動療法を専門とし、著書に『学習理論と認知行動療法』(培風館)、『認知行動療法ステップアップガイド』(金剛出版)ほか。赤坂クリニック/東京サイバークリニック
非常勤臨床心理士。

取材・文・写真/石原野恵

物事の捉え方は自分で変えられる

長引く不況や環境変化の中、企業とその社員を取り巻く環境は厳しい。競争が激化し、職場にはゆとりがないといわれている。この状況下で、今やうつ病は極めて身近な「こころの病」となったといってよいだろう。

しかしその一方で、どんなに過酷な状況にあっても元気に働き続けられる人もいる。その違いはどこにあるのだろうか。

ポジティブ心理学の提唱者であるマーティン・セリグマンは、生命保険の外交員の「楽観度」を調査し、楽観度が高い人のほうが離職率が低く、またキャリアや能力以上の成果を上げることができることを明らかにした。

たとえば1日300件ものセールス電話をかけるというノルマがある時、楽観度の低い外交員は、1件かけて断られるたびに「また断られてしまった」と悲観してしまう。しかしセールス電話には、平均1000回かけると1件はうまくいくという確率がある。そのため、楽観度の高い外交員は断られても、「ノルマ達成に近づいて嬉しい」と考えることができるというのだ(セリグマン『オプティミストはなぜ成功するか』講談社/刊)。

このように、同じ辛い仕事や経験をしても、楽観的に捉えられる人と、悲観的に捉える人がいる。その要因としては、遺伝的要因と成育歴のような環境要因の2つがあるとされているが、それらの影響を超えるために人間には意思がある。物事の捉え方を変える方法をきちんと理解して、自らの意思で変えようとすれば、考え方を変えることは可能なのである。

これを具体的に説明するのが、認知療法・認知行動療法の考え方だ。

個人の考え方の「推論の誤り」を解く

認知療法・認知行動療法は、うつ病の治療・予防に効果があるとして、我が国でも2010年に健康保険が適用された。この治療は、米国の精神科医、アーロン・T・べックの「うつ病の認知のゆがみモデル」に基づいて行われている。「うつ病の認知のゆがみモデル」とは、ネガティブな出来事が起きた時に、「スキーマ」と「推論の誤り」によって、憂鬱な感情や不安を喚起する「自動思考」が引き起こされるというモデルである。「スキーマ」とは、個人の考え方の枠組みのようなもの。「推論の誤り」とは、不安やうつに陥りやすい人特有の推測の仕方のことだ(図表1)。

たとえば、人参が嫌いな子どもが、親から「人参を食べなさい」といわれた時に、「ママも納豆を食べられないのになんで私だけ」と怒り出す子どももいれば、「ママは私の健康を思っていってくれたんだ」と喜ぶ子もいる。刺激に対する受け取り方(=評価結果)が違うからである。

前者のように刺激をネガティブに受け取る子どもは、他のことに対しても同様に捉える傾向が強い。「勉強しなさい」といわれても、「ママはドラマを見ているのになんで私だけ」、「おつかいに行ってきて」といわれても、「弟もいるのになんで私だけ」などと考えやすい。否定的な自動思考を引き起こす「推論の誤り」があるためである。

したがって、うつ病の認知療法では、この否定的な自動思考に陥らないように「推論の誤り」を検証し、認知のゆがみを修正していくわけだが、これを応用して、職場でも日常的にセルフチェックや上司によるアドバイスができるだろう。

たとえば上記に掲げた例で、「弟もいるのになんで私だけおつかいに行かなくてはいけないのか」という考えを検証してみると、その背景には、「弟と私は平等に扱われるべきだ」という「すべき思考」が隠されている。「すべき」という考えが他人に向くと、「母親は弟に頼むべきなのに、頼まなかった」などの過剰な怒りが湧いてきてしまう。

しかし客観的に考えてみると、母親はその時々で都合の良いほうにおつかいを頼んでいるに過ぎない。「すべき思考」をしなければ、「弟と平等に扱ってくれるにこしたことはないが、そうでないこともある」とおおらかに構えることができるだろう。

このように、うつ病の認知療法では、憂鬱さや不安な感情を引き起こす否定的な自動思考を、合理的な自動思考へと変えていく。これを繰り返すことで、徐々に憂鬱な気分が改善され、うつ状態から回復していくことができるのだ。

うつになりにくい考え方を習慣にする

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