J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2012年04月号

連載 中原 淳の学びは現場にあり 第14回 オープン過ぎる建物が助け合いを生む!? 現代美術館のキュレーターたちの学び 金沢21世紀美術館

北陸の古都、金沢に国内外から年間150万人が訪れる現代美術館があります。2004年の開館から7年を経てなお、多くの人を魅了し続ける金沢21世紀美術館。互いに助け合いながら、現代美術の新たな可能性を模索する熱きキュレーターたちの現場を訪ねました。

中原 淳 ( Nakahara Jun)氏
東京大学 大学総合教育研究センター准教授。「大人の学びを科学する」をテーマに研究を行う。共著に『リフレクティブ・マネジャー』(光文社)など多数。
Blog:http://www.nakahara-lab.net/blog/Twitter ID : nakaharajun

取材・文/井上佐保子 写真/堀 敏郎 画像提供/金沢21世紀美術館 イラスト/カワチレン

街に開かれた美術館

金沢の中心部、名園として知られる兼六園のすぐ隣にある金沢21世紀美術館。訪れてまず驚くのはその特徴的な建物です。全面をガラスで囲まれた丸い平屋の建物。通りと美術館の間を隔てるものは何もなく、建物の入口は四方にあり、どこからでも入れる構造です。この開放的な建物は「まちに開かれた公園のような美術館」をコンセプトに、世界的に著名な建築家、妹島和世+西沢立衛/SANAAによって設計されたもの。

建物内には自然光が差し込み、明るく広々とした空間が広がっています。交流ゾーン(無料)と展覧会ゾーン(有料)に分かれており、交流ゾーン内でも美術館のコレクションをはじめ多くの作品を見ることができます。

開館時間も交流ゾーンは、9:00~22:00。年末年始以外は休館なしと、ほぼ「いつも開いている」状態。市民が公園のように、ふらっと気軽に立ち寄ることができる場となっています。訪れた日も、雪の降る2月の平日でしたが、多くの来館者で賑わっていました。

来館者は国内外からの観光客はもちろんのこと、大人から子どもまで多種多様。子どもへの教育活動にも力を入れており、館内にはアートライブラリーや託児室、キッズスタジオも完備。市内の全小学校の4年生を対象にミュージアム・クルーズも行われています。

作家とともに創る現代美術の展覧会

金沢21世紀美術館が開館から7年を経て、今もなお、衰えない人気を誇る理由は、次々と開かれる展覧会が、多くのリピーターを呼び込んでいるところにあります。

訪れた日も、美術館所蔵作品の一部を企画展示するコレクション展の他、国内外の作家の企画展など、大小5つの展覧会を同時開催していました。これらは全て美術館の学芸員(キュレーター)による企画で、その内容はどれも斬新なものばかり。

音と映像の作品、壁一面を美しく染めた薄布で覆い尽くしたインスタレーション(空間全体を作品として表現する手法)、金沢の若者たちが海外から招いた作家と共に1年がかりで創作活動に取り組むプロジェクト、2万匹の蚕を網の上で歩かせ作った巨大なシルクの作品など。

どの作品も空間全体で五感を刺激し、現代美術の持つ不思議な力を堪能することができます。

各展覧会を担当した4名のキュレーターの方にお話を伺ったのですが、どの方も担当する展覧会を熱く語る姿が印象的でした。一方で、話の中から浮かび上がる、その仕事内容は少し意外なものでした。

一様に話していたのは「作家との関係づくりが大事」ということ。作家が没していることが多い近代以前の美術作品と違い、現代美術では、活躍中の作家の作品を扱うことが多く、展覧会は作家抜きで開くことはできません。そのため展覧会づくりには、作家とのコミュニケーションが欠かせないのです。

また、作品も特殊な素材を使ったもの、音楽や映像などを用いたものなど多様で、各種専門家とも連携して仕事を進めていく必要があります。予算管理から広報資料の作成、関連イベントの企画なども仕事のうち。これらを期日内に進める高度なプロジェクトマネジメント能力が求められるのです。

さらに現在進行の展覧会を管理しながら、次の展覧会についても動き出しています。大切な研究活動は、いわば走りながら行うのです。

金沢21世紀美術館のキュレーターは、たった9人。常に新鮮な空気を吹き込むキュレーターたちの現場について、チーフキュレーターである学芸課長、不動美里さんにお話を伺いました。

特に金沢21世紀美術館は、建物の構造が独特なため、空間に合わせて作家と共に展示を作り込む必要性が生まれる。時間も手間もかかる一方、そうした条件があることが、オリジナリティのある魅力的な展示を創り出しているのではないか。

競争原理では回らないから互いに助け合う

「実は展覧会の仕事は、キュレーターの仕事のほんの一部。氷山の一角でしかありません」と不動さん。

そもそも、美術館には「調査研究」「収集保存」「企画展示」「教育普及」の4つの機能が求められています。日本では、学芸員がこれら全ての役割を担っていますが、欧米では細かく分業されています。

金沢21世紀美術館にも、キュレーター(企画展示・調査研究)、レジストラー(作品管理)、コンサベーター(保存修復)、エデュケーター(教育普及)、インスタレーション・コーディネーター(展示設営)、アーカイヴィスト(情報管理)、ライブラリアン(美術図書館司書)といった役割があり、15名のスタッフで担当。そのうちチーフを含めて9名がキュレーターというわけですが、その中の2名は、それぞれレジストラーとコンサベーターを兼ねています。「美術館のオープン時は、欧米型の分業制をめざしてスタートしました。しかし、美術館としての膨大な仕事をこなしつつ、少人数で大きな展覧会を年に何本も開くためには、『自分の仕事だけしかしない』縦割り型の分業制ではとても回らず、すぐに全員で協力し合う体制に改めました」

現在は、各自、先述した展覧会企画の担当をしつつ、教育普及プログラムやイベント企画も立ち上げ、自分の担当する作家についての調査研究、作品の収集保存にも携わる…といった状況。全てを1人で行うことは難しく、関係するメンバーが集まり、チームで協力しながら仕事を進める体制になっています。「金沢21世紀美術館は国内外から多様な来館者が訪れ、建物もガラス張りで360度オープン、ほぼ年中フル稼働させている状態。当然、来館者との接点も多く、キュレーターも日々現場に立ち、お客様対応に追われます。そうした中で、全員が1人何役もこなしながら動いている。競争原理よりも協働が大切。お互いに1人では回らないし、力を合わせてこそ大きな仕事ができるんです」

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