J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2012年04月号

特集 今、教育に何が起きているのか ソーシャル・モバイルラーニング

Facebook、TwitterなどのSNS、そしてスマートフォンやタブレットの端末と、さまざまなツールの隆盛が、企業内教育にも影響を及ぼしつつある。こうした状況が押し寄せている現在、大人の学びにも、当然変化が起きている。この新しい動きとは、具体的にはどういったものなのか。さらに、教育担当者は何を押さえておくべきなのだろうか。

新しいメディアを介した学びを人材育成に活かすには編集部

ソーシャル・モバイルと大人の学び

スマートフォン利用者が増えている。MM総研(IT関連マーケティング会社)の予測によれば、スマートフォンの出荷台数は今後も拡大傾向にある。2012年度、スマートフォンは携帯電話全体の総出荷の60.1%を占め、過半数を超えるという。

スマートフォン利用者数とともに増加しているのは、SNS利用者である。「モバイル端末と、ソーシャルメディアは抜群に相性がいい」(P30 Opinion小松秀圀氏)ため、モバイル端末から、いつでもどこでもソーシャルメディアをチェックする人が増えているのである。

ソーシャルメディアの中でも、特に世間をにぎわせているのは、「Facebook」である。世界で8億4500万人*1、日本でも500万人*2の月間アクティブユーザー(月に1回以上利用したユーザー)がいると発表している。こうした変化は、どういう影響を社会に及ぼしているのか。また、働く大人の学びに変化はあるのだろうか。

ソーシャルラーニングとは

結論からいえば、社会に大きなインパクトを及ぼす変化が今、起きている。そして、大人の学びもその変化の中にある。

1990年代から、社内SNSを導入する企業や、他のグループウェアやメーリングリストなどで情報共有を行う企業や組織はあった。そうしたことと、ソーシャルメディアを活用した「ソーシャルラーニング」は何が異なるのか。

今回のOpinionの一人、山内祐平氏(東京大学大学院 情報学環 准教授)は、その違いを「開放性」と表現する。

TwitterでもFacebookでも、ソーシャルメディアにはさまざまな背景を持つ人が参加している。利用者がその気になれば、著名人や知識人やその他のハイパフォーマーが、日々何をどう考え、情報をどう手に入れているかを簡単に知ることができる。

また、知りたいことをSNS上に書き込めば、その発言を見た知り合いや、親切な誰かが知恵を分けてくれる。山内氏の記事でも、海外留学を希望する高校生が、それまで直接知り合いではなかった、ある留学経験者から助言を受ける例が出てくる。そのように、自組織内や、その人の交友範囲を超えて、外部から学べる環境ができたということである。

つまり「ソーシャルラーニング」とは、「ソーシャルメディアを使って広く社会から学ぶ」ということだが、これは「Web上でのインフォーマル・ラーニング」である。「系統立てて用意されたコンテンツを、教師を通じて教えてもらうのではなく、雑談のような対話や情報の発信・受信を通して自然に学ぶ」*(3 コネクト沖津氏)ということであり、継続的で持続的な学習の可能性を秘めている。

ちなみに、これらのメディアの発展・普及によって、「eラーニング」の概念も変わる。

これからのeラーニングは、「あるコースを修了する」というものではなくなる。学習者がWebを介して、他の学習者とコミュニケーションをとりながら学習することをも含むものになるのである。

何を学ぶことができるのか

ソーシャルラーニングでは、具体的には、何をどう学べるのか。

まず、情報感度が高く、情報のソースとして信頼性の高い人とつながり合えば、先端的な情報を確実に得ることができるようになる。

そうなれば、得られるのは「情報」だけではない。優れた人の「パースペクティブ(観点、物事の見方)」も学ぶことができる(P34 山内氏)。個人の発言や、複数人でのやりとり、ディスカッションが全て可視化され、時系列で蓄積されていくことも、振り返りや復習に使え、学習内容の定着を促す。

学びの質も、利用者がコントロールできる。Facebookを例に取れば、誰と“友達”になり、どのリストで誰の発言や情報ソースを表示させるかを、利用者が細かく設定できるようになっている。さらに、直接友達にならなくても、著名人やハイパフォーマーの発言を閲覧することができる機能もある(「フィード購読」)。

これらの機能で、「いつも有益な情報や考えを公開している人」を選んで、常にチェックしておくことができるのだ。

ソーシャルメディアの使い方は利用者に委ねられている。これらの新しいメディアをうまく使いこなし、必要なことをスムーズに学ぶ個人が、今後も増えていくだろう。

教育担当者の役割

以上、述べてきたように、ソーシャルラーニングとは、学習者が学びたいことを学びたい時に学ぶという、主体的な学びを促すうえで有効なものである。うまく利用すれば、社内外で、従来はなかったようなコラボレーションやイノベーションが起こる可能性も大いにある。

しかし現状、多くの企業では、従業員が就業時間中にソーシャルメディアを使うことを快く思っていない。2011年の日本能率協会の調査では、情報発信・受信手段としてだけでも、46.5%の企業が「会社として活用する予定はない」と答えている*4。業務に直接関係しないと考えられているためだ。

事実、ソーシャルメディア上では、「雑談」も多数やりとりされ、得られる情報も雑多なものだ。

しかし、考えてみてほしい。ソーシャルメディアを一つの「場」と考えた場合、コミュニケーションが活性化され、参加者からアイデアが出やすい場とは、どういう場だろうか。

前述の山内氏は、興味深い研究結果を提示している(P34)。Facebookを使った高校生の学習支援プロジェクトで、書き込み内容に「雑談」を禁止すると、場がぎくしゃくしてしまい、学習者がアクセスしなくなる、というのである。

日立製作所(日立グループ)は、このことを早くから意識していた(P48)。2006年からグループ横断のSNSを整備してきたが、職場で皆で話せるような内容であれば、何でも書き込んでいいことにしたのだ。「学習は楽しくなくては持続しない。雑談の中に、学習的な発言や、新しい観点を示すツイートが入っていることによって、学習が継続的に機能する」(山内氏)―― 教育担当者は、イノベーションや学習の芽を摘み取らないよう、ソーシャルな場をまずは静観してみてほしい。

学習効果を大きく高めるソーシャルと研修のブレンド

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