J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年01月号

KEYWORD3 東日本大震災復興支援 「方法の原理」を共有した組織のみ変化し続ける状況に対応することができる

東日本大震災の被災者支援のため、2000人以上が無償で参加し、3000カ所以上の避難所や個人避難宅に15万5000品目の物資を送るなど、従来にない方法でさまざまな活動を展開する「ふんばろう東日本支援プロジェクト」。
ボランティア経験なしに日本最大級の支援組織を生み出した代表の西條剛央氏に、組織運営や、新しいアイデアを実現するための秘訣などを聞いた。

西條剛央(さいじょう たけお)氏 「ふんばろう東日本支援プロジェクト」代表、早稲田大学大学院(MBA)専任講師
1974年宮城県仙台市生まれ。早稲田大学大学院で博士号(人間科学)取得。専門は心理学と哲学。「構造構成主義」という独自の理論を創唱。この理論を用いて「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を立ち上げ、ボランティア未経験ながら日本最大級のボランティア・プロジェクトに成長させる。その詳細は著書『人を助けるすんごい仕組み――ボランティア経験のない僕が、日本最大級の支援組織をどうつくったか』(ダイヤモンド社)にまとめられている。
[取材・文] = 増田忠英 [写真] =「ふんばろう東日本支援プロジェクト」提供、千葉雅夫

全国の人の力を結集する仕組み

「ふんばろう東日本支援プロジェクト」(以下「ふんばろう」)を立ち上げるきっかけとなったのは、震災発生から3週間後、支援物資を持って被災地に行った時に感じた「個人の力の限界」だった。物資は大きな拠点避難所には届いていても、小さな避難所や個人避難宅には全くといっていいほど届いていないところもあり、持っていった物資はあっという間になくなってしまった。そこで、「全国にいる、何とかしたいと思っている個人の力を結集して、大きな支援の力にする仕組みをつくろう」と考えた。とはいえ、初めは大きい組織にしようというより、被災地でご縁のあった人たちだけでも何とか助けたい、という想いだった。「ふんばろう」で最初につくった仕組みはシンプルなものだ。僕らが被災者から必要な物資とその数を聞き取り、ホームページに掲載する。その情報をtwitterで拡散し、全国の人から物資を宅配便で直送してもらう。「送った」という報告だけは受けるようにして、必要な個数が送られたら、その物資に線を引いて消していく。この仕組みなら、仕分ける必要もなければ、物資が滞ることも、必要以上に届くこともない。必要としている人に必要なだけ送ることができる、従来にない仕組みができた。

最初の支援先は南三陸町だけだったが、徐々にエリアを拡大し、最終的に3000カ所以上の避難所や個人避難宅、仮設住宅などに3万5000回以上、15万5000品目以上の物資を送ることができた。さらに、オンライン書店アマゾンの「ほしい物リスト」の仕組みを利用することで、2万5000 個以上の物資が必要とする避難所や避難宅に送られた。他にも、自立支援のための「重機免許取得プロジェクト」や「家電プロジェクト」など20以上のプロジェクトを立ち上げ、2000人以上のボランティアスタッフによって現在も支援活動を継続している。

「方法の原理」が組織の要

このプロジェクトを運営する考え方のベースとなっているのが、私の専門である「構造構成主義」の理論だ。これはどんな領域でも役立つ「原理」である。

この震災では、日本の組織が抱える構造上の問題が、さまざまな形で露呈した。たとえば被災地では、500人いる避難所に300 枚の布団が届いたが、数が足りないために全く配らない。800人いる避難所に700 個のケーキが届いたが人数分ないからといって断る。100人以上が暮らしているのに、震災から4カ月以上が経っても問題が起きたら困るからといって洗濯機を1台も設置せず、扇風機の受け入れも断る。あるいは人数分ないからといって野菜を配らずに腐らせてしまう避難所。こうした出来事は被災地のあちこちで見られた。

こうした不条理が起きる理由の1つに「前例主義」がある。たとえ良いことだとしても、前例がないと、失敗した時に責任を取らなければならない。どんな組織にもアイデアを生み出す人はいるはずだ。しかし、そのアイデアを提案した時、上司から「君、それは前例がないね。うまくいく保証はあるのか。失敗したら、どう責任を取るつもりだ。君だけの責任でも済まないんだよ」といわれると身動き取れなくなってしまう。これは、行動を止める「必殺のセリフ」なのである。このような環境の中でアイデアを実行に移すのは容易ではない。

とはいえ、これは「勇気を持って臨機応変に対応すべきだ」という正論をいって済む話ではない。なぜならこれは突き詰めれば「正当性」をいかに担保するのか、という問題だからだ。臨機応変に対応するといえば聞こえはいいが、正当性を担保できない限り、「場当たり主義」「ご都合主義といわれても反論できないのであるだから行政のような大きな組織になるほど柔軟な対応が難しくなる、という側面があるのだ。

そこで必要になるのが、そのアイデアを実行すべき正当な理由を提示する方法だ。正当である理由を提示していくことができれば、責任回避ゲームに終止する必要がなくなり、建設的な代案を出し合うことができるようになる。

そのために役立つのが、構造構成主義の「方法の原理」という考え方である。方法とは、「ある特定の状況において、特定の目的を達成する手段である。したがって、方法の有効性は「状況」と「目的」に応じて決まる。この定義はあらゆる「方法」と呼ばれるものに共通する原理なのである。

そもそも、組織が前例主義に陥りやすいのは、本来の「目的」がしっかりと共有されずに、「方法」を共有してしまうことが大きい。そのために、前提となる状況が変化しているにもかかわらず、従来の方法を遵守してしまうのだ。これを「方法の自己目的化」という。

たとえば、先の例で300 枚の布団が1枚も配布されなかったのは、自治体が「公平性を保つ」という平時の方法にとらわれていたためだ。それを守ろうとするばかりに、「被災者の生活を支援する」という本来の目的がないがしろにされてしまったのである。

方法の原理に照らせば、初めから方法ありきではなく、状況を正しく把握することによって、取るべき方法はそのつど変わるということがわかる。方法の原理を使えば、前例のないアイデアでも、状況と目的から導き出されたという正当性を提示することができ、周囲の批判に臆することなく実行できるようになるのだ。

状況に応じて方法を変えた「家電プロジェクト」

「ふんばろう」も、その時の被災地の状況を踏まえ、「被災者支援」という目的に沿って活動を進めてきた。一例として、状況の変化によって取り組みを変えてきた一連の「家電プロジェクト」を紹介しよう。

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