J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年01月号

KEYWORD1 働き方の未来 「2025年の働き方」と人事部のあり方

世界規模の研究を通じて「2025年の働く人の日常」を生々しく描き出した、ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授著『ワーク・シフト』。「“漫然と迎える未来”には孤独で貧困な人生が待ち受け、“主体的に築く未来”には自由で創造的な人生がある、だからこそ我々は働き方を〈シフト〉しよう」と提唱する本書は出版以来、大きな話題と評判を呼び、自らの働き方を問い直そうとする人が増えている。そこで本稿ではまず、書籍『ワーク・シフト』に描かれた2025年の働き方の未来図を紹介し、それを踏まえて、いま人事部にできること、これからなすべきことは何であるのかを、著者のグラットン教授に伺った。

Lynda Gratton(リンダ グラットン)
1955年生まれ。経営組織論の世界的権威。英国タイムズ紙の「世界のトップビジネス思想家15人」(2011年)に選ばれる他、英エコノミスト誌の「仕事の未来を予測する識者トップ200人」にも名を連ねる。組織におけるイノベーションを促進するホットスポッツムーブメントの創始者。『Hot Spots』『Glow』『Living Strategy』など7冊の著作は、20カ国以上で翻訳。人事、組織活性化のエキスパートとしてグローバル企業に対してアドバイスを行う。現在、シンガポール政府のヒューマンキャピタルアドバイザリーボードメンバー。

[取材・文] = 高橋テツヤ(又隠舎)[写真提供] = Lynda Gratton

産業革命以来の大変革の波がくる

蒸気機関という新しいエネルギーが工場に一挙に普及した19 世紀イギリスの第二次産業革命は、仕事のあり方を根本的にシフトさせた。まずエンジニア階層が台頭し、職人の地位が低下した。工場の現場では、雇用主による管理が強まり、職種が専門分化し、業務は細切れになり、ピラミッド型の組織階層が形づくられた。労働者は自律性を奪われ、交換可能な部品として扱われるようになった。

今後数十年の間に、仕事の世界ではこれと正反対の変化が起きる可能性があると『ワーク・シフト』は説いているすなわち、ピラミッド型の組織とゼネラリスト的な技能に変わって、水平型のコラボレーションや、スペシャリスト的技能が復活しようとしている。今回の変化を突き動かしているエネルギー源は、コンピューターのデータ処理能力だ。前回の産業革命と違う点は、変化の影響が直ちにグローバルに波及し、変化のスピードもこれまでになく加速しているということだ。

2025年の働く人の日常の物語

グラットン教授が主宰する「働き方の未来コンソーシアム」の参加企業世界45 社の幹部ら200名は、働き方の未来に影響を及ぼす5つの要因(図表1)を踏まえて、それぞれに未来の働き方の物語を描いた。それらを土台に、「2025 年の働く人の日常」が、次のような具体的なエピソード(物語)の形でまとめ上げられている。

ストーリー1

リオデジャネイロ在住のミゲルは、リオの交通渋滞を緩和し、エネルギー環境効率を向上させたいという社会的な問題意識を持って、都市交通システムの専門家としての自己研鑽を重ねている。現在は、インド北部のある地方都市の交通渋滞を解決するための企画コンペに参加するため、コペンハーゲン留学中に知り合った交通システムの専門家と人類学者、インド人の起業家とインターネットを介してチームを組んで提案書を作成している。テクノロジーの進化とグローバル化の進展により、専門性も国籍も多様な人々が協力し合うことでイノベーションを成し遂げようとしているのだ。

ストーリー2

バングラデシュでボランティア活動をしているジョンは、アメリカの大手小売企業でフルタイム職に就いている。これまでも5 年に一度、半年間仕事を離れて、最貧層の支援活動にかかわってきたが、2025 年になって、バングラデシュに会社の所属部署の第二オフィスをつくり、家族と一緒に移住してきたのだ。ジョンの生活の大きな特徴は、仕事・社会奉仕・育児・地域活動といった、生活のさまざまな要素のバランスが取れていることだ。ジョンはバランスの取れた生活、自分なりの社会とのかかわり方を重視して、給料は高くないが柔軟な勤務形態やボランティア休暇を認めるこの会社に勤め続けている。その代償として、マイホーム取得の夢はあきらめた。

ストーリー3

中国河南省のシェイ・リーは、長く自分の店でドレスの縫製をしていたが、2025 年には店をたたみ、香港の大手企業リー&フンの1万人のビジネスパートナーの一人となっている。シェイは雇われているのではなく、あくまで独立した個人事業主だ。リー&フンのような企業は、シェイのような「ミニ起業家」と、納入業者や買い手をつなげる「エコシステム」として機能している。テクノロジーの活用により、垂直のヒエラルキーを築かなくても、水平の関係を通じて大勢の人たちの行動を調整することが可能になっているのだ。シェイはすでに60 歳代後半だが、まだ10 年以上は精力的に仕事を続けるつもりである。

これらのストーリーが描き出している2025年の光景では、組織に属すことなく、イノベーションやグローバルビジネスに取り組んだり、途上国に住む人たちもグローバルな人材市場に参加していたり、金銭よりもやりがいを優先する働き方が可能となっているなど、働き方に多様な選択肢がある。そのような中で、各自が働き方を主体的に選択していくためには、これまでの固定観念・知識・技能・行動パターンなどを根本からシフトする必要がある。

ワーク・シフト:3つのシフト

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