J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2010年09月号

Special Interview 齋藤孝の“読む力”

ここからは、いよいよ「読む力」について見ていく。
『三色ボールペンで読む日本語』『読書力』などの著者であり、“読書の達人”である齋藤孝氏は、読者が「読む力」の基本であると言う。
そこで、まず齋藤氏に読書の効用と 「読書力」を高める方法を聞く。

齋藤 孝(さいとう・たかし)氏
1960年、静岡生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学大学院教育学研究科学校教育学専攻博士課程等を経て現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。

取材・文/木村 美幸、写真/真嶋 和隆

文脈をつかむことがコミュニケーションのカギ

「読む力」を高める最良の方法が読書であることは、改めていうまでもない。ここでは読書によってもたらされる「読書力」を軸に、読書の重要性を再確認するとともに、より効果的な読書法を紹介していきたい。

読書力にはさまざまな能力が含まれるが、社会人が読書力を向上させることで得られる力のうち、とりわけ重要なのは次の2つだ。

1つめは、文章や人の話を要約する力である。書き言葉には、漢熟語のように意味が凝縮された言葉が多い。読書によってこのような語彙を増やすことで、短い言葉で人の話や文章の骨子を的確にまとめる力が向上する。たとえば1分間程度のスピーチでも、「えーと…」「~みたいな」といった無駄な言葉が多く、要領を得ない話し方をする人は多い。このような人は話す力が足りないのではなく、要約する力が足りないのだ。

読書によって得られる2つめの力は、話の文脈をつかむ力である。本は文脈の集積である。そのため本を読んで文章の意味を追っていくことは、人の話の流れをつかむ訓練にもなる。

人の話の流れをつかむことがうまい人は、たとえば部下が支離滅裂に話していても、本人がいわんとすることを理解し、整理してあげることもできる。あるいは会議等の場で、話し合いの流れを押さえ、板書するのも容易だ。

要点を押さえて話したり、相手の話の流れをつかむことは、一見読書とは無関係であり、むしろコミュニケーションの問題のように思える。しかし根底にあるのは、いずれも要約する力と文脈を押さえる力である。そのためこれらのコミュニケーションに問題のある人は、コミュニケーションに関する訓練をするより、読書量を増やすことのほうが効果的なのだ。

重要度により読み方に変化をつける

さて、読書力は訓練によって向上する。それはスポーツで筋力トレーニングが不可欠なのと同じで、一定量の本を読む必要がある。

目安は1000冊。1000冊を超えると、速読術を習得していない人でも、驚くほど短時間で要旨がつかめるようになる。とはいえ、いきなり1000冊は難しいので、まず新書レベルの本を100冊読むことから始めたい。

この“読書の筋トレ”には大切な心得がある。それは「本は全ページ読み通さなくてもよい」ということだ。私はいつも、5~10冊ほどの本を、並行して読む方法をおすすめしている。

この時、本を重要度によって、3つのランクに分ける。最も重要なAランクの本は、生涯の肥やしになるような本だ。私にとってのAランクは、『論語』、ニーチェの『ツァラトゥストラかく語りき』やドラッカーの『現代の経営』など。Aランクの本は、文章を暗記してしまうくらい徹底的に読み込む。さまざまな場面でさまざまな文章を瞬時に引用できるレベルにまで血肉化するのが目標だ。

対極にあるのがCランク。このランクの本はざっと目を通し、意見を求められたら自分なりのコメントをいえる程度まで読み込んでおけば十分だ。AランクとCランクの中間がBランクである。重要な部分を自分なりにチェックしながら読むとよい。

ここでいう「ざっと目を通す」は、速読術ではなく“濃淡読み”とでも呼ぶべきものだ。淡いところ、すなわち内容の薄い部分は、それが数十ページにわたっても、どんどん飛ばし読みをして構わない。ただし「ここだ」と思った部分はしっかりと読み込む。新書であれば全体の2割を読んで、8割の内容をつかめるようになればよいだろう。

このような読み方をすると、最後まで読み通すものは、10冊のうち3冊程度ということも十分にありうる。しかしそれでよい。要旨をつかみ、誰かに説明できるレベルまで整理できれば「読んだことにしてよい」というのが私のルールだ。読書力を鍛えるためには、最初から最後まで読んだ本が年に30冊しかないよりも、要旨を押さえて人に説明できる程度まで読み込んだ本が年に100冊あったほうが効果的なのだ。

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