J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2012年07月号

TOPIC 2 『人材教育』読者無料セミナーレポート今、人材開発担当者はどうあるべきか? ~変化し続ける世界と向き合い、未来をつくる~

グローバル人事・人材育成の仕組みづくり、育成の連鎖の修復、個人の内発的動機づけ、ソーシャルメディアの台頭をはじめとする学びの環境変化……。人事・人材開発担当者を取り巻く問題はさまざまに変化している。そのような中で、2012年4月23日に行われた本セミナーは、同じ人事・人材開発担当者という立場の読者が問題を共有し、対話や内省を通して考えを深めるための場として設けられた。当日は、約100名近くの読者が参加し、パネルディスカッション、分科会、そして参加者によるワールドカフェと盛りだくさんの内容で開催された。当日の様子を、ダイジェストで紹介する。

守島 基博 氏
一橋大学大学院 商学研究科 教授
井上 直樹 氏
花王 人材開発部門統括部長
山田 理 氏
サイボウズ 副社長 兼 事業支援本部長
酒井 穣 氏
フリービット 取締役(人事担当/長期戦略リサーチ担当)
八木 陽一郎 氏
香川大学大学院 地域マネジメント研究科 教授
永井 恒男 氏
野村総合研究所 IDELEA事業 責任者

取材・文・写真/髙橋美香、中山 景、石原野恵

【パネルディスカッション】今、人材開発担当者はどうあるべきか?

守島 基博 氏

一橋大学大学院 商学研究科 教授

井上 直樹 氏

花王 人材開発部門統括部長

山田 理 氏

サイボウズ 副社長 兼 事業支援本部長

パネルディスカッションは、守島氏と実務家2名による現状整理と課題共有という形で進められた。「これまで人事・人材開発担当者は、研修や制度など、多種多様な人材育成施策を実施してきました。しかし、日本企業における人材育成のほとんどの部分が現場で行われているのが実態です。OJTで人材を育てる文化が非常に強いというのは、日本企業の特徴であり、強みでもあります。ところがこの現場の育成力が今、弱体化しているのではないでしょうか」(守島氏、以下同)

守島氏のこの問いには、参加者の多くが同意した。その背景には、成果主義による、過程・プロセスの軽視、人員構成のバラつきなど複数の要因がある。加えて、そもそも現場依存の育成には、本質的に限界がある。現場の育成というのは、基本的に短期的、または周期的なもので、長期的な人材戦略は考えられないためだ。

そこで人材開発担当者は何を考えなくてはいけないか。守島氏は、現場を再構築すること、長期的に必要なコア人材確保のために、戦略的な人材育成・開発のグランドプランをつくることの2つだと述べた。「現場の再構築のためには、“組織開発担当者としての人材開発担当者”という役割が求められると考えます。また、長期的な人材育成戦略弱体化しているのではないでしょうか」(守島氏、以下同)

守島氏のこの問いには、参加者の多くが同意した。その背景には、成果主義による、過程・プロセスの軽視、人員構成のバラつきなど複数の要因がある。加えて、そもそも現場依存の育成には、本質的に限界がある。現場の育成というのは、基本的に短期的、または周期的なもので、長期的な人材戦略は考えられないためだ。

そこで人材開発担当者は何を考えなくてはいけないか。守島氏は、現場を再構築すること、長期的に必要なコア人材確保のために、戦略的な人材育成・開発のグランドプランをつくることの2つだと述べた。「現場の再構築のためには、“組織開発担当者としての人材開発担当者”という役割が求められると考えます。また、長期的な人材育成戦略

チェンジ&チャレンジで自走する組織をつくる

まず登壇したのは、花王の人材開発部門統括部長、井上直樹氏。従業員数5924名(連結対象会社合計3万4743名)規模の同社が抱える人事・人材開発の課題は何か。「大きな問題意識は2つあります。1つは、今こそこの先人事がどうあるべきなのかを考える時期なのではないかということ。当社もこの15年間、特に人事制度や年金制度、研修など、ハード面を一生懸命変えてきました。でも社員の意識はどうか。会社は強くなったか。これらを総括する時期にあると考えています。

2点目は、では将来に向かって何をすれば良いかという点です。この10年間企業は成熟化し、社員は保守化し、さほど頑張らなくても安定するようになった。そうなると、海外に出てチャレンジする社員がどれだけいるか。もう一度組織としての挑戦と変革に焦点を合わせることが必要です」(井上氏、以下同)

「自走できる組織」の前提には、会社のミッション・ビジョンを全社員が共有することが重要だ。「人事が細かなハード面を整備する時代は終わったと思います。むしろ大切なのは、ミッション、ビジョン、バリューを創り上げ、啓蒙することに尽きるのではないでしょうか。戦略や方向性に基づき、現場の裁量がきく人事の仕組みをつくることが、我々の仕事だと考えています」

とはいえ、方針のみで現場がバラバラになってはいけない。人事が次にやるべきことは、業務を標準化し、きちんとPDCAを回していくことだ。花王では、2年に1回社員意識調査を行い、現状の客観的な測定・分析を行っている。「社員自身が『勉強しなくてはいけないんだ』と考える環境を会社がつくることが重要です。そのために人事・人材開発担当者は“お膳立て”をする。当社では手挙げ式のビジネススキル研修を設け、年に1回、能力開発育成シートで目標設定をしてもらいます。これらの取り組みを通して、自ら学び、考える組織をつくりたい。ひいては、それが組織の力につながるだろうと考えています」

人材マネジメントの重要性を認識させる

サイボウズは、1997年創業、平均年齢31.9歳の若い組織。副社長の山田理氏が、同社の取り組みと「自走する組織」の関係性を語った。「『自走する組織』に必要なものは、①方向性、②主体性、③協調性の3つだと思います。チームには必ず存在意義があります。自分たちのチームの目的と方向性をまず共有することが大事。ただ、1人でできることは限られます。個人も部署も役割を持って協力し合うことで価値が提供できる。それが組織にとって重要だと考えます」(山田氏、以下同)

具体的に同社では、行動指針に基づく目標設定、「問題解決メソッド」という独自の合宿研修、全員参加で月1回経営状況を把握する機会などを設けている。 「人事が人を育てるわけではない、というのが私の実感です。基本的に社員は、現場の上司や先輩と、自らが学んでいかなくてはいけない。ということは、現場のマネジャーにどれだけ頑張ってもらえるかが大事なのではないでしょうか」

山田氏がこう考えるようになったのは、改めてピーター・F・ドラッカーの『マネジメント』を再読したことがきっかけ。ドラッカーは、「マネジメント」には、プロジェクトと人材、2つの意味が含まれるとしている。しかし、普段の職場ではさほど明確に区別されていない。そこで山田氏は部長クラスの社員と、「あなたの部の人材マネジメントの課題は何ですか」というテーマで、相談し合う時間を設けるようにした。「現場のマネジャーに、マネジメントには仕事面だけではなく育成や動機づけといった人材育成の面も含まれているということをしっかり認識してもらうこと。それが、自走する組織をつくっていくうえで重要なポイントなのではないでしょうか」

企業の強みの基盤をつくる人事としてすべきこと

それぞれの発表を終えて行われたディスカッションでは、守島氏、井上氏、山田氏の三者による個別の問題に迫る議論と、参加者との質疑応答がなされた。

たとえば、社員自身に学びの必要性を感じさせることは重要だが、ミドル以上の社員に対してはいかに学ぶ意欲を持たせるか。こうした問題を含め、現在、人事・人材開発担当者はいろいろな意味でやることが多い。議論のまとめとして、守島氏は次のように述べた。

「人事・人材開発の重要な役割は、企業の強みの基盤をつくることです。たとえば大人の学びや現場の再生、人材マネジメントとプロジェクトマネジメントなど、今日はそのためのヒントがいろいろありました。ここから、自社にとって何が必要か、また人事はどうあるべきかを模索してほしいと思います」(守島氏)

【分科会:Aセッション】人事こそ、変わらなければならない!~第一歩は、経営学から~

酒井 穣 氏

フリービット 取締役(人事担当/長期戦略リサーチ担当)

本誌で「ちょっぴり経営学」を連載中の酒井穣氏によるAセッションのテーマは、「人事の変革」。スピーカーの酒井氏は、「申し訳ありませんが最初に、悲観的な話をさせていただきます」と始めた。「今後の日本で起きることを整理すると、労働人口の減少、国内市場の縮小、グローバル化に遅れる日本企業の倒産など、暗い話ばかりです。しかし問題は問題として認め、できること、できないことを見極めていかなければなりません」(酒井氏、以下同)

人事部をめぐっても、1990年代後半から『人事部不要論』が論じられてきた。その三大ロジックは、①人事部ではなく現場が人事権を掌握すべき(分権化アプローチ)、②社外の人材マーケットの市場原理を社内にも適応すればよい(市場化アプローチ)、③研修も教育効果測定の難しさを隠れ蓑とした、人事部が自分たちの存在意義を示すための「アリバイづくり」である、というもの。「一方そのアンチテーゼとして、人事を経営に直結する仕事とする戦略人事という道も示されてきました。しかし、そうした期待は果たされていないのが現状です」

それを裏づけるデータが、人事部員の平均給与の安さである。付加価値の高い仕事をしていれば、年収もそれに伴い高くなるはず。ところが転職市場での部門別平均年収を見てみると、管理部門のうち人事は8位中6位。

「では人事には重要な仕事が任されていないのかというと、そうではありません。富士ゼロックス総合教育研究所の『人材開発白書2012』によると、戦略実行上の障害のほとんどは人事に関する問題だという指摘がなされています。ということは、人事ほど企業にとって重要な仕事はないということです」

人事の重要な仕事を、人事部は果たせていない。人事は、期待されていることとは、もしかしたら全く別のことをしているかもしれないのだ。

このような人事部の現状について、以前から警鐘は鳴らされてきた。

「人事は人のことをよく知っていればそれでいいのか。人事部が助けるのは、現場です。現場の求める支援はビジネスで成果を上げること。それであれば、人事部は人のことを知る前に、ビジネスや経営について知っておく必要があるのではないでしょうか。人文社会学系の読書を減らして、経営学を学ぶべきではないでしょうか」

IT革命の意味と新しい社会へのリセット

ここまでの話は、人事としてプライドを持って働いてきた人にとって辛い内容かもしれない。「だからこそ、人事の付加価値を考えなければ」と酒井氏。

それには、IT革命について再考する必要がある。ピーター・F・ドラッカーは、IT革命を説明する「情報理論の第1法則」を紹介している。これは、「あらゆる中継機器が雑音を倍増し、メッセージを半減させる」というもの。ITは、中継機器的に振る舞う人を中抜きにし、コミュニケーション効率を高める。

「その中で人事は、中継機器的ではない人事業務とは何かを考える必要があります。採用や評価、研修などの業務を見直し、自分たちがいなくなったら誰が困るのかを真剣に考えてください。中継機器的な仕事はITで効率化できるし、アウトソースもできます。そして先に述べた年収平均の1位である経営企画部の仕事を理解し、人事としてできることを探してください。人事部不要論を越え、まずは自己否定してみることが大切なのではないでしょうか」

そして今後の人事のあるべき姿を考えるに当たっては、もう少し広い視野で考える必要がある。過去の積み上げではない、破壊的イノベーションにおける人事の役割についての解説が続いた。

「この先も人事的な仕事がなくなることはありませんが、中継器的な役割は淘汰されていきます。俯瞰してみれば、これまでとはまったく異なる社会が出現しようとしている中で、個人としての付加価値がますます問われるようになります。人事という枠を越えて、『あなたという個人は何をしたくて、そして、何ができるのか』ということを、改めて考えてみてください。いよいよ、人事部の番なのです」

【分科会:Bセッション】内省型リーダーシップの実践

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