J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2012年07月号

企業事例1 住友商事 「指導員制度」がつくる“教え合い”“学び合う”風土

住友商事では、約半世紀もの長きにわたって「教える・教えられる」という関係が脈々と受け継がれてきた。そうした関係性をつくっている代表的な取り組みが「指導員制度」である。同社では、指導員と呼ばれる先輩社員が入社1年目の社員につきっきりで、仕事の進め方から社員として持つべき価値観や組織の仕事文化に至るまでを徹底指導する。教える側はインセンティブがなくても皆、当たり前のように後輩を指導しているという、同社の若手社員育成の仕組みを紹介する。

西條 浩史 氏
人事部 部長代理 人材開発チーム長
住友商事
1919年大阪北港株式会社として設立。住友グループの総合商社として、現在、金属、輸送機・建機、インフラ、メディア・ライフスタイル、資源・化学品、生活産業・建設不動産などの分野で展開している。
資本金:2193億円、売上高:8兆3493億円、従業員数:5159名(単独)、6万4886名(連結)(数値はいずれも2011年3月31日現在)
[取材・文・写真] = 髙橋美香

住友商事が求める人材像

日本を代表する総合商社として名高い住友商事。全世界にグローバルネットワークを展開する同社は、長年培ってきた総合力を生かし、多角的な事業活動を展開している。

同社では、社員に対し、同社の「経営理念・行動指針」の理解をベースに次の2つの能力を求めてきた。

①明確なビジョンと強いコミットメントのもと各階層でリーダーシップがとれる力

②幅広い知見と高いスキルを有し、専門性を発揮する力

住友商事が社員に対して求めているこれら2つの力について、同社人事部の西條浩史氏はこう話す。「当社は商社という事業の特性上、同じ会社といえども部門ごとに専門性が大きく異なります。そうした中、コアなスキルとして全社的に強化すべきと考えているのがリーダーシップです。たとえば若手社員であれば、後輩指導、さらには上司を巻き込んでいくというリーダーシップが求められますし、自らをマネジメントする力もある意味でリーダーシップにつながるものです。階層別に研修を用意して、強化しています」

同社がリーダーシップの強化を重視するに至った背景には、自立型人材を育てたいという思いがあったからだと西條氏はいう。「現在、当社の研修は、一部の階層別教育を除いて、“手挙げ式”が基本です。以前は、必須のカリキュラムを多数用意することで、社員の成長をサポートしてきました。ところが研修を充実させてから年月を経るごとに、成長する、何かを学び取るという研修の本来の目的よりも、試験に合格すること自体を目的にする傾向が強まってしまったのです。そこで“与えられる育成機会”から“、自ら学びとる成長機会”へと2011年から大きくシフト。リーダーシップに欠かせない主体性を学び取ってほしいという思いを表しました」

同社が変更したのは、研修制度だけではない。2006 年には、大幅に人事制度の見直しを実施。その大きな特徴が、入社10 年間を育成期間と位置づけたという点だ。「10 年間は、基本的に昇格昇給に関しては差をつけません。それに、ローテーションを意識的に実施することで、3つ程度の部署を経験できるようにしています。事業部ごとに求められる専門スキルが異なる当社では、人づくりにおいて現場でのOJT が大きな比重を占めています。事業部ごとに育成をすることを基本にしながら、人事主導のOff -JTがOJTを補完する。当社の人づくりは、OJTとOff -JTの両輪で成り立っているのです」

新入社員研修でも、人事主導のカリキュラムは7日間ほどだという同社。あとは、“社員が社員へ教えること”が育成のメインとなる。そうした同社のOJTを支える代表的な仕組みが「指導員制度」だ。

これは、指導員と呼ばれる先輩社員が、新入社員に対して仕事のイロハから社会人としての心得まで、業務をともにしながらマンツーマンで教え込むというものだ。

「指導員制度がいつから始まったのか、正確な資料は残されていません。ですが、少なくとも1966 年には既に実施されていたことが社員の証言から明らかになっています」

約半世紀の長きにわたり、新入社員のOJTを支えてきた指導員制度は、“教える”という行為を通じて、新入社員を“社会人へと成長”させる同社の人づくりの核となる制度といえる。「 当社の社員であれば皆、指導員にお世話になって成長したという共通体験を持っています。だからこそ、指導員へのインセンティブが一切なくても、『自分にもそういう役割が回ってくるようになったんだな』と、素直に受け入れることができる。先輩も、その先輩も、そして上司も役員も……皆が同じように誰かのお世話になって成長できたという経験があるからこそ、後輩に仕事を教えることは特別なことではなく、ごく当たり前のことだという風土が根づいているのだと思います」

そう話す西條氏自身も、もちろんかつては指導員である先輩社員から指導を受けた経験がある。「今でも思い出しますが、捺印した書類に定規を当てられて『こんなに曲がって押しているぞ』と注意を受けたこともありました(笑)。社内では、『指導員は誰でしたか?』という会話は日常茶飯事。そこから会話が弾むことも珍しくありません。それほど当社の社員にとって、指導員は生涯忘れ得ない大きな存在になっているのです」

仕事力と人間性を高めるのが指導員

先輩社員が新入社員に教えるという文化は、単に長い歴史に支えられているというわけではない。人事部門による指導員へのきめ細かなサポートが、同社の徹底したOJTを支えている。

指導員が任命されるのは、新入社員の配属先が決まる3月半ば頃。選定基準は、入社5年目以上から10 年目ぐらいまでの社員だ。その理由を西條氏はこう話す。「指導員に託されている役割は、単に仕事を教えることだけではありません。1年かけて新入社員を一人前の社会人に育てるという目的があります。ある程度の仕事のやり方であれば、2年目、3年目の若手でも指導することができますが、指導員に期待するのはいわば“人間教育”のような部分も含みます。だからこそ、新入社員とも年齢が近く、一人前の社会人として活躍できる入社5年以上の社員から選定しています」

同社では、新入社員を迎えるに当たり、事前に指導員を集めた「指導員研修」を実施している。

指導員研修では、“人に教える”うえでのポイントや、その年の新入社員の傾向をレクチャーする他、新入社員の入社から配属までのスケジュールについても共有される。「いくら指導員の役割のイメージができているとはいえ、実際に指導員になるのは初めてという人もいます。それに、会社としても、新入社員の育成において指導員にどれほど期待しているかを伝える必要があります。指導員研修には、トップも必ず出席し、指導員に対して直接激励のメッセージを送るなど、会社がこの制度をどれほど重視しているのかを伝えています」

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