J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2012年07月号

Opinion Column 2 NPOカタリバの活動から見る“教える”が持つ力

大学生が高校生へ自分の体験談を語るというキャリア教育を行い、注目されているNPOがある。大学生が高校生のキャリア教育をサポートすることは、教える側と教えられる側の双方にどのような学習効果をもたらすのか。日々、若者と向き合い続けている同団体の事業部長を務める今村亮氏に、取り組みを通して見えてきた現在の若者の傾向と“教える”ことで鍛えられる力についてお話いただいた。

今村 亮 氏
カタリ場事業部 事業部長
1982年生まれ。大学3年生の時にNPOカタリバと出会い、同団体のキーパーソンの1人として、事業立ち上げに参画。大学卒業と同時に大手印刷会社に入社。6年間、営業担当として勤務。企業に所属している間もNPOカタリバの活動に従事する。2010年に印刷会社を退社。NPOカタリバの専従職員となる。現在、カタリ場事業部 事業部長、嘉悦大学非常勤講師、文部科学省熟議協働員を務める。書籍『カタリバという授業』(英治出版)

[取材・文・写真] = 髙橋美香 [写真提供] = NPOカタリバ

学校に社会を運ぶカタリバという授業

私が所属するNPOカタリバは、2001年に任意団体として設立して以来、「学校に社会を運ぶ活動」をキーワードに高校生のためのキャリア学習プログラムの提供を続けてきた。

現在、全国9拠点で展開しており、専従職員45 名、学生リーダー約200名、そして学生ボランティア約4500 名によって活動が支えられている。

代表的な活動内容は、「カタリ場事業」という高校生向けのキャリア学習支援だ。大学生や専門学校生のボランティアスタッフが高校の授業に訪問し、自身の体験談を語ったり、高校生と対話する場をつくる。高校生に自己理解を深め、将来に希望を抱いてほしいという願いを込めた120分のプログラムだ。

高校生をカタリバのターゲットとしている理由は、高校時代の進路選択が、初めて「どう生きるか」という決断を迫られるタイミングだからだ。高校卒業後には大学や専門学校へ進学する者、就職する者など、人によって大きく分岐していく。同級生たちと近い環境で過ごせる最後の時期が高校時代と捉えられるだろう。

カタリバの活動のポイントは大学生に案内役を任せているという点。

当団体のようなNPOの活動にボランティアとして積極的に参画する大学生は、さぞかし意欲に溢れ、リーダーシップのある“優等生”にちがいないと思われるかもしれない。

確かにそうした若者も存在することは事実だが、当団体の学生ボランティアのほとんどが、学校で特別目立っているわけではなく、どこにでもいるいわゆる「普通の学生」だ。

カタリバの主な取り組みは、そうした普通の大学生が自分の経験を紙芝居にまとめて高校生に語るというもの。語られる内容は、「受験での挫折体験」、「自分が今、本気で打ち込んでいること」、「高校時代の後悔」といったエピソードで、必ずしも“特別な若者による特別な経験”である必要はない。

年齢が近い大学生ならではの等身大の経験だから高校生の心に響き、話を素直に受け入れることができる。親や教師といった身近な大人たちからのアドバイスは素直に受け入れることができない生徒でも、利害関係のない“先輩”の言葉として発せられると、“うざい”どころか“、共感”や“憧れ”にすらなる。

実際にカタリバを高校の授業で実施すると、初めは見知らぬ人たちからの働きかけに照れたり、身構えたりしていた高校生が、次第に大学生の話に耳を傾け、それが次第に身を乗り出して話を聞くようになっていく……。

そして大学生との対話を楽しむまでになり、将来のための第一歩として自分なりの行動宣言(約束カード)を書けるまでになっていくのだ。

私たちは、こうしたプログラムを通じて日々“最近の若者”と接している。近い将来企業に所属することになるであろう最近の若者を取り巻く現状と彼・彼女らの傾向を一言で表すと「ソーシャルネイティブ」という言葉が思い浮かぶ。

ソーシャルネイティブのコミュニケーションとは

「最近の若者は……」。このフレーズは、大昔から現在に至るまで、その時代の“大人たち”が使い続けてきた定番のいい回しだ。

個人的にはあまり好きではないが、あえてこのフレーズを使って現代の若者の傾向を説明するなら、「最近の若者のコミュニケーションは複雑化してきている」と感じている。

それは、SNSや動画投稿サイトなどのメディアがかつてないほど発展していることと、多少なりとも関係があるだろう。物心ついた頃からこうしたメディアを操っているソーシャルネイティブと呼ばれる彼・彼女らは、リアルとオンラインのコミュニケーションを日常的に並行してきた初めての世代。それゆえに、大人たちとコミュニケーションのとり方で感覚の違いがあるのは、不思議ではないだろう。

ソーシャルネイティブ世代の高校生は二極化しているように思う。一方に、ソーシャルメディアを巧みに操り、学校という限られた世界の中だけに留まらず、自分で活躍の場所を開拓していく層がいる。

よく、「本当に優秀な大学生はキャンパスにいない」といわれることがあるが、今では高校生世代に同じことがいえる。スマートフォンを使いこなし、自分がめざす世界に近づくためにインターネットを駆使する高校生は増えつつある。

自分のイメージを行動に落とし込んでいくことができる若者は、イノベーションを予感させてくれる。今年も数名の高校生がインターネットで私たちカタリバの活動を知って、SNSでコンタクトを取り、自分で作成した企画書を持って訪れてくれた。私は彼・彼女らのことをビジネスパートナーとして迎え入れるし、相手もそのつもりで真剣に私と議論を戦わせてくる。

ところがこうした、自分で考えて行動できる高校生は全体からいえばほんの一部の特殊な人材だ。

もう一方のいわゆる“一般的な高校生”の傾向はどうか。私は、仲間に認められたいという承認欲求の強さを感じている。そうした状況を表す現象の1つとなっているのが、「ぬるオタ」である。

私が活動を通して知る限りでは、「ぬるオタ」は一見して「オタク」には見えない服装や髪型をしている。しかし話してみるとアニメ・声優・漫画・アイドル等に驚くほど詳しい。そんな傾向の高校生も今、たしかに増えている。

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:2,129文字

/

全文:4,258文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!