J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2012年07月号

Opinion 2 「教える」チャンスを提供し育成の風土を根づかせる

人を教育することは、自分が成長するチャンス。そんな当たり前のことが、職場では実感しにくくなっている。「教える」ことで得られる効用を再確認し、再び企業成長の武器にするためには、継続して教える機会を提供し、この機会を逃さないよう職場全体で支える、育成の風土づくりが必要だ。

関根 雅泰(せきね・まさひろ)氏
アメリカ州立南ミシシッピー大学卒業。2005年、ラーンウェルを設立。新入社員を指導する先輩OJT担当者向けの研修を各企業にて実施。2010年、東京大学大学院 中原淳准教授の研究室に参加。社会人大学院生として研究に従事。専門分野は「OJT、組織社会化」。著書に『仕事の教え方』『教え上手は学ばせ上手』等。

[取材・文・写真] = 中山 景

経験の競い合いの中で「教える」ことがチャンスに

最近、若手社員が鍛えられたり、修羅場や失敗を経験できる“現場”が少なくなっている。さらに、経営のグローバル化が進み、現場はどんどん海外へと流出してしまうだろう。しかし、仕事ができるようになるためには経験の積み重ねが不可欠だ。経験を争う競争は、国境を越えてすでに始まっている。

いかに現場に身を置くかを争う中で、「教える」機会を得ることは、極めて貴重な現場経験といえるだろう。教えることは負荷がかかるし思い通りにならないことも多い。だからこそ成長のチャンスであり、大きな充実感を得られるものだと感じている。「できるように教えなければならない」という責任の中で、何を、どう教えればいいか試行錯誤しながら、自分自身が新たに学んだり、知識を整理したりする契機になるからだ。

教育の機会は誰もが必ず得られるものではない。これからの競争を勝ち抜いていくために、若手社員は積極的に「教える」機会を活かして経験を積んだほうがいい。そして企業は、なるべく早く、なるべく多くの社員に教育のチャンスを与えるべきだ。

時間がない・自信がない失われた育成の風土

「教える」という行為は、指導される側に限らず、指導する側や組織全体にもプラスの効果を及ぼす(図表1)。しかし今、職場では、「教え・教わる」関係が希薄になってしまっている。

年功制度が主流だったかつての企業では、先輩社員が後輩の育成・指導を行うのは自然な光景だったが、今はそうした関係が築きにくくなっており、先輩から学んだことを後輩に伝えるという育成の連鎖のようなものが失われてしまった職場も多い。

理由はいくつか挙げられるが、ひとつは、教える立場になる社員が抱える不安である。私が仕事でかかわってきた企業には、3 年目程度の社員を教育係に指名している企業がいくつかあるが、教育係になる社員の多くに共通しているのは、「時間がない」「自信がない」という不安だ。

3 年程度の経験を積んだ社員は、ちょうど自分の仕事も多く抱えるようになる段階にあり、新人を指導している時間をつくれないと考えてしまう。しかも、仕事の正確性とスピードへの要求が高まる近年の経営環境の中では、時間と労力を奪われて自分の仕事のパフォーマンスまで落としてしまう懸念がある。

また、中堅、ベテラン社員ほどの知識や技術は持ち合わせていないため、しっかりと教えられないのではないか――。そんな不安によって、教えるという行為をネガティブに捉えてしまう傾向がある。

育成の連鎖が途切れたもうひとつの理由は、職場の年齢構成の偏りだ。

バブル崩壊後、1995 年から2005年にかけて、新卒採用に抑制がかけられた。しかし景気が上向いた2006年からは採用活動が再開し、新卒社員が入社している。それによって新人と上の世代との間に10 年間のブランク、つまり年齢差ができてしまった。長い間、後輩を持たずに働いてきた社員たちは、教えることに慣れていないのである。

教える側の不安と、教えることに不慣れな職場。これらの障壁に阻まれる形で、自然に教え合い、学び合う風土は影を潜めてしまった。

成長の実感は経験からしか得られない

教えることは貴重な経験だ、新人教育は成長のチャンスだ、というのは至極まっとうなメッセージだが、いくらお題目を唱えても当の本人たちに納得してもらうのは難しいだろう。教える経験が自分のためになると理屈では理解しているし、自分の得たものを次世代に継承したいとか、後輩の成長が嬉しいという思いは誰もが秘めていると思うが、不安や負担が先行してしまってポジティブな面が表に出てきにくい。あえて引っ張り出さないと、出てこない。

社員が新人教育に当たる環境を、継続して提供することが企業の課題だといえる。「教えて良かった」「成長できた」という心からの実感は経験からしか得られず、その喜びを先輩から後輩へと共有していかなければならない。

すでにある程度の年代に達し、一定の実績と実力を持った社員が、新人教育から成長実感を得るのは難しいだろう。変えるなら、若手からだ。入社3 年前後の若手社員に働きかけることで、止まってしまった育成の連鎖は再び回り出す。

ここからは、私がかかわった企業の中で、うまく「教える」風土をつくり出し、効果的に活用している例をいくつか紹介したい。

新人を教えることで高まる社員の意欲と知識

育成の連鎖を生み出している企業は、実にさまざまな狙いをもって、社員に「教える」機会を提供している。

ある企業では、経理や人事といった総務業務において、4 年目社員が新人教育を行う。3年目までが新人で、4年目からが一人前。では一人前とはどういうことかというと、人を教えられる状態であると考えられているのである。

3 年間で一通りの仕事を覚えた社員は、放っておくと次の目標を見失いがちだ。そこで新人教育という新たな目標を据えることで、モチベーションを高めることができる。また、教えようとする中で自らの知識を整理・増強できるという自己成長の効果も高い。

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