J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2012年07月号

特集 教える経験が人を育てる若手を伸ばす 「教える力」

成長の起爆剤“教える”で若手を育てる

新人指導に不安を抱く若手社員

バブル崩壊後の採用抑制で、後輩を教えたことのある先輩社員が減っている。さらに、急速な経営環境の変化で仕事に求められる正確性やスピードが増し、教える側に新人育成に積極的にかかわる余裕がなくなってしまっているといわれている。

そうした中、職場には「まじめで素直だが、いわれたことしかやらない・できない」受け身傾向の新入社員が配属され、上司・先輩には、これまで以上に意識して新人とかかわり、働きかけることが求められている。

しかし昨年、日本能率協会マネジメントセンターが実施した採用・教育担当者へのアンケートでは、45.1%が「配属後の現場教育に問題あり」と回答しており、職場における教育のあり方が、大きな課題となっている(図表1)。

さらに、企業の若手社員教育をサポートするオピニオン2の関根雅泰氏(ラーンウェル代表、P34)によると、新人の育成担当を期待される若手社員の多くが「自信がない」「時間がない」いう不安を抱き“、教える”という行為をネガティブに捉えてしまう傾向があるという。

こうした中、今号で紹介する事例企業は、いずれも「教える」という役割を早いうちから意識させ、実際に役割を与えることで、教える側の若手社員の成長と、職場の育成力の向上につなげていた。

今号では、改めて「教える」ことが持つ人材育成上の意義を考察していく。

教えることで得られる成長のチャンス

教えることでなぜ人は成長するのか。関根氏は取材の中で「教えなければいけない立場に追い込まれることで、自分自身が新たに学んだり、考えを整理したりする契機となる」と述べ、指導役に選ばれた若手社員は、会社から期待をかけられ、成長のチャンスを得ていると指摘した。

住友商事の西條浩史氏は、「曖昧なまま仕事を進めていたことに気づく」、「指導を受けていた頃の自分を客観的に捉え直す」ことを指導員経験から得られる気づきの例として挙げている。

関根氏はさらに、新人育成を、指導側の成長の機会として積極的に活用すべきだという。たとえば、ある企業では、指導役が“互いの新人を紹介する”という名目で他部署との関係づくりを行い、自らの人脈構築や調整力の習得、部門を超えた協働につなげている。

事例各社とも新入社員の指導経験が、教える側の若手社員の成長にもつながることを期待し、意図的に役割を課していた。

このように教える行為を通じて教える側が成長するということは多くの人が同意するところだろう。だが、現実には教えることは非常に難しく、若手社員をはじめ、不安を感じる人も多い。

そこで、まずは江戸時代の教育観から、現在の企業教育にも通じる、教えるヒントを探った。

日本の伝統的な教育観から学ぶ

現在、多くの企業が課題として掲げる自律型人材の育成。江戸時代の教育のあり方は、この自律型人材の育成という点で参考になる。

オピニオン2の辻本雅史氏(京都大学名誉教授、P30)によると、江戸期の教育は、「人は自ら学ぶ能力を持っており、良いモデルや環境さえあれば、それを真似て自ら学んでいくことができる」という前提に立っているからだ。

江戸期の手習い塾(寺子屋)や藩校における教え手の役割と教え方を次の3つの視点で整理した。自社の新人育成担当者や現場の上長に、教え手の役割やポイントを伝える際の参考にしてほしい。

① 学習意欲を喚起すること

江戸期の教育は、学ぶ側の自学自習を前提とするため、師の役割は「学ぶ意欲を持たせること」であった。学びとは、「自らの能力を磨き、高めること」であり、教わる側の目的意識を高め、学習動機を喚起することが師の最も大切な役割であった。

② 手本となり、やってみせること

学習意欲の喚起は、言葉では行うことができない。自ら手本となってやってみせ、相手を信頼して任せ切る意思を示し、自主的に真似させて、やらせてみるというプロセスが必要となる。まず自らがモデルとなり、手本を示すことが教え手には求められる。

③ 型を繰り返しやらせてみて、身体化させること

江戸期では、社会には物事や人間関係を円滑に動かすための一定の「型」が存在し、この「型」を習得すると、心のあり方も自ずから正しく定まると考えられていた。

言葉で教えるよりも、型を実際にやってみせて、やらせてみて、できない場合に初めて指導するという行為を繰り返し行い、徐々に身体に滲み込ませることから、「滲み込み型」の教育といわれる。

こうした考え方は、武道の世界でも脈々と受け継がれているようだ。

オピニオン コラム1の藤平信一氏(心身統一合氣道協会会長、P38)によると、合氣道の世界でも、師弟関係が成長のカギを握るという。教わる側は信頼できる師匠に師事して、師匠に「やれ」といわれたことは、黙ってやるべきであると述べる。当然、師弟の信頼関係が不可欠であり、教える側にも「相手の氣を尊重する」ことや「強い自覚」が求められる。

藤平氏は、教えることで自身が成長することについて「自分のためだけにできる努力には限界がある。誰かのためにする努力こそ、さらなる成長の原動力となる」と述べている。そして師には「自信」と「本気で他者の成功や成長を考える」という2つの人間的素養が必要になると定義する。

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