J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年09月号

企業事例2 発信力としての英語力を磨き、 相手とのコミュニケーションレベルを上げる

英語力強化に取り組む企業は多いが、社員のモチベーションの維持は難しい。2009年から英語力強化に改めて取り組んだ双日では、当初社内でのさまざまな反応に直面しながらも、現在では英語学習を楽しむ雰囲気が醸成されつつあるという。その理由の1つは、“ビジネスに役立つ英語力をつける”という同社のコンセプトが明確なことだろう。相手を知り、自分を相手に知らせる―発信力を身につけ、実践で役立つ英語学習に力を入れている同社の取り組みを紹介する。


池本 健一 人事総務部 人材育成課課長

笹倉 淳 人事総務部 人材育成課上級主任

双日
2003年にニチメンと日商岩井が合併して設立された総合商社。国内7、海外91の拠点を持ち、機械、エネルギー・金属、化学品・機能素材、生活産業など多岐にわたる分野でグローバル事業を展開。
資本金:1603億3900万円、売上高:4兆146億3900万円、単体従業員数:2254名、連結従業員数:1万6456名(全て2011年3月31日現在)

取材・文/和田 東子、写真/本誌編集部

ビジネスの変化に伴い変わる英語力

「これまで商社は時代に合わせて、ビジネスのスタイルを大きく変えてきました。今また、大きな変化の時期を迎え、改めて英語力強化に取り組み始めました」こう話すのは、人事総務部人材育成課課長の池本健一氏だ。双日では中期経営計画Shine2011において、「グローバル人材の育成」を重要テーマの1つとして掲げている。中期経営計画の中で人材育成が明言されたのは同社として初めてのことであり、それだけ人材育成に力を入れている証でもある。商社であれば、英語ができて当然だと考える人も多いだろう。だが、かつての商社は日本を起点・終点とした貿易の仲介が主事業であったため、「英語が得意でない人はそれなりに、度胸と体当たりで何とかやっていたところもある」と池本氏はいう。しかし今や時代は変わり、商社ビジネスの主流は「三国間取引」と呼ばれる日本以外の国同士の取引の仲介、海外事業会社への出資や生産活動、さらにはそこで生産される商品の第三国への販売など、日本を基軸にしないグローバルなスタイルへとシフトしている。当然ながら、ビジネスの複雑性は格段に増し、日本から派遣される駐在員の役割や、求められるコミュニケーションのレベルも大きく変わることとなった。

求められるのはより複雑で繊細なコミュニケーション

たとえば日本から派遣される駐在員は概ね4~5年でローテーションしていく。現地のビビッドな事業環境をキャッチし、ビジネスを継続的に維持・拡大していくためには、現地事情により精通したナショナルスタッフの積極活用が欠かせない。「ナショナルスタッフを活用するためには、日常的なコミュニケーションを通じて、会社としての期待を伝えるとともに、適切に業務をリードしていくための、マネジメント能力が求められます。一方で、職場でのセクハラ・パワハラといった事象がクローズアップされている状況もある。従来以上に部下との複雑で繊細なコミュニケーションを行う必要性が増大しているのです」(池本氏)たとえば、海外のある拠点で新たな人事制度を導入したとする。制度を導入するに当たり、管理者であるマネジャーは部下に対して、なぜ人事制度が変更されたのかを説明する必要がある。さらに期初の目標設定から期末のレビュー、評価のフィードバックなど、ナショナルスタッフが納得できるよう、細やかなコミュニケーションを行い、疑問や不満に対処することが求められる。「かつてよりも繊細なコミュニケーションが求められるようになり、海外からも、『よりコミュニケーション力のある人に来てほしい』という要望が出てきています」と話すのは、人事総務部人材育成課上級主任の笹倉淳氏だ。このようなマネジメントは、従来のビジネス形態の中でもある程度必要とされてきた能力といえる。ただ、グローバル化がますます進展し、ビジネス環境が急速に変化していく中で、これまでよりも高いレベルでのコミュニケーションが必要とされているのは間違いない。これが、同社が英語力強化をめざす理由である(図表1)。

商社だからこそ、あえて英語に力を入れる

このようなビジネス環境の変化を受け、双日では2011年10月より海外赴任要件の変更に踏み切る。従来同社ではTOEIC®LRテスト650点をクリアすることを海外赴任者に課してきたが、これを730点にまで引き上げた。さらにTOEIC®SWテストという新しいテストにより、アウトプットを通じた実践的なコミュニケーション力を基準に追加する。この変更のために、説明会やテストの実施を2009年から継続的に行い、さまざまなサポート研修を実施してきた(図表2)。だが、当初は制度変更により英語基準を上げることに対する社内からの反発も強く、「今まで自分の英語はちゃんと通じてきたのだから、それで十分だ」「英語よりも現地語が通じれば十分」「ただでさえ忙しいのに、英語の勉強をしている時間はない」などの声が聞かれたという。もともと同社では、“現場に人を放り込めば、仕事をしている中で語学力はあとからついてくる”という風潮があり、“語学力より、仕事力、人間力”という考え方が主流だったからだ。「その考えもわかりますし、今も基本的にこの考えは変わりません。ですが、仕事ができる人が、英語力をつければ、もっといい仕事ができるのではないかと思うのです。グローバルリーダーとして、もっとダイナミックにビジネスを牽引していくために、商社パーソンとしてプライドの持てる最低限の英語を身につけてほしいと、訴えました」(笹倉氏)さらに、説明会では、社外から講師を招き、今よりも英語ができることで、どれほど世界が広がるかを話してもらうなど、「押し付けるのではなく、できたら楽しい、忙しくてもやればできると感じてもらえるように工夫しました」(笹倉氏)。こうした地道な取り組みで徐々に社内に英語学習に対する前向きな雰囲気が醸成されてきたという。

問われるのはロジカルに話せるかどうか

ただ英語力といっても、単にテストで点が取れる英語力ではなく、実際に仕事に活かせるものでなければ意味がない。その点、海外赴任要件に新たに追加された「TOEIC SWテスト」は、スピーキングとライティングの力を測るテストであり、「コミュニケーションに必要となる本質的なアウトプット力を鍛えられる」と池本氏はいう。「コミュニケーションをとるうえで、大切なことは、相手を知り、相手に自分を知ってもらうことで、自分と相手とのギャップを相互理解することです。そのためには、自分から積極的に発信する力、相手に自分を理解させる力が必要不可欠となります。ただ、日本人は総じてこの点があまり得意ではないように思っています」(池本氏)TOEIC SWテストでは、コンピュータの前で、実際に声に出して問題解決のアドバイスをしたり、英文メールの返信を書いたりする。それをネイティブが採点するのだ。採点時に重要視されるのは、スペルや文法の完璧さよりも、相手に通じたかどうか。いい換えれば、ロジカルに説明ができているかどうかということ。たとえば、写真の描写を行う際などには、最初に全体的な説明を行ってから細部の説明に入るといった、順序立てて話す手順が身についていることが高得点のカギとなる。いわば、写真を見ていない人でもその光景を想像できるかどうか、内容をロジカルに説明できているかどうか、といった、コミュニケーションの本質的な部分を測るテストとなっている。実際、テストを受けた社員の中には、通じていると考えていた自分の英語が、思ったよりもスコアが低く、ショックを受けた人もいるという。「テストをきっかけに自分の今までのコミュニケーションを振り返り、改善に意欲的に取り組んでもらいたいと考えています」(笹倉氏)人事制度の中に英語力の要件を入れることは、英語学習を一過性のものとせず、自分の実力と定期的に向き合い、モチベーションを維持してほしいという狙いもある。

グローバル人材に求められるコミュニケーション力

海外で求められるコミュニケーションを、より実践的に学ぶために設置されたのが、「リーダーシップコミュニケーション」講座である。この研修は、今後海外赴任が想定される社員を対象に英語で行われ、受講者は前述の海外赴任要件をクリアし、基礎となる英語力を身につけていることを前提としている。1回の受講者は8人程度。さまざまな場面と役割を設定した、ロールプレイングを2日間にわたって行う。たとえば、2人1組で行うロールプレイングでは、立場が違い、主張にギャップがある役になりきり、相手の状況はわからない状態で交渉を行う。最初は、双方の主張は平行線を辿るが、その時必要になるのが、相手の意図や気持ちを聞き出す力だ。相手がなぜそれを主張しているのか。主張内容の表面だけでなく、踏み込んだコミュニケーションをして相手を理解することで、最初はわからなかった相手の本音が見えてくる。同時に、自分の意図や目的、主張の背景を相手に伝えることで、相手にも自分を理解してもらうことができる。

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