J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年09月号

企業事例1 時代も国境も越えた普遍的力を生む ワンカンパニー=ワンカルチャー

日本発のグローバル企業として世界中に拠点を構えるトレンドマイクロ。同社には、TLCという内なる自分を見つめ直すオリジナルの研修がある。自分を見つめ直すことこそが、時代や国境を越えて通用するコミュニケーション力に不可欠という同社。時代にも国の違いにも左右されないワンカンパニー=ワンカルチャーをめざす同社の教育を紹介する。

成田 均 人事総務本部人事部部長代行
多賀谷 一央 マーケティング本部 コーポレートマーケティング部 コーポレートコミュニケーション課 課長

トレンドマイクロ
1988年米国ロサンゼルスにて創業。1989年同社設立。「ウイルスバスター」をはじめとするコンピュータおよびインターネット用セキュリティ関連製品・サービスの開発・販売を手がける。欧米諸国、北欧、アジア、中欧など、グローバルに事業を展開している。
資本金:183億8600万円(2010年12月末現在)、売上高:953億9100万円(2010年度)、従業員数:4846名(2010年12月末現在)

取材・文/高橋 美香、写真/トレンドマイクロ提供、高橋 美香

気遣いが裏目に…多国籍企業の課題

1988年、アメリカ・カリフォルニア州で創業したトレンドマイクロ。創業翌年に日本に本社を移し、現在は、日本発の多国籍企業として30以上の国と地域に拠点を構えるほどの大企業へと急成長をとげている。グローバルに事業を展開する同社は、経営陣の国籍も実に国際色豊かだ。創業者で台湾出身のスティーブ・チャン氏を筆頭に、共同創業者で社長兼CEO(最高経営責任者)を務めるエバ・チェン氏も台湾出身、そしてインド出身で現在は日本国籍を取得したCFO(最高財務責任者)のマヘンドラ・ネギ氏、日本人は取締役の大三川彰彦氏のみだ。経営陣の顔ぶれから、“ザ・グローバル企業”という風格が漂う同社。ゆえに、そこで働く社員たちも、当然国際色に富んでいるだろうことは想像に難くない。人事総務本部人事部部長代行の成田均氏は、同社の“グローバル状況”について次のように話す。「現在、当社は日本を中心として、世界各国にグローバルネットワークを構築しています。日本の東京オフィスで働く600名の従業員のうち、外国籍は15、6名。意外に少ないと思われるかもしれませんが、海外で働く社員が4000人以上おりますから、eメール、ビデオ会議など、日本国内で働く社員も英語を使う場面が多くあります」(成田均氏、以下同)同じトレンドマイクロの社員とはいえ、育ってきた国・地域が異なれば、ビジネス上でも文化の違いに直面することが多々ある。日本人同士でも価値観や感覚の違いがあるのだから、国境を越えればなおのことコミュニケーションで苦慮する場面は多いはずだ。「海外との感覚の違いとしてわかりやすい例が、ミーティング開始時間に対する感覚の違いです。日本人であれば、ミーティングの開始5分前に会議室に入室しているのは当たり前。ところがたとえばラテン系の人では、会議の開始時間に家を出るなんてことも(笑)。こうした行動は、怠けているからではなく、それがその国・地域でのマナーだから。相手を気遣っての行動なのです」多様な国籍の人たちと働くことによって生じる感覚の違い、文化の違いは、日常のそこかしこに出てくる。しかもその多くが、良かれと思ってやっていたことが相手を不快にし、ビジネスを停滞させてしまう要因になっているのだ。そうしたコミュニケーションの難しさは、グローバル展開する企業に常につきまとう悩みでありクリアしなければいけない課題といえる。

思い込みに正面から向き合う

文化の違いによるすれ違いや誤解を、トレンドマイクロではいかにして乗り切っているのか――。その一翼を担うのが、同社で全世界の社員を対象に実施しているTLC(Trend Learning Circle)という研修だ。同研修は、社員が自ら考え行動する「学習する組織」を実現するために、ワークショップを通じてその考え方を身に付けるもの。同プログラムは、TLC1.0、TLC2.0の2つのセッションで構築されている。TLC1.0は、学習する組織に必要なことや、これを実践するツールを学ぶ基礎コース。TLC2.0は、学習する組織をさらに進めるために自身の潜在力を最大化することを支援するワークショップとなっている。「TLCは、トレンドマイクロのあるべき姿を全社員が認識し、同じ方向に向かってビジネスを行うためのプログラム。多様な文化や価値観を持つ人たちと力を合わせて働くための共通言語といえるものなのです」TLCには、さまざまなトレーニングが盛り込まれている。その1つが、クリス・アージリスが提唱する『推論のはしご』(図表1)を学び、自分のコミュニケーションのとり方を振り返るというものだ。「先にお話した会議の開始時間に対する認識の違いがあるのと同じように、洋の東西を問わず、“思い込み”というものは必ず存在します。要するに日本人が考えている“前提”と海外での“前提”が異なっているということです」ある人が、会議に遅れたという事実を見て、「怠け者」だと解釈し、結論づけてしまうと、その人のすること全てを色眼鏡で見てしまう。相手にとっては準備に余裕を持たせるための“気遣い”だったかもしれないのに、だ。最初の思い込みが、その後の判断全てを変えてしまうということはありがちである。「思い込みが生まれるメカニズムを知る。これにより、“前提”がいかに“絶対”ではないかということを認識することができます。そこから、自分が持っている前提=思い込みに正面から向き合い、それらを崩すことにチャレンジしてもらいます」

本音と建前を知り何でもいえる組織へ

コミュニケーションを阻む要因は、思い込みや前提だけに限ったことではない。外国人と日本人の気質の違いとして、よく引き合いに出されるのが、ストレートにメッセージを投げかける欧米人に比べ、日本人は、本音と建前を使い分ける傾向にあるという点だ。「アジアの人は、相手のことを慮るあまり、会議の場で自分の考えを率直に発言できない人が多い。それなのに、会議が終わった後、部屋の隅で一部の人同士が立ち話しをして会議の“結論”を覆してしまう……。欧米人からすれば、オフィシャルな場で決めたことをアンオフィシャルな場で変えてしまうのはビジネスマナーに反すること。そうした問題を克服するために役立っているのがレフト・ハンド・コラムです」レフト・ハンド・コラムとは、1枚の紙を三つ折にし、右側に「実際に発言したこと」、真ん中に「その時に感じたこと」、左側に「本当はいいたかったこと」をそれぞれ記入し、本音と建前のギャップを浮き彫りにするトレーニングだ(図表2)。研修では、自分の日常的な事象に置き換えて本音と建前のギャップを考える。たとえば、妻から「毎月の小遣いを減らしたいんだけど」といわれたとする。建前では「子どもの教育費もかかるので仕方がない」となるが、本音は「下げてほしくない」といった具合だ。こうしたトレーニングを行なっていくと、「本音」と「建前」を意識するようになっていくのだという。「国によっては本音と建前のギャップが全くない人が多いなど、お国柄が出やすいです。それにこのレフト・ハンド・コラムは、実務でも本音をいいたい時にとても役立つ手法です。たとえば、会議の場で『レフト・ハンド・コラムで話をさせてください』という一言で切り出せば、本音をいうハードルがぐっと下がります。話を聞く相手も『ここからこの人は本音(重要な意見)をいう』と真摯に耳を傾けてくれます」本音で話し合うことで議論が深まり、企業を成長させるための新たな価値が生み出されていくのだ。

自分と向き合うことで普遍的な能力を身につける

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