J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年08月号

TOPIC① 気仙沼漁業協同組合支援チャリティセミナー 「狭くて不便な環境で働くマグロ船漁師に学ぶ ストレスをなくす技術」レポート 限られた資源・困難な状況でもストレスに負けない職場をつくる

去る5月11日、キャリアカウンセラー有志の震災支援団体J-Projectによる、気仙沼漁業協同組合支援チャリティセミナーが日本橋で行われた。講師の齊藤正明氏(ネクストスタンダード代表)は、会社員生活から突然マグロ船に乗ることになったという稀有な経験を持つ。そこから得た「マグロ船ストレスマネジメント」の勘所が、臨場感たっぷりに語られた。その様子をレポートする。
※なお、このセミナーの参加費の一部は、被災した気仙沼漁業協同組合に寄付された。

齊藤 正明(さいとう・まさあき)氏
1976年生まれ。2000年に北里大学水産学部を卒業し、バイオ系企業の研究部門に配属。2001年、研究所の所長の命令により、マグロ船に乗せられる。そこで見聞きした漁師たちのコミュニケーション術に感銘を受ける。2007年に退職、人材育成のネクストスタンダードを設立。現在は全国で講演や研修で活躍中。著書に『マグロ船仕事術 日本一のマグロ船から学んだ!マネジメントとリーダーシップの極意』(ダイヤモンド社/刊)他。

取材・文・写真/石原野恵

今あるヒトとモノで工夫するしかないマグロ船

現代のビジネスパーソンで、ストレスと無縁という人はまずいないのではないか。

今回の講師、齊藤正明氏も、かつてはまさに“ストレスフルな”職場で働いていた。大学卒業後バイオ系の会社に就職したが、職場の先輩や同僚は、無理をいう上司の下でどんどんやる気をなくし、「うつ」になる社員、出社しても一日中寝ている社員もいたという。齊藤氏も、いつ自分もそんな状況に追いやられるのかと考えていたある日、上司から「開発を一気に進めるために、マグロ船に乗ってマグロの全てを見てこい!」といわれた。唐突で理不尽な命令だ。しかしこの経験が、後に齊藤氏の人生を大きく変える。

「マグロ漁船では、1回の航海の40日間、1人当たり約2メートルの空間で過ごします。その間一度も陸に上がることもなく、仕事内容は肉体労働でハード。ところが漁師たちは、互いに仲良く協力し合って、笑いながら仕事をしているんです」

とりわけ齊藤氏が乗った船は、当時全国に500隻あるマグロ船のうちでも、トップクラスの売り上げを誇る船だった。なぜ漁師たちは和気あいあいと過ごして、しかも成果を上げられるのか。その背景には、次の3つの要素があると齊藤氏は話す。

1つめは、ストレスを上手に受け流すしかない環境だということ。漁の間は閉鎖された狭い空間で9人の漁師が生活するため、当然ストレスは溜まる。しかしそれをうまく受け流さないと、狭い船上で喧嘩になってしまうため、彼らはストレスをうまく受け流す技術を持っているのだ。

またマグロ船では、お互いに知恵を出し合わないと仕事にならない。漁の間は、病院に行くことも、機械を修理に出すこともできない。今あるヒトとモノで工夫をし、皆で協力し合わなくてはならないのだ。

そして、最もシンプルな理由が、「仲良くしているほうが儲かるから」というもの。

マグロ船の給与は、獲ったマグロを市場に売って、そのお金を船員皆で配分する。協力してマグロをたくさん獲ったほうが儲かるというわけだ。

「このような状況下で漁師たちが習得してきたストレスへの対応策は、ビジネスの場に全て当てはまるわけではないかもしれません。ですが、彼らが生き生きと働く姿からは、学ぶことが多くありました。そのエッセンスを紹介したいと思います」

ワークショップどれだけ多くマグロを獲れる?

講演の冒頭、齊藤氏は出席者に次のような課題を出した。

●皆さんは、今から同じ漁業組合の漁師です。できる限り多くの「マグロ」を獲ってください。

●今回のマグロは、「木へんの漢字」。1分間で思いつく限りの漢字を書いてください。辞書や携帯電話は使用禁止。

***

これを受けて、1分間会場は静まった。結果、参加者が書き出せた漢字は平均4~5個。最も多くて13個だった。会場で結果発表をした後、齊藤氏はこう続けた。

「簡単な漢字でも、いざ書こうとするとなかなか思いつきませんよね。今、皆さんは1分間自分だけで回答されました。ただ私は、携帯や辞書は使用禁止といいましたが、隣の人と相談するなとはいいませんでした。むしろ、皆さん同じ漁業組合の漁師だとお伝えしたのですが、相談し合わなかったのはなぜでしょうか。これこそが、職場のストレスを生む1つの要因なのではないでしょうか」

ストレス対応策①自分だけでやろうとしない

ストレスを溜めずに成果を上げるには、自分だけでやろうとせず、周囲と協力し合うことが重要だ。

「マグロ船に乗せられた当初は、人生のコースアウトだと思っていました。それでも自分は技術者だからと、船上でも食品の鮮度保持に関する本を読んでいました。そうしたら、ある時漁師の1人から怒られたんです。彼は、『どうやって俺たちがマグロを探すか知っているか』と聞きました。『やっぱり魚群探知機とか使うんじゃないですか』と答えると、違うと。むしろ探知機はほとんど使えないそうなんです」

では何によってマグロの位置を予測するかというと、海上のあちこちに散らばっている他のマグロ船から情報をもらうのだ。企業であれば企業秘密にしそうな情報を、漁師たちは教え合って、その海域に集まって漁をする。各自がバラバラに場当たり的に漁をするのではなく、情報を交換して、どの船も平均的に収獲できるようにしているのである。

マグロの情報だけではなく、漁師たちは基本的に、自分の所有物への執着心が薄い。私物の娯楽品も、周囲の人と次々と交換する。そのほうが色々な種類を楽しめるからだ。

「仕事だとどうしても自分が頑張らなきゃ、部署の数字を上げなくちゃ、と考えてしまいがちですが、それがストレスの原因になります。

それだけではなく、自分だけで完結してしまった仕事は、意外と成果が上がらないことがあります。漁師からいわれたのは、『学校を出るまでは自分で何とかしていくことが大事だけど、学校を出た後に大事なのは、いかに周囲の人と“カンニング”し合えるかだ』ということでした」

自分の頭だけで考えて独りよがりになることがある。それよりも大事なのは、相手のニーズをつかむことであり、マグロ船であれば、どこにマグロがいるのかを聞いてそこに行くことだ。仕事のストレスの原因は、自分の知恵を周りに教えない、そもそも“教える”という発想がないことにあるのではないだろうか。

ストレス対応策②「目標管理」をしない

漁師の仕事は非常にハードである。朝6時から翌朝3時までの肉体労働を、3時間の仮眠を挟んで20日間繰り返す。しかし、その成果として「今度の漁でマグロは何トン獲る」といった目標値は決めないそうだ。

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