J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年08月号

東洋思想に学ぶ 変化とともにあるための易経② 企業の存在意義を生み出す「黙の知」

常盤 文克(ときわふみかつ) 氏
元・花王社長、会長1933年生まれ。1957年東京理科大学理学部卒業、花王入社。米国スタンフォード大学留学後、大阪大学にて理学博士取得。研究所長、取締役を経て、1990年に代表取締役社長、1997年に会長に就任、2000年退職。現在は社外取締役などで幅広く活躍。著書に『知と経営』(ダイヤモンド社)『モノづくりのこころ』(日経BP 社)『コトづくりの力』(同)『ヒトづくりのおもみ』(同)など多数。

「黙の知」は企業の足腰東洋思想で理解を深める

前回に続いて、今回はまず企業に宿る「黙の知」の意義について、少し詳しく触れてみたい。

長年、経営と向き合った経験から、私はどの企業にも特有の「目に見えない、沈黙の知」があることを確信し、「黙の知」と名付けた。これは、ヒト・モノ・カネなどの経営資源を根源で動かしている知であり、力である。

ここで「知」について考えてみる。知は知であって分類することが難しいが、あえて「知の在りか」によって3つに分けてみる。データや文章のように数値や文字で紙やCDのような媒体の上に明示でき、誰とでも相互に伝達できる「明の知」、明示はできないが技わざとかノウハウのように個人に宿る属人的な知である「暗の知」、そして3つ目の「黙の知」は、その存在を直接に認識するのは難しいが、確かに集団の中に存在し、明と暗、2つの知を支えている沈黙の知である(図-1)。

黙の知は、企業という集団が年月をかけて育て上げてきた、知である。それは、非言語的であり、その企業独自の仕事の仕組み、仕事の進め方、ものの考え方、ことの処し方、さらには企業の文化、風土、社風、伝統、価値観といったものを包含した“知の塊”である。

企業に備わる知とは、明・暗・黙、3つの知の総体である――これが私の考える知の枠組みである。

私たちは、普段、目に見える、そして互いに伝達可能な「明の知」を通じて、明・暗2つの知をやり取りしながら、仕事をしている。ここで集団に宿る「黙の知」が豊かであれば、明・暗の知のやり取りも活発になる。そして、より豊かになった明と暗の知は、新しい知として、「黙の知」に落とし込まれる。このようにして一層豊かになった「黙の知」が、また明と暗の知のやりとりを一段と高いレベルに押し上げていく。このようなダイナミックスを通して、企業の知がスパイラルに高められていくのである。もちろん、この逆も起こり得る――黙の知が貧弱であれば、明・暗の知のやり取りも活発さを欠き、それが黙の知を一層痩せ細らせてしまう。

「黙の知」は、人になぞらえれば足腰に当たる。「あの人は足腰が据わっている」というが、企業においても足腰である「黙の知」は極めて重要である。ここに目を向け、この知を豊かにしていくことは企業経営の要諦といって差し支えない。

これは欧米流のマネジメントとは視点が大きく異なる。そこでまず、東洋的なものの見方を深めるために、「黙の知」とも関わってくる陰陽五行の思想について説明していきたい。

易と漢方の土台である陰陽五行の思想を知る

陰陽五行は、陰陽と五行が統合された思想であり、「易」と同様に漢方の土台をなすものである。

陰陽は、「万物は陰と陽の対立する一対が無限の変化を繰り返すことによって生まれた」とする思想である。万物は陰または陽単独では存在せず、常に陰と陽が一対となって存在している。天と地、昼と夜、南と北、男と女、親と子はいずれも陽と陰の関係にあり、また硬と軟、大と小、奇数と偶数なども同様に一対である。

こうした一対の組み合わせのうち、天、昼、南、男、親は陽であり、対する地、夜、北、女、子は陰である。ただし、物事は初めから陽もしくは陰と決まっているわけではない。陰と陽は相対的に決まる。一対の組み合わせにおいて、ある時は一方が陰になり、他方が陽になる。またある時は、その陰と陽とが入れ替わる。

親と子の関係を例にとるとわかりやすい。親と子は、親が陽で子が陰であるが、いつの日かその子も成長して結婚し、新たな家庭を築き、子どもが生まれれば、陽である親となる。

しかも、一対は対立する組み合わせでありながら、分かつことなく補完し合いながら存在している。これを「対立的統一」という。相互に影響し合い、補完し合いながら、共に成長していく関係である。

一方の五行は、森羅万象が木、火、土、金、水という五つの行(万物の存在を成り立たせる原素または潜在的形成力)の働き、作用によって生じるとする思想である。

五つの行には、それぞれ特性がある。「木」は、木のような性質を持つ物質や作用を指す。伸び伸びと育って枝を張り、葉を繁らせ、幹を太くしていくような、常に前向きなものである。「火」の性質は熱く燃え盛り、木よりもっと元気がいい感であるが、いつの日かその子も成長して結婚し、新たな家庭を築き、子どもが生まれれば、陽である親となる。

しかも、一対は対立する組み合わせでありながら、分かつことなく補完し合いながら存在している。これを「対立的統一」という。相互に影響し合い、補完し合いながら、共に成長していく関係である。

一方の五行は、森羅万象が木、火、土、金、水という五つの行(万物の存在を成り立たせる原素または潜在的形成力)の働き、作用によって生じるとする思想である。

五つの行には、それぞれ特性がある。「木」は、木のような性質を持つ物質や作用を指す。伸び伸びと育って枝を張り、葉を繁らせ、幹を太くしていくような、常に前向きなものである。「火」の性質は熱く燃え盛り、木よりもっと元気がいい感

東洋特有の循環と共生の思想

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