J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年08月号

Column① 生き生き働く社員と元気をなくす社員の違い ― ベテラン中堅社員のキモチ ―

キャリア発達が主観的または客観的に停滞してしまう現象を「キャリア・プラトー現象」という。青山学院大学経営学部の山本寛教授は、長年にわたりこの現象と昇進の関係や、労働者のワークコミットメント、労働観などについて研究し、多くの実績を残している。ベテラン中堅社員の中には、ポスト不足やその他の理由で、組織から承認されている感覚が持てず、モチベーションを低下させプラトー状態に陥る人もいる。そこで、そもそもこの層が置かれた状況の整理と、彼・彼女らをモチベートする方法を聞いた。


山本 寛(やまもと・ひろし)氏
青山学院大学 経営学部 兼 大学院経営学研究科 教授
1957年生まれ。1979年、早稲田大学政治経済学部卒業、その後銀行などへ勤務、大学院を経て2003年より現職。博士(経営学)。専門は人的資源管理論、組織行動論、キャリア・デイベロップメント。日本労務学会賞(奨励賞)、日本応用心理学会奨励賞、経営科学文献賞など受賞多数。著書に『人材定着のマネジメント―経営組織のリテンション研究』(中央経済社)、『昇進の研究―キャリア・プラトー現象の観点から』(創成社)など。

取材・文/木村美幸、写真/本誌編集部

ベテラン中堅とはどのような時期なのか

まず初めに、アメリカの発達心理学者、ダニエル・レビンソンの著書『人生の四季』* を参考に、この特集のターゲットである“30代後半から40代前半の社員”の企業内での立場や状況、そして彼らが人生においてどのような時期にあるのかについて考えてみたい。

レビンソンは、40代の男性40人の個人史を丹念に面接調査し、人の発達を

「児童期と青年期(~22歳)」

「成人前期(17~45歳)」

「中年期(40~65歳)」

「老年期(60歳~)」

の4つに大別した。各段階の境目には5年間の“過渡期”が設定されており、さらに細かい分類を見ると、33~40歳は「一家を構える時期」、40~45歳は「人生半ばの過渡期」と位置づけられている。そこで、この“ベテラン中堅”に関する考察も、30代後半と40代前半の2つに分けて行うことにする。

●30代後半の現況

レビンソン曰く「一家を構える時期」――自分の生活構造の中心である仕事や家庭に全力を注ぎ、若い頃から抱いていた野心や目標の達成を一直線にめざす年代。早い話が働き盛りであり、“向上”や“階段を昇っている様子”をイメージさせる。

“プレイヤー”としての独り立ちは、多くの人がすでに30代半ばまでに果たしているが、本当の意味で独立して自分の仕事ができるようになるのはこの時期だろう。自分が所属する部署あるいは仕事の領域に、しっかりと“錨(いかり)”を下ろして仕事の能力をさらに伸ばし、周囲から高い評価を得ていくことが、この年代にとって最大のテーマであると私は考える。

この時期ならではの課題は2つある。1つには、これまでの仕事の経験も踏まえ、これから先その部署や会社で、自分が何をしていくかということが明確にわかってこないといけないということ。2つめは、高レベルにある仕事の能力を、どこへどのように使っていくのかを明確にすべきであること。たとえば過去に自分がめざしていた方面に活かすのか、会社から求められている短期的な課題を集中的に解決するために使うのか……といったことをはっきり認識する必要がある。

●40代前半の現況

40代前半はどうか。プレイヤーとしての能力は最高度に上がっていて、会社からも本当の意味での業績を期待される時期。その多くが係長、主任、スーパーバイザーといった職に就き、組織や仕事を取りまとめる役割を担っている。

この年代で、もう1つ特徴的なのは、レビンソンが名づけた「人生半ばの過渡期」という側面。私自身も経験があるのだが、それまで仕事を通じて培ってきたものに少し疑問を抱くようになり、「大学時代にやりたかったことと、現在の仕事は全く違う。もう一度見直してみようか……」「本当に自分が大切にしたい価値観は……」といったことを多くの人が考え始める時期でもある。それまでの配置転換を振り返れば、会社が自分に求めているキャリアや役割がおぼろげながら見えてくることもあって、仕事への姿勢や方向性について、再構築する時期ともいえるだろう。

転職がクローズアップされるのもこの時期。高い成果を求められるエグゼクティブな人材として、ヘッドハンターから電話がかかる人が現れる。また技術者の場合、「このまま技術の世界で生きるのか、マネジメントに向かうのか」というデュアルラダーの入り口に差しかかるところだ。いずれにせよ、いろいろな意味で端境期にあることは間違いない。だからこそ、「キャリアの見通し」を示すことが重要だと、私は近年の研究を経て考えるようになった。これについては最後に言及したい。

この時期の社員に与えるべき仕事とは

“ベテラン中堅”が置かれている状況を明らかにしたところで、次に彼らの仕事に対するモチベーションや能力を引き上げるための策を提案していきたい。

本題に入る前に図表1を見ていただこう。E.シャインの提唱する「キャリア・コーン」である。縦の軸が階層、横が職能で、縦に上がれば昇進、横に動けば配置転換。これが回る(次々と異動する)ことによっても通常は上昇していく。キャリアを考えるうえでは、縦横の動きだけではなく、この図の中央に向かう「中心(中枢)性」という軸も考慮する必要があるということを表している。中枢にいるということは、組織の中心で、ポストに関係なく重要な役割を果たしていたり、認められていることを表す。もちろん、モチベーションも高い状態にある。ベテラン中堅には、この「中心性」の位置を含めてモチベーションの高い状態にいてもらいたいのが組織の本音だろう。そのために、まず最初に着目するのが「仕事の内容」。どんな仕事を任せることが、彼らのやる気(挑戦性)や能力を高めるのだろうか。

●30代後半の社員には

この時期には、大きな仕事を任せたい。具体的には、1人では達成できず、他部門や他社、さらには取引先との協力が必要になるような仕事だ。「自分の能力を最大限に使う」というステージは卒業し、自分自身の限界と「どこから他者との協力が必要なのか」を知ることは、この年代の人たちにとって非常に有用である。

●40代前半の社員には

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