J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年06月号

ウェイ設計の新たなアプローチ 急がば回れ! 施策展開より コンセプト設計にこだわる

経営理念やウェイの構築・浸透は、ビジネスリーダーたちを悩ませる古典的な命題である。
本稿では、そのコンセプト自体を魅力あるものにすることの重要性を説くとともに、
コンセプトを検討する際に重要な視点について提案したい。
企業として大切にしてきたもの――いわば「内省する」ことももちろん重要だが、
日本企業においては、「外」――外部環境をあえて意識することがより重要である。


鵜澤 慎一郎氏(うざわ・しんいちろう)
事業会社で財務・人事・新規事
業開発経験を経て現在に至る。
実務とコンサルティング両面で
豊富な経験を有し、空理空論で
はない実行性の高い方法での業
務変革・組織再編の導入・定着
支援を得意とする。最近では人
事部門のグローバル化・高付加
価値化支援に加えて、営業・経
理・情報システム部門を含めた
組織横断的な大規模プロジェク
トに注力。チェンジマネジメン
ト&ラーニング部門リーダー。
E-mail: suzawa@deloitte.com

ウェイのコンセプト自体を魅力あるものに

今回取り上げるのは、企業のウェイ――社会的な存在意義、中長期的なありたい姿、普遍的な価値観として提示されている内容を再考する方法である。

外資系企業ではMission、Vision、Values、日系企業では経営理念・社是・社訓・行動規範、価値観、○○ウェイなどと呼び名はさまざまであるが、読者が勤務されている企業でも何かしら自社の価値観を表現したものが存在し、日常的に目にする機会は多いはずだ。ある意味、こうした経営理念やウェイの構築・浸透は、チェンジマネジメントのコンサルティングとして非常に古典的でありながら、今日的にも企業経営者をはじめとするビジネスリーダーたちを悩ませ続ける難解なテーマともいえる。

最近のコンサルティング現場での声を拾うと、加速するグローバル事業展開やM&A、新規事業参入といったさまざまなビジネス面の事象が、自社の経営理念やウェイを再考する直接的なトリガー(引き金)になっていることが多い。老舗、新興企業問わず、これからの中長期的なビジネス展開にフィットした新しいコンセプト提示、または新規ではないにせよ、既存の定義・文言の拡大解釈や加筆修正、多言語翻訳による拡大展開といった活動が進んでいる。

他方で組織・人事側面の事象でみると、行き過ぎた成果主義人事の反省から、理念回帰やあるべき行動規範重視の目標設定、人事評価・処遇へと振り子を戻す模索も始まっている。

残念ながら、実態としては一過性の社内ブーム(プロジェクトチームが発足・推進している時だけのお祭りイベント)で風化してしまっていたり、さまざまな施策を打ち出したものの、残った成果は“お題目”としてのスローガン、ポスター、あるいは人事評価ウエイト配分の微修正といった、当初の期待とは程遠い出来上がりになっている、といったことも散見される。

理念やウェイといった抽象的な概念を企画し、コントロールする作業自体が元来、難しい。それゆえ、どうしても実態の活動を伴う施策展開の議論になるが、まずは元になるコンセプト自体が十分に練られておらず、洗練されていない状態のままでは浸透展開に移行しても早期に限界が訪れる。実はここが重要で、まずはそのコンセプト自体が魅力に乏しい、社員が興味を持てそうにないという状態を脱却することが大切だ。

内部と外部、両方に目を向ける

そこで原点に立ち返って、コンセプト設計はどのようにして進めるべきかをまず整理したい。もちろんいうまでもなく、理念・ウェイ等の設計・浸透方法に絶対解は存在しない。よって、あくまで参考例と考えてほしいが、筆者個人は経営戦略のベーシックなアプローチと相似形と考えており、それをシンプルに整理すると次の「内」と「外」という、大きく2つの概念に分かれる。

■企業の『外』にフォーカス-ポジショニング・アプローチ【提唱者】マイケル・ポーター(ハーバード大学ビジネススクール教授)

企業の競争優位は、市場の構造と自社のポジショニングによって決まるというもの。要は、『事業を成功させたいなら、勝てる環境を見つけて、そこでビジネスをすべき(よって外向き視点を重視)』という考え方。

■企業の『内』にフォーカス-リソースベーストビュー・アプローチ【提唱者】ジェイ・ビー・バーニー(オハイオ州立大学ビジネススクール教授)

企業の競争優位は、企業が保有している強みや内部資源によって決まるというもの。要は、『事業を成功させたいなら、他社にない優れた能力、優位性を大事にして、ビジネスをすべき(よって内向き視点を重視)』という考え方。

現実の経営戦略立案場面でも「内(強み)」と「外(環境)」、どちらか一方だけに完全に準拠して検討・設計を進めることは稀だろう。両方の側面から検討し、それを掛け合わせて最終的なものを生み出すのが基本的な進め方のはずである(図表1)。

同じように、経営理念やビジョンの設計場面でも、「内」と「外」の両面の観点から、基本的なコンセプトやキーメッセージを考えていくバランス感覚が必要不可欠だ。

内向きアプローチの功罪とは

内と外のバランスで見た時、多くの理念・ビジョンのコンセプト設計者やプロジェクト関与者は内向き視点からのアプローチに偏り過ぎていないか、振り返ってみてほしい。もちろんこれ自体を完全否定するものではなく、自社/自身の強みを内なる中から見つけ出すアプローチは非常に効果的な方法論であることは揺るがない。

経営論的な視点で捉えてみてもそうだ。「有能な経営者は強みを基礎とする―己の強み、上司の強み、同僚の強み、部下の強み、そして状況の強みを」と語ったピーター・ドラッカーの言葉を思い出す人もいるだろう。(『経営者の条件』ダイヤモンド社/刊)。

このように、内なる強み・コアコンピタンスに目を向けることの効能は、さまざまな場面で実証されている。組織開発的な視点で「うまくいかないことには執着せず、うまくいくことを中心に組織を構築する」と語ったA(I アプリシエイティブ・インクワイアリー)のデビット・クーパーライダー、心理学的な視点でポジティブな面に目を向けるマーティン・セリグマンの「心理学において解明されているのは半分、文字通り半分だけ(中略)。人の強みや人が得意とすることといった、その裏側はまだ解明されていない」という言葉を想起される方もいるだろう。

そのような経緯から、理念・ビジョンの構築場面ではしばしば、「我々が日常的に使っている社内独自の用語は何か?』「我々が大事にしている創業以来の精神は?』「会社や社員の行動を自然と規範している暗黙のルールや決めごとは?』といった投げかけを通じて内省し、キーコンセプト・キーワードを深層から紡ぎ出すカウンセリングやファシリテーションが行われる。

しかしそれだけでは、「顧客第一主義」「社会貢献」といったような、どこにでもあるような言葉やコンセプトが並び、社名を隠したらどこの会社のものかわからないものになるということが起こりうる。そしてもう一つ、致命的な問題は、この方法論だけでは自社の過去から現在までの延長線に思考や発想が限定されてしまい、非連続な世界への新しいジャンプができないことである。変化の激しい時代下で、自社では誰もやったことのない事業領域に踏み出す時、これまでの自分たちの思いや経験とは別の世界観が求められるはずだ。しかし、内向きなアプローチだけでは、新しいビジネスにマッチした新しいコンセプトがどうしても出ない構造に陥ってしまうのである。

外向き視点の重視で独自性、優位性へ

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