J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年04月号

ペガサス・カンファレンス2010レポート 「出現する未来」に向けて 学習する組織は何をすべきか

「ペガサス・カンファレンス」(正式名称:System Thinking in Action)とは、
「学習する組織」の関連図書の出版や教育事業を展開している
米国のペガサス・コミュニケーションズ社が開催している年次カンファレンスである。
2010年11月に行われた様子と、これまでのテーマなどを追うことで、
「学習する組織」という考え方の20年の歴史を紹介するとともに、
今後の企業が考えるべきことについて、
日本でのワールド・カフェ第一人者である香取一昭氏が語る。


香取 一昭氏(かとり・かずあき)
1967年日本電信電話公社(現NTT)
入社後、NTT各社を経て、2004年か
ら2008年までNTT西日本の常勤監査
役を務める。学習する組織の考え方
に基づいた組織変革を推進し、現在
は、組織活性化コンサルタントとし
て一連のワークショップ手法の普及
活動を展開。Mindechoe代表。ワー
ルドカフェコミュニティジャパン会
長。日本ファシリテーション協会
フェロー。

文・写真/香取一昭 組織活性化コンサルタント

米国ペガサス・コミュニケーションズ社が1991年以来、毎年開催している「ペガサス・カンファレンス」。企業、教育、医療、行政、大学、NGOなど広範な分野で「学習する組織」の実践に携わっている人々が参加する。ちなみに「学習する組織」は、1990年にMITのピーター・センゲが提唱した組織変革の理論であるが、最近では社会変革にも活用しようとする動きが広がりつつある。

ペガサス・カンファレンスの特徴としては、次の3点が挙げられる。

⑴「学習する組織」の中核的なディシプリン(原則)であるシステム・シンキングを中心に学習する組織の全般を扱う。

⑵メッセージ性の強いカンファレンスで、周到に選ばれた5人のキーノート(基調講演)とコンカレント・セッション(分科会)、フォーラムなどで構成されている。

⑶全体会議の会場を含めて全てのセッションの会場が円卓形式になっているなど、参加者同士の相互作用を促進する工夫がなされている。

本稿では2010年11月にボストンで開催されたカンファレンスの模様を紹介するとともに、学習する組織とペガサス・カンファレンスのこれまでの20年を振り返り、その変遷について考えることとする。

開催概要とメッセージ

2010年の年次大会は、11月8日~10日の3日間、ボストン市内のマリオット・ホテルで開催された。毎年、アメリカ東海岸と西海岸で交互に開催されており、2011年は西海岸のシアトルで開催される予定だ。2010年の参加者数は約400名で、米国内のみならず、ヨーロッパやアジアの10数カ国から参加している。日本からの参加者は2007年以降急速に増加しており、昨年も12名が参加した。

本カンファレンスでは、毎回統一テーマを掲げている。今回のテーマは「システム・シンキング実働中~新しい成功の循環を活気づける~」であった。このテーマには、リーマンショック以降の経済的低迷からの回復がまだ完全ではない中で、システム・シンキングおよびそれに関連するディシプリンを活用することにより、社会に活力を取り戻したいとの想いが込められている。

そして、今回の大会には、次のような主張が一貫して流れていた。――現在我々は大きな歴史の転換期にあり、これまでの組織や制度はうまく機能しなくなってきている。新しい成功と繁栄の循環に移るためには、企業や組織の活動の意味や目的について根本に立ち返ること、システム・シンキングの理解と活用を深めること、持続可能なリーダーシップを開発すること、およびダイアログを促進することが重要である――

なお、これまでのカンファレンスのテーマと特徴は図表1の通りだ。

教育問題へのフォーカス

今回のカンファレンスで際立っていたのは、教育問題へのフォーカスであった。そのことは、キーノート・スピーカーの1人に教育問題をテーマにした研究をしているアンディ・ハーグリーブス教授を招聘したことにも現れている。また、同じくキーノート・スピーカーとして登場したダニエル・キム(MIT組織学習センター及びペガサス・コミュニケーションズ社共同創立者)とピーター・センゲも、スピーチの中で教育問題に言及していたことが印象的であった(後述)。こうしたプログラム内容を反映してか、今回の参加者の中には、教育関係者が多かった。この背景には、校内暴力や退学者の増加、学力テスト低下などといったアメリカの教育現場が抱えている問題があるようだ。しかしその一方、小学校でシステム・シンキングを活用して成果を上げている事例も複数のセッションで紹介されており、インパクトがあった。

身体感覚を活用したワーク

さらに特記すべきことには「身体感覚の活用」がある。レゴや粘土を活用するワークや、合気道、詩作、インプロ、瞑想などのワーク・セッションが多数行われていたのだ。典型的なセッションでは、瞑想と絵葉書を使ったストーリー・テリング、詩作、粘土を使った制作を組み合わせることにより、深いリフレクション(省察)を促す試みがなされていた。

こうした身体感覚を活用したワークが注目されることは、論理的な思考だけでは到達できない深い気づきや創造性を喚起することにより、“新しい現実”を生み出そうとしていることの表れと考えられる。

ホールシステム・アプローチ

学習する組織においては、ダイアログ(対話)を通じて「出現する未来」を集合的に感じ取ろうとするので、ワールド・カフェや、A(I AppreciativeInquiry)

などのダイアログをベースにしたホールシステム・アプローチ

による会話が重視される。そのためペガサス・カンファレンスでは、対話の場づくりについてさまざまな工夫と仕掛けが施されている。

たとえば400名が一堂に会する全体セッションでも、参加者がダイアログしやすいように4人がけのテーブルを使っていて、基調講演の時間内にも何回か参加者同士の話し合いが組み込まれている。また、「グラフィック・ファシリテーター」という、講演の内容を絵で描くファシリテーターが常におり、そのグラフィックを見ることで参加者はアイデアや議論を刺激される。コーヒーブレイクの時間が長めに設定されているので、参加者同士の交流がしやすくなっているのだが、そうした休憩時間には、描かれたグラフィックを見ながら参加者同士、意見を交換している光景が見られる。

なお、オンラインでのワールド・カフェも試みられているという。インターネットの会議システムを活用して、ネット上で4人グループをつくって会話を進めるとともに、テーブルホストを一人残して他のメンバーを入れ替えるという方法が取られているそうである。

センゲとキムの基調講演

ここで、センゲとダニエル・キムの基調講演を簡潔に紹介しておこう。ピーター・センゲはペガサス・カンファレンスについて、参加者が対等な立場で話し合える場として貴重であり、これからも大切にしていきたいとしたうえで、次の3つの事例をビデオで紹介して、参加者に感想を述べさせた。

①システム・シンキングを使って自分たちが経験している問題について深く考えている小学1年生の授業風景

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