J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年04月号

PDCAの中の“話し込み”が 自律型感動人間を育む

全国に98店舗を展開し、効率化と顧客満足を実現している
経営手法で注目を集めるスーパーホテル。
サービスを犠牲にしない効率化を実現しているのは
上司と部下の話し込みによる夢の実現、理念の浸透、
そして、業務のPDCAを支えるサポートシステムである。

山本 梁介氏 会長

1989年12月設立。「安全、清潔、
ぐっすり眠れる」をコンセプトに
ホテル事業を展開。現在全国に98
の店舗を持つ。徹底した効率化を
図る一方、顧客志向は維持し、日
本版CSIランキング顧客満足度指
数で2回連続1位を獲得した実績
を持つ。
資本金:6750万円、従業員数:260
名、売上高:163億9900万円(2010
年度3月期)

取材・文/赤堀たか子、写真/本誌編集部

理念を絵に描いた餅にしないPDCA

ITを活用したオペレーションの効率化で低価格を実現するとともに、効率化により生まれた労力をサービスの向上に充てることで、高い顧客満足度と高稼働率を誇るスーパーホテル。成果を生み出す源泉は、“理念浸透主義”にある。

同社の経営理念は、「安心、清潔、ぐっすり眠れる」を提供することで、顧客の経済・社会的活動を支えるというもの。理念浸透とはこれを、現場と本社とが一体となって実践することである。山本梁介会長は語る。「当社のホテルにお泊まりになるお客様は、それぞれの地域にない商材を供給しよう、あるいは、地域に足らないノウハウを提供しよう、地域の事業を発展させようといって出張して来られた方たちで、いわば、地域の応援団です。そうした人たちが元気に活動できれば、地域の経済や社会が活性化します。スタッフの一人ひとりがそうした認識を持ち、お客様が活躍されるためのお手伝いをするのが我々の役割なのです」

理念を絵に描いた餅にしないためには、理念に基づきPDCAのサイクルをしっかり回すことが欠かせない。そのためにはまず、全社的な目標を明確にする必要がある。同社ではこれを “顧客に感動されるサービスを提供できること”としている。「たとえば“おはようございます”という言葉。感謝の気持ちが込められたおはようございます、おいしい朝食に込められたおはようございますなど、込められた思いの数だけ“おはようございます”がある。お客様の肩に一日中残っているような“おはようございます”がいえる――そんな対応をめざしています」

全社目標を達成するためには、求められる人材像も必要だ。同社では、「自律型感動人間」の育成に力を入れている。

自律型感動人間とは、周囲の人や顧客に心を配りながら、自分で考えて必要な行動が取れる人を意味する。「マニュアルに基づいた運営を行えば、お客様の不満足要因を取り除くことはできます。しかし、我々がめざしているのは、“こんなことまでしてもらえるのか”とお客様に感動していただけるサービスです。そのためには、顧客の立場に立って物事が考えられ、状況に応じた判断ができる自律型感動人間が不可欠です」

本気で取り組める仕掛けチャレンジシート

こうした全社目標を、現場では、当然ながら日常のPDCAの中で実現していくことが求められる。スーパーホテルでは、「チャレンジシート」と「ランクアップノート」を活用することで、これを支えている。

「チャレンジシート」とは、年度の初めにそれぞれの目標を書き入れるもので、PDCAのPlan(計画)に当たる。ここに書き込む目標は、全社目標をブレークダウンしたもので、たとえば、支店長や副支店長であれば、半期ごとの目標売上高や経営品質(身だしなみ、接客、清掃、朝食)の評価ランキングで何位をめざすといった具合だ。さらに、それを実現するために、具体的にどのような施策を行うかも併せて記載する。加えて、上記の施策を遂行するうえで必要となる能力開発の取り組みも記入する。部下のいる人は、部下の育成に関する取り組みも求められる。

こうして目標から具体的な施策、それに必要な能力までを一枚のシートに書くことで、具体的に取り組むべきことがはっきりするのだ。

もう1つ、チャレンジシートに書く要素に、「個人の夢や人生設計」がある。これは、自分が将来こうなりたい、こうしたいといったことで、仕事と直接関係なくてもよいという。「たとえば、“将来、結婚していい奥さんになりたい”という夢でもいいのです。それを書いた人は、“いい奥さんになるためにはどうすればいいか”と考える。すると、“笑顔を絶やさず、相手の気持ちに配慮できることが大切だ”などと気づき、それを仕事の中でも身につけようとする。つまり、個人としてありたい姿と仕事で自分がめざすものが重なれば、仕事にも本気で取り組めるようになるのです」

とはいえ、すべての人が仕事と自己実現の方向性を重ねられるわけではない。中には、自分の夢がはっきりしたとたん、会社を辞めていく人もあるという。しかし、それでもよいと、山本氏。「めざす方向性が違うと感じながらこの仕事を続けていても、いわれたことが腹に落ちないため、成長にはつながりません。それは企業にとっても、本人にとっても望ましいことではないでしょう」

夢をはっきりさせることで、ここで働く意義が見つけられた人だけが集まる組織になる。そうなれば、組織も自然と活性化されるのだ。

自信と豊かな感性を伸ばし自律型感動人間を育てる

「チャレンジシート」に書き入れる仕事の目標は、組織の目標と照らし合わせながら、上司と相談して決める。その際に肝心なのは、本人の優れている点を伸ばせるような目標設定をすることである。「自律型の人材を育てるうえで大切なのは、“自信を持たせること”。その人の優れている点を見つけ、伸ばせれば、その人は自信を持てるようになる。その結果、自信が土台となり、自分で考えて行動することもできるようになるのです」

そのため、目標は、少し高めに設定するという。それは、高い目標に挑戦することが、“感性を磨くこと”につながるという考えからだ。「日頃から、困難を避けていたり、他人に頼ったりしていては、感性は、磨かれません。苦しい時も逃げることなく、踏ん張って頑張れば、精神的に強くなります。精神的に強くなれば、周囲に目を配る余裕と感性が生まれ、他の人への感謝の念も生まれるのです」

行動を変える気づきは話し込みから

めざすところが決まれば、次は、実行(Do)だが、ここで「ランクアップノート」が使われる(前ページ写真)。これは「チャレンジシート」に記した目標や具体的な施策、能力開発を日々の業務に落とし込んで管理をするツールだ。「ランクアップノート」には、1週間単位で行動計画を書き込み、その実施状況を毎日確認しながら、自分自身の行動や考え方を振り返り、気づいたことを記入する。つまり、PDCAのDo(実践)とそのCheck(確認)に当たる。

さらに、この「ランクアップノート」を週に1回から2週間に1回の割合で上司がチェックし、それをもとに部下と面談を行う。「話し込み」と呼ばれるこの面談は、部下を育成するうえで同社が最も大切にしている要素だ。「チャレンジシートもランクアップノートも、話し込みをするための手段です。話し込みでは、部下の抱えている課題や悩みなどについて突っ込んで話し合います。たとえば、主体的に仕事をしていても、感謝の気持ちがなければ、周囲ともうまくやっていけませんし、お客様に感動してもらえるようなサービスもできません。そういう人には、“一人ひとりの力は知れたもので、人の助けがあり自分がある”ということを気づかせる必要があります。その気づきを生み出すのは、話し込みです」

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