J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年04月号

PDCAサイクルのどこで どんなミスが起こるのか ~失敗から学ぶために~

PDCAを回すということは、計画し、実行した内容の成果や妥当性を検証し、
良いものはさらに前進させ、問題点があれば原因を探り、改善策を講じることを意味する。
そこでは常にミスや失敗が付きまとうが、ミスをしてしまった際、
どうすれば再発を防止できるか、事態を改善できるか、そしてそこからどう学べるかを、
ヒューマンエラーの心理学的研究の第一人者である海保博之氏に聞いた。


海保 博之氏(かいほ・ひろゆき)
1967年、東京教育大学大学院博士
課程中退。教育学博士。徳島大
学助手、筑波大学大学院人間総合
科学研究科教授などを経て、2006年
より東京成徳大学応用心理学部健
康・スポーツ心理学科教授。わか
りやすい表現とヒューマンエラーの
心理学的研究に従事している。主
な著書に『「ミス」をきっぱりなくす本』
(成美堂出版/刊)、『くたばれマニ
ュアル!―書き手の錯覚、読み手の
癇癪』(新曜社/刊)ほか多数。

取材・文・写真/鹿野和彦

必ず起きるミスに個人・組織が強くなるには

なぜ人間は失敗やミスを犯すのか。それは人間だから。ミス=ヒューマンエラーと呼ばれるように、ミスは極めて人間的なものである。人間は常に進化しようと考え、絶えず何かに挑戦してきた。挑戦にはリスクがつきもの。したがって、どんなに注意を払ってもミスを犯す。また、これまでつくり上げてきたものを守らなければならない時でも、人間はうっかりしたり、確認を怠ることがあり、ミスを繰り返すのである。

近年、企業の不祥事と呼ぶべきものが頻発している。こうした出来事の背景には、個人、組織レベルでのミスの連鎖があり、それぞれの対処法を、PDCAサイクルの中にうまく組み込めていないことがあると考えられる。また企業の社会的責任が厳しく問われている現在、社会的使命と利益、利便性が対立するケースも少なくない。守るべきミッションよりも利益・利便性を優先した結果、小さなミスが、取り返しのつかない問題へと発展してしまうこともある。

もっとも、ミスは犯さなければよいというものでもない。ミスを完璧に排除したいなら、それこそ何もしないのが一番。しかし、それでは個人も組織も進化しない。日々のPDCAを回し、そこから学んで成長するためには、失敗を恐れずチャレンジすることも必要だ。大事なのはミスに強くなること。PDCAの各段階で、ミスを犯さないように注意するとともに、ミスをしたらそれをリカバリーする術を持つことである。

つまり、PDCAとミスとの問題は、突き詰めれば企業文化をどうつくるのかという問題になる。犯してはならないミスと、恐れてはならないミス。ミスにはこの2つの側面があることを認識し、組織で日常的に回すPDCAサイクルの中にミス対策を盛り込んでいくことが重要なのだ。

ミス対策を企業文化として確立するのは容易ではないが、一度文化として確立した企業は強い。ミス対策を単なるリスク対策の道具にとどめず、企業の成長・発展の道具として活用できるからである。これによって、より高度なPDCAサイクルを、企業の成長と発展の仕組みとして定着させることができるだろう。

PDCAサイクルの各段階で起きるミスと対処の基本

PDCAを回す際には、ミスを防ぐことと、ミスを活かすことの両面からアプローチしていくことが重要である。以下、PDCAサイクルの各段階に沿って、発生しやすいミスとその対策について考えてみたい。

●「計画」段階で起きるミス

~使命の取り違えエラー~

仕事には必ずミッションがある。計画段階で発生する最大のミスは、そのミッションを取り違えること。「使命の取り違えエラー」と呼ばれる問題である。

たとえば、鉄道会社や航空会社で発生する事故に、“安全性”というミッション以上に、スピードや利便性といった企業収益につながるミッションを優先した結果によると考えられるものがある。こうした「使命の取り違えエラー」を防ぐために重要なのが、リーダーの役割である。特に安全性が最優先される職場であれば、繰り返しその重要性をリーダーがメッセージとして伝えていく必要がある。

ただし、漠然と「安全が大事」といっても現場には伝わらない。トップリーダーが“安全第一”を語ったら、サブリーダーや当事者が具体的な行動レベルに落として、ミッションの見える化を推進することが大切だ。

もっとも、企画セクションのように自由な発想が求められる部署で、あまりにも厳密に行動レベルまで規定すると、自由な発想と試みが阻害されることがある。

リーダーは、絶対にミスを犯してはいけない所と、リスクを犯してでもチャレンジすべき所を仕分けし、後者に対しては、「この程度までのリスクは許される」といった境界線を時には明示することが求められる。

●「計画」「実行」段階で起きるミス

~思い込みエラー~

指示された事柄や相手の言葉を自分勝手に思い込んでしまった結果、ミスをしてしまうことがある。いわゆる「思い込みエラー」と呼ばれるもので、ミッションを具体的な計画(Plan)に落とし込む時、あるいは計画を実行(Do)に移す段階で発生する。「思い込みエラー」を防ぐには、自分の知識・経験だけで判断せずに、視点を変えた見直しや、上司のチェックを入れること。

ただし、「思い込みエラー」についての対応も、新規商品やサービスの開発といった自由な発想が求められる職種や場においては、別のアプローチが必要になる。彼らにとってはむしろ思い込むことのほうが大切で、思い込まなければ仮説も生まれない。仮説として想定していたものが単なる“思い込み”か否かは、リーダーが判断を引き受けるべきだろう。そこではともかくやらせてみて、責任は自分でとるという高リスクの判断も含まれることがあってよい。

●「実行」段階で起きるミス

~うっかりミス~

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