J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2012年08月号

企業事例1 ダスキン 現場の知恵を引き出す仕組みワークアウトで問題発見力育成

問題を問題として認識し、改善するには、現場の人間が主体性を持って考えなくてはならない。ダスキンが展開するフードサービス、ミスタードーナツ事業本部では、ワークアウトという問題解決手法を導入することで、現場スタッフが主体的に問題点に気づき、改善案を提案する職場へと風土をつくり変えていった。その導入時の経緯、職場への浸透・定着のプロセスから、問題発見力や、問題への感度を高める職場づくりのヒントを学びたい。

香田 次郎 氏
ミスタードーナツ事業本部 MDカレッジ 学長
桝本 太健 氏
ミスタードーナツ事業本部 MDカレッジ 研修室 室長
大館 弘美 氏
ミスタードーナツ事業本部 MDカレッジ 研修室 トレーナー

ダスキン
1963年設立。清掃用具のレンタルサービス、環境衛生サービス、店舗販売によるフードサービスなど、多岐にわたる業態でフランチャイズビジネスを展開。1971年に第一号店が開店した「ミスタードーナツ」は、現在では国内1347店舗(2011年3月末現在)を持つ事業として成長。アジア圏を中心に海外にも展開を広げる。
資本金:113億円(2011年3月31日現在、単体)、売上高:1773億円(2011年3月期、連結)、従業員数:2033名(2011年3月31日現在、単体)。

[取材・文・写真] = 石原野恵 [写真提供] = ダスキン

全加盟店巻き込みで進めた問題解決手法の導入

ミスタードーナツの全ショップでは、店主、アルバイト含むスタッフが参加するチームミーティングを行っている。ワークアウトという問題解決手法を応用し、参加者全員が意見を出して、解決策を立て、実行するための仕組みだ。

この導入により、現場最先端のスタッフが、問題を見出し、全員で解決しながら仕事を進めることができるようになった。しかし、それ以前の店舗では、店主のトップダウンで運営が行われ、スタッフが意見をいうこともほとんどなかったという。

大きな転機となったのは、2002 年に発生した肉まんの無認可添加物使用問題だ。これを機に同社では、品質管理やコンプライアンスの問題を見直し、再生委員会の結成、当時の社長交代と全社を挙げて大幅な組織改革に着手した。その一環として導入したのが、経営手法のシックスシグマである。

当時を振り返って、ミスタードーナツ事業本部の教育部門、MD(ミスタードーナツ)カレッジの学長、香田次郎氏は次のように話す。「誰のために、何のために事業を行っているのか。その原点を全スタッフが改めて見直すことになりました。顧客満足のために、品質管理を徹底しなくてはならないという認識が高まったのです。そこで、問題の論点を明確にし、全員が共有して解決に向かわせるための手法として、シックスシグマを導入しました」

導入開始は2003 年。ミスタードーナツ事業本部をはじめとした全社に手法を展開していった。対象も、まずは経営層から始め、管理職、一般社員と徐々にシックスシグマのノウハウとスキルを教育していき、最終的には全店舗に手法を浸透させた。

ただし、経営課題のような大きな問題を取り扱うシックスシグマは、現場には不向きな面もある。「 店舗にはアルバイトスタッフもいますし、店舗と本社では取り扱う課題も違う。そこでシックスシグマの簡易版ともいえるワークアウトを、全加盟店を巻き込んで推進しました」(香田氏)

現場の知恵こそが店舗の価値を生む

ワークアウトは、1980年代末に米国GE(ゼネラル・エレクトリック)社でジャック・ウェルチが構築した風土変革のための手法で、職場や階層を越えたチームを組み、改善案についてファシリテーターの支援を受けながら参加者全員が議論する。最後に、参加者が解決策をマネジャーに提案し、その場で実行する・しないが決定される。

同社では、2007年から始めた「運営力強化プログラム」の1つとして、ワークアウト研修を行った。導入に際しては、MDカレッジの研修担当者が全国の加盟店を回り、まずはエリアマネジャーに、そして各店舗の店主に、ワークアウトを進めるためのファシリテーションスキルの研修を実施。店舗スタッフにも順次、課題の洗い出し、解決策の立案などの手法を伝えていったという。「現場に落とし込むにあたっては、相当時間をかけました」と話すのは、研修室室長の桝本太健氏。

「 ワークアウトを導入する以前も、店舗では月1回の全体ミーティングを行っていました。しかしそこでは、店主がトップダウンで商品の販促方法や方針を伝える業務連絡的なやり取りが中心。ワークアウトのように、チーム参加者全員で考える発想も手法もなかったのです」(桝本氏)

そのような中で、現場のスタッフの理解を得るには多くの壁があった。アルバイトスタッフを本業務以外のミーティングにどれだけ拘束できるかという問題や、そもそも忙しくてやる時間がないといった反対の声も少なくなかった。手法を推進する側の本部社員も、半信半疑ながら取り組んだ部分もあったという。

「ワークアウトの仕組みを導入したからといって、すぐに目に見える成果につながるわけではありません。そもそも、店舗では『問題解決したからといって何になる』といった雰囲気も少なからずありました」(桝本氏)

それでも地道に導入のための取り組みを行ったのは、品質管理の問題はもちろんのこと、業界での生き残りのためには、顧客満足に向け現場のスタッフが自ら考え行動することの重要性を強く認識していたからだ。

「かつては、店主のトップダウンでも十分な利益を生むことができていました。しかし、競合他社や、加盟店舗数の増加による社内競合の中で自分たちの店舗の価値を高めていくには、現場が知恵を出さなくてはなりません。店舗スタッフは、お客様のこともオペレーションのことも一番わかっている。その現場で考えてもらい、自分たちで対策を決めてやってみることの意味は大きいと考えました」(桝本氏)

好事例を共有するチームミーティング活動発表会

その後、2年ほどかけて、徐々に店舗にもワークアウトが浸透していった。

運営力強化プログラムに先駆けて、同事業本部では「ミステリーショッパー」(覆面調査)を行っていたが、その対策のためにワークアウトを活用する店舗があったのだ。トレーナーの大館弘美氏は次のように話す。

「ミステリーショッパーでは、各店舗のQ.S.C(. Quality、Service、Cleanliness)レベルに点数をつけます。運営力強化プログラムを始める2年前から行っていた取り組みでしたが、なかなかその点数が上がっていかない。店舗としてはしっかりやっているつもりでも、Q.S.C.の点数が低いという店主の問題意識が現場のスタッフにも伝わり、チーム全体で解決策を考えるようになっていったのです」(大館氏)

ワークアウトの成功事例が一度生まれ、共有されると、広まるのは早かったという。導入当初は、本部主導で月に1回のワークアウト実施を義務づけ、店主がファシリテーターになり議論を進める方法を取っていたが、次第に各店舗が自発的に実施するようになった。名称もワークアウトから「チームミーティング」へと、より親しみのあるものに変更。開催頻度や時間、ファシリテーターの人選も各店舗に一存され、現場の必要に応じて行われている。

また、成功事例の共有のために、現在は年に2回、「チームミーティング活動発表会」を実施。エリアと全国で大会が行われ、各店舗スタッフがチームミーティングの取り組み事例を発表し、優秀店舗には表彰と報酬が与えられる。

「発表会で他店舗の取り組み事例を聞くと、それを自分の店舗に持ち帰って参考にできます。成功事例を共有してフィードバックすることで、年々競い合うにふさわしい取り組みが増えてきました。仕組みの話以上の濃い内容が多いんです」(桝本氏

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