J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2012年08月号

Opinion 1 大きな目標を持つことが問題発見感度を高める

問題発見とは何か。問題発見感度を高める方法はあるのか――。それは、大きな夢を持つことだ、と日本学術振興会理事長で工学博士の安西祐一郎氏はいう。では、どうしたら、大きな夢や目標を持てるのか。それは生きることだ―― 問題発見・問題解決のメカニズムと鍛え方について脳科学にも詳しい安西祐一郎氏に聞いた。

安西 祐一郎(あんざい・ゆういちろう)氏
独立行政法人 日本学術振興会理事長
1946年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院工学研究科博士課程修了。カーネギーメロン大学人文社会科学部客員助教授、北海道大学文学部助教授、慶應義塾大学理工学部教授を経て、93年~2011年同理工学部長、01年~09年慶應義塾長。専攻は認知科学、情報科学。著書に『心と脳』(岩波新書)、『問題解決の心理学』(中公新書)、『認識と学習』(岩波書店)、『教育が日本をひらく』(慶應義塾大学出版会)などがある。

[取材・文・写真] = 髙橋美香

目標・手段=問題発見・解決

私たち人間は、日々、難しい“問題”にぶつかり、それをどうにかこうにか解決しながら、一つひとつの仕事をこなしている。皆、意識する・しないにかかわらず、常に問題解決者として生活しているわけだが、そもそも“問題”とは何かを考えてみたい。

“ 問題”とは、「夢」「希望」「願望」「目的」などといった、目標を達成できない時に生じるものである。つまり、目標があって初めて、問題があるというわけだ。そもそも目標や夢のない人は、何の問題も発見できない。

そして、夢や目標を達成できないがために生じる問題とは、達成するための“手段”がわからないということである。たとえば、「10 年後、当社は世界に通用するグローバル企業になる」という“目標”があったとする。この段階では、どうすればその目標を達成できるのかという“手段”まではわからない。だから、問題なのである。

つまり、この“目標”と“手段”を合わせたものこそが、私たちが日々直面している“問題”の正体。

“問題”を発見するとは、目標と手段を発見することであり、すなわち発見した時点で「問題解決」もできることがほとんどだ。

ただ、目標と手段の両方が揃っていないこともある。10年後にグローバル企業になるという目標自体が、間違った目標であるかもしれないからだ。

ようするに、目標や手段がわからない曖昧な中から、それらを見出していくことが、「問題発見・問題解決」ということができるのだ。

問題を発見するとはどういうことか

では、私たちは、どのように問題発見を行っていけば良いのだろうか。

問題を発見するうえで、最も重要なのは、「目標」を見つけ出すということだ。目標が明確になれば、それを達成するための手段もわかる。

だが、大きな目標の手段は、この手段より下の次元の目標になっているというケースがほとんど。目標と手段は、“入れ子”のような関係になっている(図表1)。

たとえば、「10年後にグローバル企業になる」という目標を達成するための手段として、「グローバルに通用する人材の育成プログラムをつくる」。これは手段だが、プログラムをつくること自体が目標ともいえる。さらにそのプログラムをつくる手段として、他社で行われている同様のプログラムの事例を収集する――というように、グローバル人材を育成するプログラムをつくるということは、手段であると同時に、目標そのものにもなっているという関係だ。そして、大きな目標の下についている目標や手段ほど、見つけやすいし、解決しやすい。

だから、問題を発見するために大事なことは、大きな目標を持つということになる。

揺るぎない大きな目標を持ってさえいれば、その下に続いていく目標を見つけることは簡単だ。

よく企業のCEOなどで次々と目標を達成していく人がいるが、それはもっと大きな願望を明確に心に抱いているからだろう。

「夢を描けば、夢は叶う」といわれるが、これはまさに問題発見・問題解決と同じ構造といえるのだ。人間は、「どうしてもこうしたいという目標を持つと、その目標を実現するための手段を発見しやすくなる。生物学的な心のメカニズムがそうつくられており、このことは、学術的な実験でも裏づけられている。

たとえば、大きな目標があると、それに関連する事象が目に入りやすくなったり、混沌とした情報から関連した情報を拾いやすくなったりする。

これは、カクテルパーティ効果と呼ばれるものだが、カクテルパーティのように騒がしい空間でも自分の名前を呼ばれるとすぐに気づくことができる。このことは、膨大な情報がある中でも、自分の名前など興味関心が高いものに自然と反応できることを意味している。

このように、人は何か自分が心の中にテーマを持っていると、混沌とした情報の中からでも、自分に必要な情報だけを敏感に拾い出すことができる力を持っている。

だからこそ、大きな目標の有無が、問題発見・解決に必要な糸口がすぐに見つかるかどうかに大きく影響してくるというわけだ。

心の中に揺るぎないイメージを描くことは、問題解決に必要な情報をうまく再構成して解決のために活用するために不可欠な要素といえるだろう。

背景を読み取る力が問題発見感度のカギ

強い目標・揺るぎない目標を持っている人は、目標を達成するための手段を意識して見つけ出そうとせずとも、自然にできるようになっていく。そうした状態のことを、心理学の世界では「意識下」という。

たとえば、プロの作家やスポーツ選手などといったその分野の熟達者たちは、常に大きな目標を持った問題発見の専門家でもある。

作家であれば、芥川賞を受賞したい、スポーツ選手であればオリンピックで金メダルを獲りたいという大きな目標をいつも心に抱き、自己鍛錬をしていると、自然と意識下で、そのために必要な手段を見つけるという問題発見・問題解決ができるようになる。

目標を設定し、それを達成するための手段を考えて実践を繰り返していくことは、問題発見感度を研ぎ澄ませる訓練ともいえるのだ。

プロの作家やスポーツ選手等の熟達者のように意識下で問題発見・問題解決をできるようになるには、1つのことを2万時間は没頭して行う必要があるといわれている。

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