J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2012年10月号

企業事例1 アイシン高丘 ものづくりの基盤技能を育成するPMマスター研修制度

自動車関連の鋳物を生産するアイシン高丘は、TPM活動の高さで知られるが、その基盤になっているのが、ものづくりの「核」となる班長クラスを育成する3ヵ月間のPMマスター教育である。30年間もの長きにわたり継続されている、このプログラムの概要とは。

水野徳秋 >> 総務部教育センター チームリーダー

アイシン高丘
1960年(昭和35年)3月設立。基盤である自動車部品事業の拡大と技術の向上をはかるとともに、そのノウハウを他分野で活かし、新たなビジネスの創造をめざす。
資本金:53億9600万円、売上高:1944億円(連結、2012年3月期)、従業員数:2446名(2012年3月31日現在)

[取材・文] = 梶 文彦

班長昇格の要件PMマスター

「うちの会社は、やめるのがヘタな会社ですから、一度始めたらいつまでも続けるんです」と語るのは、アイシン高丘 総務部教育センター チームリーダーの水野徳秋氏。同社は、ものづくりに力を入れる名古屋地区の企業の中でも、「TPM(総合生産保全)」※1や「からくり改善」※2で全国的に知られる会社である。1960年、トヨタ自動車と新川工業・愛知工業(後のアイシン精機)の鋳造部門を統合し自動車部品の鋳物に特化した高丘工業を設立、その後アイシン精機の資本などが入り、1986 年アイシン高丘が誕生する。現在は、自動車部品を主体とする鋳造・機械加工、塑性加工および音響製品の製造・販売などを行う。

業務が鋳物の成型とその加工だけに、加工技能は同社のものづくりの基盤になっており、それだけに、技能者教育は必須要件だ。1981年にはTPMの導入を決め、自主保全活動に取り組んできた。そして、翌1982年、技能者教育の基盤としてスタートされたのが、3ヵ月間の集合教育で生産現場のリーダーを育てる「PMマスター教育」制度である。

以来30年、25歳~35歳の製造部門の班長候補者を対象に、研修センターで年に4回開催される。1回の参加者は10人ほどで、年間40人ほどが育成される。

これまでの修了者は917名に上り、そのうち現社員は665人、全社1848人の3分の1を占める。主催は総務部教育センターで、水野氏がチームリーダーを務めるが、水野氏自身も、これまで116 期が行われたこの研修の24 期生である。

水野氏は、1979 年に同社に入社後、工機部、TQM(総合的品質管理)・PM(設備保全)推進部、生産技術部TPM推進担当と業務を担当し、2011年7月から技術統括部TPM担当と、教育センターのチームリーダーを兼任。技能出身者が教育センターで技能教育のリーダーを務めているということからも、同社の技能教育にかける意気込みを知ることができる。

図表1には、同社で行われている技能教育が記されているが、ここにある以外で改善実践が行われているのはTPS 研修である。PMマスター教育は、好不況の波にも変わらずに実施され、同社の技能を支える屋台骨の研修という位置づけだ。

上司と本人のやる気が第一事前面接でしっかり確認

このPMマスター教育制度は、班長昇格の資格要件になっているため、基本的には昇格候補者は全員が対象になる。しかし、本人と上司に、事前面接で参加の意志をしっかり確認するという。昇格の資格要件なら、上司も本人も無条件で研修受講に了解しそうなものだが、なぜしっかりと確認する必要があるのか。「対象になる人は25歳~35歳頃の、部門で最も仕事ができる人たちで、職場ではなくてはならない存在です。この研修に参加するということは、その期間はその人たちを現場から抜くことになります。その間の受講生の人件費は本社が持ちますが、人を補充しないので現場がなんとかやりくりしなくてはなりません。このやりくりは、上司にとっても大きな課題で、やりくりがつかないために、参加は次回にしてほしいといわれるケースもあります」(水野氏、以下同)。

また、研修に参加する本人にとっても、期間中、現場を離れるのは大きな課題だ。というのも、受講生たちには年代的に、家庭を持つ人も多く、収入がほしい時期である。しかし、研修参加中は定時出勤・定時帰宅で残業や夜勤手当などがつかない。つまり、大幅な収入減を覚悟しなければならないのである。

職場も本人も、覚悟が必要な研修受講。プログラムを推進する水野氏自身、そうした参加者や職場の気持ちの良き理解者だ。だからこそ、事前面接で本人と上司の覚悟とモチベーションを確認し、後押ししている。

そんな困難を克服して受講する研修だけに、参加者は皆、真剣そのものである。

2ヵ月の集合教育と1ヵ月の現場実習

PMマスター教育のねらいは、設備と品質に強い自主保全の核となる人材を育成すること。まさにアイシン高丘における、生産現場を支える中核人材を育成することだが、より具体的には、以下のような能力の向上と、育つ場づくりが目的である。

①一般オペレータの模範的自主保全実践者としての能力を育てる

②職制およびサークルのPM活動を補佐援助できる能力を育てる

③正しい操作と小修理・小改善ができる能力を育てる

④PMマスター相互の交流と自己啓発を図る場をつくる

そしてプログラムは、図表2のように、事前面接、知識・技能教育(集合教育)、保全道場(保全留学)、現場実践活動、改善事例発表会からなっている。知識・技能の集合研修が1.5ヵ月間で、その後0.5ヵ月間「保全道場」があり、最後の1ヵ月は自分の職場で「現場実践活動」を行う。

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