J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2012年11月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 正しい倫理と自己変革が社会に貢献する人格と組織を育む

革新的なサービスにより、設立から10年あまりでネット金融最大手に成長したSBIホールディングス。2008年には、SBI大学院大学を設立、人材育成の分野にも進出した。同グループを率いる北尾吉孝社長に、人材に対する思いを聞いた。

北尾 吉孝(Yoshitaka Kitao)氏
生年月日 1951年1月21日
出身校 慶應義塾大学 経済学部
ケンブリッジ大学 経済学部
主な経歴
1974年 4月 野村證券 入社
1978年 6月 英国ケンブリッジ大学 経済学部を卒業
1989年11月 英国ワッサースタイン・ペレラ・インターナショナル 常務取締役
1991年 6月 野村企業情報 取締役(兼務)
1992年 6月 野村證券 事業法人三部長
1995年 6月 孫正義氏の招聘によりソフトバンク 常務取締役として入社
1999年 7月 SBIホールディングス 代表取締役社長 就任
現在に至る

SBIホールディングス
1999 年7月設立。株式等の保有を通じた金融を中心とした企業グループの統括・運営等を行う。
資本金:816億6,300万円、売上高:1,450 億0740万円(2012年3月期)、従業員数:3,149 名(連結、2012年3月31日現在)

インタビュアー/赤堀たか子
Interview by Takako Akahori
写真/武島 亨
Photo by Toru Takeshima

何時も才より徳で人を選ぶ

――会社設立から13年、御社は、規模拡大から経営体質を強化する時期に移っています。新しいステージの経営戦略に照らし、どのような人材を求めているのでしょうか?

北尾

私どもは、13年前に会社をスタートさせた時から、人の採用については、基本的に「才より徳を重視する」ということを言い続けてきています。

人間の才(能力)というのは、もちろん多い少ないは確かにありますが、その差は天から見れば微々たるもの。仏教でいうところの「賢愚一如」、つまり、天(神、創造主)から見れば“賢いのも愚かなのも同じ”なのです。

才で人を採用すると、才が徳と相まっていればいいのですが、往々にして才が勝ち過ぎ、徳が薄い人が結構いるのです。小さい頃から人よりちょっと勉強ができ、また、大人になってからも仕事が他人より少しできたりすると、傲慢になったり高慢になったりしがちです。

また、才がある人にありがちなのは、努力を惜しむことです。普通の人は、わからないことが多いために努力する。才がある人が一読してわかったものと、才がない人が努力してわかったものとでは、結果としては同じかもしれませんが、そこまでのプロセスにおいてどれだけ努力したかにより、人間的な違いができてきます。

そして、徳性が高い人の周りには、自ずと徳性が高い人が集まってきます。論語に、「徳は孤ならず。必ず隣あり」という教えがある通りです。また、アメリカの鉄鋼王カーネギーの墓にも、「己より優れた者を周りに集めた者、ここに眠る」と書かれています。多くの人がカーネギーの人間性に魅かれ、彼を支えたからこそ、多くの鉄鋼業社の中で最も成功を収めることができたのです。カーネギーは、事業で得た財産を社会のために惜しげもなく差し出しました。そうした行為からも、彼が徳性の高い人だったことがわかります。

ですから私も、自分の周りにどれだけ徳性が高い人を置くかということに腐心しているのです。

―― 厳しい経営環境下で目標を達成するためには、徳よりも才を重視してしまうことはないのでしょうか?

北尾

目標を達成するために正義を犠牲にするということはありません。利益というのは、義を貫かなければ決して得られないと思います。

論語に「君子は義に喩り、小人は利に喩る」という言葉があります。君子は、正しいか否かで物事を判断するが、小人は、儲かるか否かで判断するという意味です。

目標というのは、「一定の経済環境が続くとして、このぐらいの会社にします」ということです。私どもも営業利益1000億円という目標を数年前に掲げましたが、その後、パリバショック、リーマンショック、ギリシャショックがあり、欧州債務危機がありと、目標達成の前提条件が崩れてしまった。

しかし、ここで大切なのは、“経済状況が以前のようなら営業利益1000億円を達成できる企業体質をつくり上げる”ということです。

私どもは、厳しい経営環境の中でも、守りに徹していたわけではありません。たとえば、近年日本の株式市場は他国に比べて弱い一方で、アジアをはじめとする新興国のマーケットは強いことから、当社は、成長が見込まれる新興国のマーケットに、2005年以来積極的に進出してきました。あるいは、日本のマーケットが弱い中で、収益源を多様化する取り組みを進め、証券業では株式の委託売買手数料への依存率を下げてきました。

経営環境が良くない中でも、積極的にさまざまな対策を講じることで、経営体質を強化してきたのです。

企業経営では、短期的には儲からないけれど、将来のことを考えるとやっておくべきだということがたくさんあります。経営者は、中長期的な視点で何に取り組むべきかを考えないといけないのです。

―― 中長期的な視点に立てば、短期的な利益に振り回されず、正しい経営ができるということなのですね。

北尾

そうです。しかし、大企業の場合、トップにいる期間は長くて6年、短ければ3 ~ 4年程度です。サラリーマン経営者の場合、自分が経営している間の成果を考え、とかく短期的な利益を追いがちです。その結果、正しいか否かより、儲かるか否かで判断してしまうことにもなりかねません。経営者というのは、数年の在任期間中でも、企業の10年先、20年先のことを考えることが責務だと思います。

長期的な視点を持つためには、経験を積むことが大切です。

私の場合、1974年に野村証券に入社して以来、1989年にピークをつけるまで、右肩上がりの市場をずっと見てきました。一方、バブルが崩壊した後は、右肩下がりの低空飛行の時期を見てきました。そうやって相場のいい時、悪い時の両方を見た経験があるため、相場というものの本質をつかむことができたと思っています。

もちろん、経験だけでは知ることのできる範囲が限られます。ですから、「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」というビスマルクの言葉通り、いろいろな書物を読み、その知見を糧にしながら、現在に知恵を活かしていくことが大切です。

最も大切なのは正しい倫理的価値観

――人材育成においては、どんな点を重視されていますか?

北尾

13年前に会社を興した時、私は、5つの経営理念を決めました。「正しい倫理的価値観を持つ」「金融イノベーターたれ」「新産業クリエーターを目指す」「セルフエボリューションの継続」「社会的責任を全うする」というものです。

この中で最も大切にしているのが、「正しい倫理的価値観を持つ」ということです。倫理的価値観というのは、時代が変わっても不変の要件で、社員全員がこの価値観を持つ会社でありたいと考えています。

それからもう一つ大切にしているのが「セルフエボリューション」、自己変革という考え方です。

人は、一度成功すると天狗になってしまいがちですが、環境が変われば、過去の成功体験は通じません。したがって、常に自己否定し、自己変革を図っていかなければなりません。この考え方は、私どものグループの遺伝子として残していくべき要素だと考えています。

自己変革の“自己”というのは、一人ひとりのことです。会社というのは個の集合体ですから、会社が変わるためには、まず、個人のレベルで変わらなければなりません。利己的な野心から利他的な志へと変えていくことでそれぞれの人が進化を続ければ、会社も進化し、倫理的価値観を持ち続けられる組織になっていくのです。

――各人が変わるためには、どんなことが必要だと思われますか?

北尾

「一燈照隅、萬燈照国」とは最澄がいったとされる言葉です。「自分の周りの一隅を照らすだけでは明かりは小さいが、一隅を照らす人が増え、万の明かりとなれば、国全体を照らすことができる」という意味です。

人は、感化ということでしか変わりません。誰かの優れた行動に感化された人が、それに続くようになるのです。

そのためには、まず、リーダーが変わることが大切です。トップが率先して意識や行動を変えれば、それがすぐ下の役員に伝わり、役員の言動が変わります。役員が変われば、さらにその下の管理職が変わっていく。そうやって社内全体に伝わった時、会社も変わるのです。

ですから、トップの姿勢というのは、本当に大事なのです。トップがダメなら当然ながら、組織はダメになります。昨今の企業の不祥事を見れば、それは明白でしょう。

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