J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年07月号

ここから始める! ポジティブメンタルヘルス 第3 回 組織活性化のポイント 健康の増進と生産性の向上の両立に向けて

依然として悩ましい職場のメンタルヘルス問題。“ 未然防止”が重要になる今、人事部門がどう考え方を見直し、動けばいいかを、すぐ使える具体的なツールも含めて紹介する連載です。

島津 明人(しまず あきひと)氏
早稲田大学大学院文学研究科卒業後、同大学文学部助手、広島大学大学院教育学研究科専任講師、助教授、ユトレヒト大学社会科学部客員研究員を経て、2007年より現職。企業組織の活性化やメンタルヘルスを研究。

TOMH研究会とは?
2009年に発足した、「東京大学OccupationalMental Health」研究会。研究と実践領域の専門家が集まる。鍵となるテーマを検討・追究し、研究と実践の橋渡しを通じて、働く人全てのメンタルヘルス向上と、専門職のレベルアップに役立つノウハウの蓄積を行う。

[イラスト]=NLshop/shutterstock.com

1. はじめに

従業員一人ひとりが健康でいきいきと仕事に取り組むことは、従業員の幸せにとっても、組織全体の生産性にとっても重要です。ところが、第二次世界大戦後から展開されてきた我が国の職場のメンタルヘルス対策では、従業員の健康には注目するものの、従業員がどの程度いきいきと仕事をして生産性を上げるかには、あまり注目していませんでした。むしろ、生産性の向上を促すことで、かえって健康を損ねるのではないかと懸念すらしていました。

一方、組織マネジメント(つまり経営側)では、従業員一人ひとりの生産性には注目していましたが、従業員の健康にはあまり注目していませんでした。むしろ、従業員の健康状態に配慮することで、かえって生産性が落ちるのではないかと懸念していました。その結果、これまでのメンタルヘルス対策と組織マネジメントは、お互いに協調することなく展開されてきました。

ところがその後、産業構造の変化(サービス業の増加)、働き方の変化(裁量労働制など)、情報技術の進歩など、従業員や組織を取り巻く社会経済状況は大きく変化しています。こうした変化に組織が対応して生き残っていくには、従業員一人ひとりが健康“かつ”いきいきと仕事に取り組むことが重要になってきます。つまり、産業保健にとっても経営にとっても発想の転換が求められるようになったわけです。

本稿では、健康の増進と生産性の向上を両立させるための考え方として、「ワーク・エンゲイジメント」と「仕事の要求度-資源モデル」を提案します。次に、これらの考え方に基づいて組織の活性化に取り組む2つの企業の例を紹介し、そのうえで、健康の増進と生産性の向上の両立をめざした組織活性化のポイントを提示したいと思います。

2. 仕事の資源の向上がカギ

産業保健とマネジメントとが協調するためには、共通した目標が必要です。本稿ではそのために、前回前々回でも触れられた「ワーク・エンゲイジメント」に注目します。ワーク・エンゲイジメントとは、仕事から活力を得て「いきいき」とした状態であり、「活力」「熱意」「没頭」の3つの要素から構成されます。エンゲイジメントの高い従業員は、心身の健康が良好で、生産性も高いことがわかっています。

では、どうしたらワーク・エンゲイジメントは高められるのでしょうか。そのカギとなるのが「仕事の資源」です。

仕事の資源とは、「仕事のストレスを軽減し、個人の成長、学習、発達を促す働きを持つ要因」です。いわば、仕事や組織の持つ強みともいえ、以下の3つの水準に分けることができます。

○作業や課題に関するもの(裁量権、仕事の意義など)

○チームや人間関係に関するもの(上司や同僚の支援など)

○組織のあり方に関するもの(経営陣との意思疎通など)

それぞれの資源が充実するほどワーク・エンゲイジメントは高まり、その結果、健康や生産性の向上につながります。

図表は、「仕事の要求度-資源モデル(Job Demands-Resource model: JD-R モデル)」といわれるもので、「動機づけプロセス」と「健康障害プロセス」の2つのプロセスから構成されています。上で述べた仕事の資源→ワーク・エンゲイジメント→健康・組織アウトカムの流れは、「動機づけプロセス」といわれ、図表の下半分に描かれています。一方、仕事の要求度(仕事のストレス要因)→ストレス反応→健康・組織アウトカムの流れは「健康障害プロセス」といわれ、図表の上半分に描かれています。

従来のメンタルヘルス対策では、この「健康障害プロセス」に注目し、仕事の要求度によって生じたストレス反応を低減させ、健康障害を防ぐことに専念していたと言えるでしょう。

このように、「仕事の要求度-資源モデル」では、「動機づけプロセス」と「健康障害プロセス」の2 つのプロセスに注目している点に特徴がありますが、もう1つの特徴は、仕事の資源の機能を重視している点にあります。仕事の資源の向上が、ワーク・エンゲイジメントの向上だけでなく、ストレス反応の低減にもつながると考えているのです。つまり、仕事の資源を充実させることが、健康の増進と生産性の向上とを両立させるカギになると言えるでしょう。

3. 組織活性化の事例

「仕事の資源」に注目し、組織活性化を行うとは、具体的にはどういうことなのでしょうか。特に先進事例である2社の例を見てみましょう。

[事例1:JUKIにおける活性化対策]

JUKIでは、メンタルヘルス対策の一環として2003 年度から「心の健康診断」を実施しています。これは同社の健康相談室が毎年、定期健康診断と併せて実施しているものです。2008年度までは、抑うつのスクリーニング検査(CES-D)を用いて、うつ状態が疑われる従業員を個別にフォローするとともに、JCQ(Job Content Questionnaire:仕事の要求度-コントロール-社会的支援を測定するための調査票)やERI(Eff ort-RewardImbalance:努力-報酬不均衡を測定するための調査票)などの調査票を用いて職場のストレス要因を定量的に評価し、就業状況の改善に活用してきました。

一方、2009 年度の「心の健康診断」からは、その目的をストレス対策から活性化対策にまで範囲を広げました。これに伴い、ワーク・エンゲイジメントを調査項目に加えるとともに、調査票を「ACTIVE」というオンライン調査票に変更。ACTIVE(富士通ソフトウェアテクノロジーズ社製)では仕事の要求度-資源モデルの各要素を測定でき、各組織の状態を、ストレッサー、組織資源、ワーク・エンゲイジメント、ストレス反応、パフォーマンスの多面的な観点から把握することが可能になりました。

そして、ACTIVEの調査結果は、以下の流れに沿って、各組織にフィードバックされます。

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