J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年07月号

CASE.3 日本アイ・ビー・エム ボランティア活動でリーダー育成 世界中のスペシャリストが新興国に集い、社会問題を解決

グローバルリーダーはビジネス以外の現場でも育成されている。IBMは新興国や発展途上国での社会貢献活動に、世界から募った社員チームを現地に派遣。難易度の高い社会問題に、インターナショナルチームで取り組むことで、より高度なグローバル・リーダーシップの育成を行っている。

藤井 恵子 氏
マーケティング&コミュニケーションズ 社会貢献 プログラム・マネージャー

稲葉 淳一郎 氏
金融サービス・マネジメント カード第二システム ITアーキテクト

日本アイ・ビー・エム
世界170以上の国や地域でビジネスコンサルティングから、ITシステム導入・運用管理、アウトソーシング、ソフトウェア、ハードウェアなどの事業を展開するIBMの日本法人。IBMの社員数は約43万人。設立:1937年、資本金:1,353億円、売上高:8,499億3,400万円(2012年度)。

[取材・文・写真]=中村博昭

●背景 グローバル・コラボレーション

真のグローバル化が進む現在において、そこで活躍する人材が本当に持っておくべきスキルとは何か。その答えのヒントになりそうなのが、IBMが行う社会貢献活動による人材育成、「コーポレート・サービス・コー(以下、CSC)プログラム」だ。

これは、世界中から集まったIBM社員が各自のスキルを生かし、新興国や発展途上国における社会的な課題に取り組むプログラム。このような活動が始まった理由を、日本IBMで社会貢献のプログラム・マネージャーを務める藤井恵子氏は、次のように語る。「IBMは米国を中心に、170以上の国や地域で事業を展開しています。従来はリーダー育成もそれぞれの国や地域単位で行われていましたが、それでは世界の情勢にそぐわなくなってきた。そこでIBMではこれからめざすべき企業像として、事業や地域を横断して経営資源を統合・最適化させる『真に統合されたグローバル企業(GIE:Globally Integrated Enterprise)』を定義し、世界統一のリーダー育成をスタートさせました」

その施策の1つとして2007年、当時の米国IBM会長だったサミュエル・パルミサーノ氏が発表したのがCSCだ。その発想の原点は米国、ケネディ大統領時代まで遡る。ベトナム戦争当時、国内で平和運動が始まり、それが拡大し、青年海外協力隊のようなボランティアが生まれた。社会貢献活動が文化として根づいている米国ならではともいえる。CSCは、その企業版だ。「CSCはビジネスではなく、あくまでもボランティア。社員は勤務時間外に研修や会議を行い、現地派遣もボランティア休暇制度を利用します。社会貢献という活動を通じて、世界中のIBM社員が一つになる。そこに意義があります」

もちろん、この研修と別にトップ層のグローバル教育や研修も行われている。では、なぜこのような活動を始めたのか。そこには、人材およびビジネスの多様化が関係している。

「従来から一般的なグローバル研修は行っていましたが、GIEを実現するには、もっとスピーディに育成し、研修もより深化させる必要がありました。そこで、新興国に出向き、初めて出会う多様なメンバーと共に働き、リーダーシップを発揮できる訓練を企画したのです」

図表1は2010年に発表されたIBMの求める新たな人材像だ。そこには9つのコンピテンシーがある。世界レベルでの協力体制を求める「グローバル・コラボレーション」や、新たな顧客をイメージした「専門能力を駆使した影響力」「相手にインパクトを与えるコミュニケーション」といった項目も見える。CSCでは、まさにこれらの全てが鍛えられるといっても過言ではないだろう。

●具体的な取り組み 異なるスキルでチーム編成

CSCは2008 年の活動開始以来、全世界50カ国以上、約2,000人のIBM社員が派遣されている。これまでの派遣国はアジア、欧州、アフリカなどの新興国、発展途上国で30カ国。日本IBMではこれまで69 名の社員が20カ国に派遣されている(2012年12月末現在)。

それでは具体的に、どのような流れでCSCが実施されるかを見ていこう(図表2)。

参加者はリージョンごとに公募、選考、決定される(日本は単体で1リージョン)。条件は2 つ、勤続年数2 年以上と、業績評価5 段階の上位2 段階以上を直近過去3 年間で2回獲得していること。年齢は問わない。参加したい社員は4つの課題に対し、英文でエッセーを提出する。課題はたとえば、「9つのコンピテンシーから見て、自分の強み、弱みは何か」「CSC 参加で自分のどこを改善したいか」「トラブル時にその状況をメンバーとどう打破したか」といったものだ。

毎年3月~4月が公募期間。応募者は上司の同意を得て人数が絞り込まれ、エッセーは社内の選考委員が採点し、点数の上位者から派遣予定者を決定。社員への選出確定連絡は6月下旬だ。

「エッセーでは、会社の戦略や9つのコンピテンシーを理解しているか、この経験をどう生かしたいか、参加への意欲といった点がチェックされます。過去の海外経験は問われません。海外旅行の経験すらない人が選ばれた例もあります」

各リージョンでメンバーが選定されると、その情報が米国IBMに行き、米国IBMがチーム編成を行う。

米国IBMに提供されるメンバー情報は2つ。1つはどんな業務ができるかというスキルセット、もう1つは、現在どんなジョブファミリーにいるかという在籍情報だ。IBMでは、2005年頃から、全世界でスキルセットの評価を統一しており、スキルセットを見れば、国籍に関係なく実力がわかるようになっている。これが、海外のメンバーと働くうえで大きな助けとなっている。そして、米国IBMで、スキルセットとジョブファミリー、国籍が偏らないよう、世界各国のメンバーから10 ~ 15名のチームがつくられる。

このチームがどの国でどの課題に取り組むかを決めるのは、IBMと提携しているNGOになる。

メンバーのほうは、チームが編成されると、約3カ月の派遣前学習(Pre-work)が始まる。チームメンバーと週1回電話会議が行われる他、Webでのグローバルリーダー用研修サイトで学習。派遣先が決まり次第、現地についての勉強も始める。NGOから、どんな案件を手掛けるのかの連絡が入ったら、その解決法を模索。翌年2 ~ 10月に現地に1カ月の派遣となる。

現地に着いたら、まず支援内容について合意が図られ、それから成果物の作成、最終報告会での提案が行われる。「1カ月という非常に短い期間ですから、満足いくまで仕事をする時間はありません。ですから、いかに派遣先の顧客の意向を汲み取り、期間内でニーズに応える成果を出すか。ある意味、集中研修のようなプロジェクトです」

派遣活動後には社内外への活動事例報告や取材対応も行われる。まさに半年がかりの一大プログラムなのだ。

●効果 育成とブランド浸透を同時に推進

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