J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年07月号

Opinion 1 未来研究所に聞く 曖昧な世界を切り開くリーダーシップこそグローバル・マインドセット

IFTF(Institute for the Future、未来研究所)名誉研究員で社会学者のボブ・ヨハンセン博士は、IFTFが毎年発表している「10年予測」を踏まえ、これからのグローバル社会はますます「VUCAな世界」になっていくと予言する。そして、「VUCAな世界」を切り開いていくリーダーシップこそが、グローバル・マインドセットに欠かせないものであると語っている。「VUCAな世界」とは何か、そして未来を創るリーダーシップスキルとはいかなるものなのか。ヨハンセン博士にお話を伺った。

Bob Johansen(ボブ・ヨハンセン) 氏
未来研究所( IFTF)名誉研究員、社会学者。1996~2004年、IFTF社長を務め、現在はIFTFにおいて、執筆・講演・経営幹部向けワークショップのファシリテーターなどを務める。著書に『縮む組織の中の伸びる個性( Upsizing the Individual inthe Downsized Organization)』『早くそこに到達せよ(Get There Early)』『未来を創るリーダー10のスキル』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。

IFTF(Institute for the Future)
未来研究所(IFTF)は、カリフォルニア州パロアルトに拠点を置く独立系非営利のシン
クタンク。1968年設立。国防に関する研究から派生して、科学的に将来予測を行う機
関として、多くの国内外企業に情報提供を行っている他、毎年、グローバル10年予測を
発表。ヘルスケア、テクノロジー、食料および水資源についての見通しも発表している。

[取材・文]=高橋テツヤ(又隠舎) [写真]=IFTF提供

より良い未来を創る力

我々は今、VUCAの世界に生きている。VUCAとは、もともとは米国陸軍大学で教えられている軍事用語で、不安定(Volatility)、不確実(Uncertainty)、複雑(Complexity)、曖昧(Ambiguity)になっていく世界を意味している。

技術の急速な進化、ますますネットワーク化される世界、気候変動、人口増加、高齢化、貧富差拡大といった要因が、世界を一層移ろいやすく予測不能なものにしていく。

私は、これからの10 年間のVUCAな世界は、これまでになく混乱に満ちたものになると予測している。組織にとっても個人にとっても、大変厳しい時代が加速していくだろう。

厳しい予測は人の不安や不快な気持ちをかき立てる。しかし予測は運命や宿命ではない。予測の役割は、そこから起こりうる事柄やリスクを想定し、それらを回避・対応すべく行動することで、幸せな未来を創っていくことにある。未来からのストーリーは、現在における洞察を刺激し、未来に向けた行動を促すためにある。

VUCAな世界は脅威と機会の両面を併せ持つ。リーダーとは、予測の持つ本来的な価値を正しく理解し、脅威のVUCA(不安定、不確実、複雑さ、曖昧さ)を、「予見→洞察→行動のループ」を通じて、希望の持てる機会のVUCA(ビジョン、理解、明瞭さ、機敏さ)に転換していく人のことをいう(図表1)。そのためのスキルが、次に挙げる「未来を創る10のリーダーシップスキル」なのである。

未来を創る10のリーダーシップスキル

1. 作り手の本能

自分や他人が持っている「ものを作りたい」という本能を引き出す能力。

砂浜で無心に穴を掘る子どもたちのような「作り手としての本能」が、組織や社会の至るところで発揮されるように促すことはリーダーの大切な役割である。混沌とした時代を切り開いていくためには、座り込んで嘆くより、何かをつくり続けることが必要だ。

2. 明瞭に考える力

誰もまだ気づいていない未来の混乱や衝突を見通し、混沌の中でも明瞭さを持って意思疎通をする能力。

混乱の時代だからこそ、リーダーは目標を明瞭に掲げなければならない。ただし、明瞭さと「確信」とは区別されるべきである。「確信」は、他の見解を認めず、しばしば「べき論」の形を取る。明瞭さとは、自分にも知らないことがあるのだということも含めた明瞭さであり、確信を含まない。明瞭さは、物事を過度に単純化して捉えようとする誘惑に抵抗する姿勢から生まれる。

3. ジレンマをチャンスに変える力

解決策が見えない中でチャレンジし続けなければならない課題をチャンスに転換する能力。

ジレンマとは、解決が困難なうえになかなか消滅しない問題のことで、ちょうど合気道のように、相手の攻撃力を受け入れたうえで翻すように対応するしかない。唯一解を求めたがる「問題解決者」にとっては、ジレンマとの付き合いは難しいことがある。

ジレンマをチャンスに変えていくには、状況を把握し、組み立て直す能力が求められる。前線から一歩下がって状況をチェックし、本当は何が起こっているのか、また、これから何が起こりうるのかを考えなければならない。

4. 没入体験から学ぶ力

快適な環境に安住せず、不慣れな環境に自己没入し、当事者意識を持って未知なることを学ぶ能力。

ゲームやSNSなどを通じた仮想体験で向上させることができる能力である。身を浸すような経験から、主体的に観察する力、聞く力、選別する力、変化が激しくても物事の核心から離れず全体を見渡す力と関係している。

5. 生物学的共感力

自然から学び、かつ学んだ事柄をリーダーシップに活かす能力。物事をその成り立ちやパターンから学習・理解・尊重する能力。

未来に新しい波を巻き起こすのは、これまでの工学的な考え方に加えて、生物学的な考え方が中心となっていく。会社のことを単なるモノや器としてではなく、生態系として見ていく力、複数の事柄が複雑に関連しながら動いていることを理解する力、非線形的な関係を持つ事象が全体としては1つの生命力を持って動いていることを学ぶ力と関係している。

6. 建設的脱分極化

合意が形成できない緊迫した状況を鎮め、どちらの側にも与することのないまま、多様な文化的背景を持つ人々と肯定的なかかわり合いをもたらすことができる能力。

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