J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年09月号

ここから始める! ポジティブメンタルヘルス 第5回 部下のメンタルヘルスに良いマネジメント・悪いマネジメント

依然として悩ましい職場のメンタルヘルス問題。“未然防止”が重要になる今、人事部門がどう考え方を見直し、動けばいいかを、すぐ使える具体的なツールも含めて紹介する連載です。

津野 香奈美(つの かなみ)氏
東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、(株)クオレ・シー・キューブ(非常勤)を経て2013年より現職。働く人々が、よりいきいきと働けるようにサポートしたいという思いから、研究に取り組んでいる。

TOMH研究会とは?
2009年に発足した、「東京大学Occupational Mental Health」研究会。研究と実践領域の専門家が集まる。鍵となるテーマを検討・追究し、研究と実践の橋渡しを通じて、働く人全てのメンタルヘルス向上と、専門職のレベルアップに役立つノウハウの蓄積を行う。

[イラスト]=NLshop/shutterstock.com

1.マネジメントスタイルの影響力

厚生労働省による調査で、働く人の約6割が自分の仕事や職業生活に関して強い不安、悩み、ストレスがあると回答しています。中でも最もストレスだと報告されている項目は「職場の人間関係の問題」です※1。職場の人間関係は個人の問題として捉えられがちです。しかし、実は上司の仕事に対する姿勢や部下への接し方が、人間関係を含む職場風土に少なからず影響を与えています。上司がどのようにマネジメントするかによって、職場の雰囲気や働きやすさが形づくられているといっても過言ではありません。それゆえ、職場におけるメンタルヘルス対策や健康いきいき職場づくりを進めるにあたり、上司のマネジメントスタイルはキーファクターの1つとなっています。誤解を恐れずに言えば、職場が活性化するか、逆に部下が疲弊してしまうかは、上司のマネジメント次第なのです。連載第5回である本稿では、「マネジメント」に焦点を当てて、近年研究によって明らかになっている、部下がハラスメントだと感じるマネジメントスタイル、あるいは逆に部下が最もストレスを感じないマネジメントスタイルなどを紹介し、人事労務部門からどのようなアプローチが可能なのか、考えてみたいと思います。

2.部下を疲弊させるマネジメントスタイル

部下を疲弊させてしまうマネジメントスタイルと聞いて、どのようなものを思い浮かべるでしょうか。すぐに思いつくのは、「専制君主型」かもしれません。「俺の言うことを聞かないと……わかってるんだろうな」というように、絶対服従を強制する、一国の王様のように振る舞うタイプです。このタイプの上司は、部下に多大なストレスをもたらします。部下は「言うことを聞かないと怒られる」と萎縮してしまい、意見を言うこともできず、恐怖や不安の中で仕事を進めることになり疲弊します。それだけではなく、こうしたマネジメントスタイルはいじめやパワハラなどのハラスメントとも関連が大きいことが研究※2でわかっています。部下を自分の思い通りにしようとする上司がパワハラをする、というのは想像しやすいでしょう。ただ全く正反対のマネジメントスタイルも、実は、パワハラや部下のストレスと関係があることがわかっています。正反対とは「消極・放任型」(決断や対応を避ける、逃げ腰タイプ)です。簡単に言えば、管理職というポストには就いているけれども「何もしない」上司のこと。たとえば必要とする時に不在であったり、重要な問題に介入するのを避けたり、見て見ぬふりをするタイプのことを指します。我々の研究※3で、このタイプの上司を持つ部下を半年間追跡したところ、半年後になんと部下の7割に「心理的ストレス反応がある」という結果が見られました。この割合は他のマネジメントスタイルと比べて最も高く、「関心を示してもらえない」「何もしてくれない」という状況が、いかに部下を疲弊させているかが想像できます。この消極・放任型マネジメントスタイルは、間接的にパワハラも引き起こします。少しイメージしづらいかもしれませんが、このメカニズムはノルウェーで行われた大規模研究※4によって明らかにされています(図表2)。直属上司が消極・放任型だと、部下は役割葛藤、役割の曖昧さを感じ、従業員同士の葛藤が増え、そのことがパワハラの発生につながるのです。たとえば、上司から明確な指示がないため、各自がどこまで仕事をしてよいのかわからない→同僚間で葛藤が起きる→職場が不安定化→いじめやハラスメントが発生する、というメカニズムです。また、消極・放任型マネジメントスタイルは、直接的にもパワハラを引き起こすことが同じ研究※4でわかっています。「引き起こす」というよりは、パワハラを「受けているという認識を引き起こす」と言ったほうが正しいかもしれません。部下がストレスを感じるメカニズムと同様で、「関心を示してもらえない」「何もしてくれない」という状況が「上司に嫌われている」「パワハラを受けている」と部下に感じさせる可能性があるのです。よって、企業や自治体などで「パワハラと訴えられるかもしれないから、そもそも部下には関与しない」という方がたまにいらっしゃいますが、これはむしろ部下との関係性、職場の雰囲気を悪化させる可能性があります。上司がいくら「自分はパワハラなんてしない」「圧力をかけているわけではないから、部下はストレスを感じていないはずだ」と思い込んでいても、部下は「自分に関心を示してもらえない、指導してもらえない、これはパワハラだ」と思っている可能性があるのです。上司と部下の関係を悪化させないためにも、個々のマネジメントスタイルがどのような結果をもたらすのか、改めてよく考える必要があるでしょう。

3.部下をメンタルヘルス不調に しないマネジメントスタイル

では逆に、部下がストレスを感じないマネジメントスタイルとは、どのようなものでしょうか。我々の研究※3で、「配慮尊重型」(部下を尊重し、辛抱強く時間をかけて接するタイプ)、「厳格型」(仕事ができてミスに厳しいタイプ)、「情熱型」(目標などを熱く語る熱血タイプ)の上司を持つ部下を半年間追跡し、半年後の心理的ストレス反応との関連を見たものがあります。結果から言ってしまえば、半年後に最も部下のストレスが低かったのは、「配慮尊重型」でした。どうやら「上司は自分のことをきちんと見てくれている」と感じさせることが、部下のストレスを減らすようです。人間誰もが、「尊重されていない」とは感じたくないもの。「理解されない、重んじられない、意見を聞かれない」といった状況は誰でも辛いと感じるでしょう。逆に、「必要とされている、やれば認めてくれる」と感じると、仕事へのモチベーションを上昇させ、いきいきと主体的に仕事ができる状況をつくり出します。部下の成長を心から願い、尊重することが、メンタルヘルス対策にもパワハラ対策にもなるのです。もちろん、優しければよいというものでもありません。海外の研究※5では、上司─部下間に信頼感のある場合は仕事のパフォーマンスも良いが、友人のように仲よくなってしまった場合、逆にパフォーマンスが落ちるという報告もあります。上司の役目は部下をマネジメントすることですので、教育的指導は必要です。「仲よくなる」ことをめざすのではなく、仕事上のパートナーとして、一人の人間として尊重し、業務ベースでのかかわりを増やすことが、上司─部下間の関係を良好に保つ秘訣ではないでしょうか。現在、多様なバックグラウンドを持つ人が一緒の職場に集まっており、それぞれの働く理由やモチベーションもさまざまです。「尊重」というキーワードをベースに、働く人一人ひとりの個別性に配慮した、より「テーラーメイド型」のマネジメントスタイルが求められているともいえるでしょう。

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