J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年09月号

CASE.2 大和ハウス工業 カギは仕組みと現場力 カリスマリーダーの経営哲学を受け継ぎ 人間力を組織で強化する

1955年に資本金300万円で創業、以来半世紀余りで、売上高2兆円を達成した大和ハウス工業(以下、大和ハウス)。強力なリーダーシップで同社を日本有数の企業に育て上げたのが、創業者の石橋信夫氏とその後継者である現会長の樋口武男氏だ。2人のカリスマ経営者の経営哲学を継承することで、人間力のあるリーダー育成を目指す同社の取り組みを紹介する。

中村 洋一郎 氏 人財育成センター センター長

大和ハウス工業
1955年創業。半世紀以上にわたり住宅や商業施設などを提供し、幅広い事業展開を進める。近年は、新たに環境エネルギー事業、ロボット事業、農業事業などに進出。人が心豊かに生きる社会の実現をめざす。資本金:1,101億2,048万3,981円、連結売上高:2兆79億8,900万円(2013年3月期)、連結経常利益:1,453億9,500万円(2013年3月期)、連結従業員数:3万361名(2013年3月31日現在)

[取材・文]=赤堀 たか子 [写真]=大和ハウス工業提供、編集部

●背景と人間力の定義最後にものをいうのは人間力

創業者の石橋信夫氏、その後継者である樋口武男氏と、稀代の経営者が続いた大和ハウス。先見の明がある経営者が見出す新規事業を、圧倒的な実行力で実現し、成長してきた。組織を動かす原動力は、2人の経営者が持つ人間的魅力である。

リーダーになぜ人間力が必要なのか、その理由を、大和ハウス・人財育成センターの中村洋一郎センター長は、こう分析する。

「人の信用は、お金や地位で得ることはできません。窮地に陥った時や苦しいギリギリの時に、周囲の人や社員が、“この人を信じよう”“この人のためにやり抜こう”と思うか否かは、その人の人間力にかかっている。だからこそ、リーダーの人間力が重要になるのです」

これを物語るエピソードがある。創業10周年を目前にした1964年、大和ハウスは、経営危機に陥った。もはや倒産かと思われた時、取引先のある経営者が、「これを自由に使ってください」と自分の預金通帳を全て、石橋氏に差し出したという。石橋氏は、気持ちだけをいただき危機を脱したが、勇気百倍とばかりに奮い立った。

後年、この経験を振り返りながら石橋氏は、「身内でもなく親戚でもないのに、そこまでしてくれたのは、自分という人間を信頼してくれてのこと。最後の最後に人を決断させるのは人間力なのだ」と、しみじみ語ったそうだ。

石橋氏の後を継いだ樋口氏も、「長たるものの4つの力」として、「先見力・統率力・判断力・人間力」を挙げている。いかに同社で人間力が重要視されているかがうかがえる。だが、それが何かを具体的に説明するのは難しい。中村氏は言う。

「たとえば、採用面接では、“話し方”“態度”など、さまざまな項目を挙げて、その要素をどれだけ備えているかをポイントで評価します。各項目のポイントを合計した結果、合格点に達していても、何か物足りないと感じさせる人はいます。逆に、ポイントの合計は低くても、この人材は欲しいと思わせる人もいます。その違いが人間力なのです。つまり、人間力とは、個別の要素を合算して評価できるものではなく、オーケストラが奏でる音楽のように、さまざまな要素が融合して生み出されるオーラのようなものです」とらえどころのない人間力だけに、その磨き方も決まった方法があるわけではない。

大和ハウスでは、これまで、こうした価値観は仕事を通じて自然に組織に浸透してきたが、今後さらに組織が拡大し、世代交代が進めば、この状態を維持することは難しい。現場での継承はもちろんだが、それとは別に「組織として維持・伝承していくための装置」が必要になる。

●具体的な取り組み1創業者の経営哲学を実践

全社に向けた「装置」として、中村氏は、創業者の経営哲学を全研修に盛り込むことを決めた。石橋氏の著書『わが社の行き方』(非売品)と樋口氏の著書『熱湯経営―「大組織病」に勝つ』『先の先を読め 複眼経営者「石橋信夫」という生き方』(ともに文藝春秋)の3冊からキーワードとなる言葉(「スピードは最大のサービス」「金がないから商売ができる」「人事を処するに太陽のごとくあれ」など)を120 ほど拾い出し、階層別の研修に組み入れていくことにしたのだ。「2人がよく使った言葉を共通言語化することで、その背景にある哲学を取りこぼすことなく引き継いでいけるようにしたい」というのが狙いだ。

もう1つ、創業者の経営哲学を受け継ぐ代表的な取り組みとして、「大和ハウス塾」が挙げられる。これは、次世代の経営者を計画的に育成したいという樋口氏の思いを受け、2008年に始まった上級管理職者層向けの研修である。

1泊2日の集合研修を前期と後期で計7回実施し、前期にMBA的な経営知識講座を、後期に新規事業の企画をそれぞれ行う(図表)。この研修で創業者の経営哲学を実践に落とし込むために行っているのが、新規事業の企画だ。

同社は創業以来、新しい事業を生み出すことで成長してきた。たとえば、同社創業のきっかけとなった『パイプハウス』は、台風で倒れなかった竹や稲にヒントを得て、鉄パイプを建材に使うという画期的な発想を実現したもの。また、ベビーブームの時代、居場所がないから家に帰らないという子どもたちの話から開発した『ミゼットハウス』(組み立て式の移動部屋)は、後に主力事業となるプレハブ住宅の原点になった。さらに、民間の団地開発や住宅ローンなども、同社が先駆けとなった事業である。

つまり、同社は、社会のニーズを掘り起こし、それに応える新しい商品やサービスを提供することで成長してきた会社であり、新規事業は、成長の原動力といえる。そしてその企画力を強化することは、創業者の経営哲学を実践することに他ならない。

大和ハウス塾では、通常の仕事を抱えながら、受講者同士が協力し、時には外部講師の厳しい指摘を受けて新規事業を企画し、最後の経営トップへのプレゼンをめざして切磋琢磨する。これまで約30の企画が出され、新規事業として実現したものはまだないものの、ビジネスのヒントになっている。

●具体的な取り組み2現場力を鍛える

新規事業の企画に加え、現場主義も創業者や樋口氏が重視したものだ。新たな事業のヒントも企業力強化の秘訣も全て現場にある。だから現場をおろそかにしてはいけないというのが、2人の基本的な考え方だ。現場主義は、人材育成の基本でもある。同社の理念は、「事業を通じて人を育てること」だが、そこには、“仕事こそが人を成長させる”という考えが根底にある。また、現場力は、苦しい環境に置かれた時ほど高まるという。

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