J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年09月号

Opinion 2 企業人としての「人間力」 リーダーをめざそう 「志」次第で誰でもなれるのだから

カリスマも、強さも、絶対的な条件ではない。むしろ弱くても良きリーダーとなって部下や組織を成長へと引っ張っていける。そう語るのは、ザ・ボディショップやスターバックスコーヒーなどでCEOを務め、リーダーシップを執ってきた岩田松雄氏だ。
 リーダーシップは生まれつきの資質ではなく、人間力を育むことで誰でも高めていけるもの。あらゆる組織がリーダーを求めている今、全ての人がリーダーをめざすべきであるし、誰でもなれるという。自らの経験をもとに、今までになかったリーダーシップ像を岩田氏が語る。

岩田 松雄(いわた まつお)氏
1958年生まれ。日産自動車入社後、米国UCLAでMBA取得。外資系コンサルティング会社や日本コカ・コーラ役員を経て、2000年アトラス代表取締役社長、2005年イオンフォレスト(ザ・ボディショップ)代表取締役社長、2009年スターバックスコーヒージャパンCEOに就任。2011年リーダーシップコンサルティングを設立。近著に『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』(サンマーク出版)など。





[取材・文]=道添 進 [写真]=岩田 松雄 氏提供

弱くてもなることができる新しいタイプのリーダー

大多数の人はリーダーシップについて大きな誤解を抱いているようだ。リーダーとは生来のカリスマタイプがなるもので、自分は初めから向いていないと思い込んでいるのではないだろうか。確かに、「オレが、オレが」と前に出るリーダーは目立つから、マスコミも好んで取り上げる。けれども強いがゆえの弱点もあるのではないだろうか。強さも度を超せば、自分がヒーローになりたいという私心が勝りがちだ。世間では、カリスマ型のリーダーが退いた途端に、勢いをなくす企業の例もたくさんある。

私は経営書『ビジョナリー・カンパニー』(日経BP社)が大好きだ。その中でリーダーのあり方を示している「第5水準のリーダー」というくだりは何度も読み返してきた。それは、人間としての謙虚さと、職業人としての地道にやり抜く姿勢を合わせ持つ経営者のことだ。控え目である点は、昔から東洋でも言われてきたリーダーの理想像とも重なる。そして自分よりもまず組織を重視する点も共通していて興味深い。

リーダーとは組織を良くするために巡ってきた役割なのだと受け止めることができれば、謙虚にもなれるだろう。CEOだけでも、また社員だけでも組織が成り立たないように、それぞれのポジションをしっかり守るから良い方向へと向かえる。CEOだから偉いとか、特別な地位だとかいうことはなく、CEOという役職を全うすることに意義がある。大切なのは組織が良い方向へと進んでいくことで、誰がリーダーになろうと構わないのではないだろうか。

私自身は決して強いタイプのリーダーではなかった。にもかかわらず、ザ・ボディショップやスターバックスといった企業のトップに40代だった私がなれたのは、周りの人たちが推してくれたおかげだ。もちろん強いリーダーシップを発揮しなくてはいけない場面もあった。けれども、そういう時には補佐役に助けてもらいながら行った。そして厳しい局面を抜け出たら、自分本来の支援型のリーダーシップで組織を運営してきた。自分の弱さをさらけ出し、そのうえで自分らしいリーダーをめざせばよいと思う。自分の弱さを認めることができ、組織を良くしていこうという気持ちを持っていれば、人の気持ちがよくわかるリーダーになれるだろう。

誰もが育てることができるリーダーとしての「志」

私が日本法人の社長を務めたザ・ボディショップの創設者アニータ・ローディック氏は、優れた企業家であると同時に、自然環境や企業モラル向上に努めた活動家でもある。天然原料をベースに、化粧品を開発し、化粧品の安全性確認のための動物実験に反対した。生産過程でも立場の弱い生産者と適正価格で取引を行うフェアトレードを開始し、社会問題を解決するために大きな貢献をした。

そんなアニータの志も、初めから大きかったわけではないだろう。ビジネスを大きくしていくうちに、社員の皆さんの働きがいや、社会の問題を解決することへと関心が広がっていった。最初から優れたリーダーなど滅多にいない。リーダーシップは生まれ持った特質ではなく、少しずつ自分で育んでいくものだと思う。

ではどうやってその志を育てていけばよいのだろうか。たとえば「ありがとう」と言われて嬉しいと感じるように、最初はささやかなことから始めればよいと私は思っている。誰かのために何かをすることが小さな喜びになる。そして社員の皆さんの幸せや成長を願うことで自然に自分自身も成長し、リーダーシップを高めることができると私は信じている。

ザ・ボディショップの会社説明会では、就活生が社員にインタビューするコーナーを設けていた。緊張のあまり質問もおぼつかなかった学生たちが入社して1年後、今度は逆の立場になって受け答えをする。ブランドの理念について、学生に向かって私の期待以上に適切に答えていた。人は1年でこんなに成長するのかと、大きな喜びを感じたものだった。「初任給でご両親やお世話になった人にプレゼントと共に感謝の気持ちを贈るんだよ」──私自身が面接をして採用した1年目の社員たちにはそう語っていた。すると、寄せ書きと一緒に初任給でサプライズの贈り物を私にしてくれた。そのホワイトムスクギフトセット(シャワージェルなどが入ったスキンケアセット)は使うのがもったいなくて、今でも宝物として取ってある。本当に嬉しい体験だった。周囲の幸せを願うことは、実は自分自身を、より幸せにすることでもあるのだ。

かつて時代の寵児ともてはやされたIT長者たちがいたことを覚えておいでだろう。しかし、あの起業家たちは上場によって二桁の億を手にした時よりも、上場をめざして仲間と徹夜徹夜で頑張っていた日々のほうが幸せだったのではないだろうか。

幸せとは何か。それは人によって違うけれども、私は、目標に向かっている過程そのものに幸せがあるのだと思う。私たちは毎日の仕事や生活の中にたくさんの幸せを感じながら生きているのだ。そして目標が達成されたら、もっと大きな幸せに向かって新しい目標を掲げて歩き出せばよい。新入社員だってそれは変わらないはずだが、つい、世間で言われる幸せの像に引っ張られがちだ。せっかく就職戦線を勝ち抜いて入社したのに数年足らずで辞めてしまう若者が後を絶たないのは、会社に自分を合わせようとすることが原因なのだろう。働きがいがあるか、そして幸せかどうかは、自分自身が基点となって実感することだ。自分の抱く価値観に合った会社を選ぶというのが本来の姿だろう。

もちろん、衣食足りて礼節を知るというように、若いうちはまず自分の欲望を叶えることから始めて構わないと思っている。それについて、ザ・ボディショップやスターバックスを経営していた時、学んだことがある。それは給料とは衛生要因であるということだ。適正な給料は必要だが、それは単に不満を解消するだけのもので、やる気を引き出すためには別の要因が必要だということを感じた。

その要因とは、社員の皆さんが人間的に成長できるかということだ。ザ・ボディショップでは、利益が出るようになったら、まず教育投資を再開した。マネジャー会議も貸し会議室ではなく、舞浜の一流ホテルに変更した。かつては嫌でならなかったマネジャー会議が楽しくなり、参加できることが目標になるように心がけた。

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