J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年09月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 “くせもの”も“猫”も活かす! 顧客への真心と柔軟性を持つ両備流人材・組織づくりとは

規制緩和による競争激化やモータリゼーションによる利用客の減少など、公共交通を取り巻く環境は厳しい。そうした中にあって、着実に業績を伸ばしているのが、岡山県の両備グループだ。猫の「たま駅長」で有名な和歌山電鐵もその傘下である。同グループを率いる小嶋光信代表は、経営破綻した地方の公共交通の再生を請け負い、次々と成功させた「地方公共交通の救世主」としても知られる。社会・顧客・社員の幸せを追求することが企業の使命だと語る小嶋代表に、人づくりへの思いを伺った。

小嶋 光信(Mitsunobu Kojima)氏
生年月日 1945年4月4日
出身校 慶應義塾大学経済学部、慶應義塾大学ビジネススクール(現:同大学大学院経営管理研究科)
主な経歴
下記を含め現在、55社からなる両備グループのグループ代表兼CEO(うち36社は会長、25社は社長。2013年7月31日現在)
1968年4月 三井銀行入行
1973年5月 両備運輸(現・両備ホールディングス) 常務取締役
1999年2月 両備システムズ 社長(現・会長 兼 CEO)
1999年6月 両備バス(現・両備ホールディングス)社長
2001年6月 夢二郷土美術館 館長(在任中)
2001年6月 岡山電気軌道 社長(在任中)
2001年10月 社団法人日本民営鉄道協会 理事(在任中)
2005年4月 日本体育協会 理事(後、参与に就任)
2005年6月 岡山大学 理事(後、2011年3月末まで学長補佐・相談役)
2005年6月 和歌山電鐵 社長(在任中)
2006年10月 中国バス 社長(在任中)
2007年4月 両備ホールディングス 社長
2010年4月 岡山髙島屋 会長(在任中)
2010年6月 日本旅客船協会 副会長(在任中)
2011年6月 両備ホールディングス 会長 兼 CEO(在任中)
2013年1月 井笠バスカンパニー 社長(在任中)
2013年6月 公益社団法人 岡山県バス協会 会長(在任中)
現在に至る

両備グループ
1910年に西大寺鐵道として創立。「忠恕」を理念として、岡山県を拠点に、交通・運輸事業および情報関連、生活関連事業を展開する、55社からなる企業群。今後は、環境関連ビジネスや海外での事業展開も視野に入れ、さらなる発展をめざす。
グループ総資本金:26億2,090万円、売上高:1,177億600万円(2013年3月期)、従業員数:8,294名(2013年3月現在)

インタビュアー/赤堀 たか子 写真/平田 宏

創業者の戒名に見つけたグループに息づく経営理念

――御社は、経営理念に「忠恕」を掲げておられます。この言葉をなぜ理念に掲げられたのでしょうか。

小嶋

「忠恕」というのは、「真心からの思いやり」という意味です。これを経営理念に掲げたきっかけは、1999年に旧両備バスの社長に就任し、グループの代表になった時でした。3代目の松田基は経営哲学に優れた人で、社是や経営への思いを毎月社内報で社員に伝えていたので、それがどのくらい浸透しているのか確かめたくて、グループ各社の幹部に聞いてみたのです。すると、「誰もわかっていない」ということがわかった(笑)。教えそのものは素晴らしかったのですが、数が多くてわからなくなっている、というのが現状でした。そこで、大事なことは多くても3つまでに絞らないと伝わらないなと考えるようになりました。当時当グループは、2010年の100周年に向け、次の100年のための基礎固めをする時期でした。世の中が目まぐるしく変わる時代にも揺るがない、会社の核となる理念を探し続けていたある日、寝ている時にふと頭に浮かんだのが「忠恕」でした。その時は気づかなかったのですが、これは当社の創業者、松田与三郎の戒名「天海院忠恕一貫居士」に含まれていた言葉でした。

与三郎は、地元のお寺への貢献を評価され、殿様のような立派な戒名をもらっていたのですが、それを潔しとせずに、自ら戒名を決めたのだそうです。これを私なりに解釈すると、「天よりも高く、海よりも深く真心からの思いやりを一生貫いた男」となります。そしてここに、両備グループの経営の秘密があると確信したのです。

当社は、1910年(明治43年)の創業以来、社員のリストラをしていません。それは、最大の危機に見舞われた時も例外ではありませんでした。1962年に国鉄赤穂線が開業した結果、当社は、鉄道事業から撤退せざるを得なくなりました。並行して走っていた西大寺鐵道が、当社の主力事業であったためです。40人近い鉄道マンが仕事を失ったのですが、当時の社長は、その人たちを解雇するどころか、各人の得意分野を活かせる新しい事業を興していったのです。つまり当社の伝統は、儲ける種があるから新規事業を始めるのではなく、人材を活用する観点から新しい事業を興すところにあるのです。そうした姿勢の根本には、「忠恕」の精神があったのですが、社内ではあまり語られてこなかった。そこで、これを経営の中心に据え、これから100年の礎としようと考えたのです。

私は、慶應ビジネススクール(ハーバード・ビジネス・スクールのケーススタディを主に使っての教育)に学び、外資系企業の社外役員をしたこともありますが、金を儲けた者だけが正しいとする欧米流の経営に疑問を感じます。本当の経営は人間中心でなければいけない。社会やお客様、従業員のために行うのが本来の経営であり、それを全うするための礎が「忠恕」の理念なのです。

――「忠恕」を実現するための経営方針には、「社会正義」「お客様第一」「社員の幸せ」を掲げられています。

小嶋

よくコンプライアンス、法令順守といいますが、私はこの言葉が大嫌い(笑)。だって、法律は守って当たり前でしょう。ですから私は、経営方針を「法令順守」ではなく、「社会正義」としたのです。法的に問題がなくとも、社会正義に照らして問題となりうるのなら、いくら儲かる仕事でもやめるべきなのです。

2つめの「お客様第一」は、お客様に対する思いやりです。「顧客主義」を謳う会社は多いものの、本当にお客様第一を実行しているところはどれだけあるでしょうか。「本気でお客様第一を徹底したら儲からない」という人がいますが、偽りの顧客主義では意味がありません。考えが及ばないのなら仕方がありませんが、その時の最善を考えてお客様に商品やサービスを提供する姿勢が大切です。“儲け”という字は、“信じる者”と書きます。つまり、お客様から信用されて利益が上がることが、“儲ける”ことなのです。

3つめの経営方針に「社員の幸せ」を掲げた時、人事担当者に「そんなことを言ったら労使交渉ができなくなります」と苦情を言われました。たとえば、ベースアップの金額を示せば、その額が不満な社員から、「これが社員の幸せを考えている会社か」と非難されかねない。“社員の幸せ”を口実に社員が過剰に権利を主張しかねないと危惧したのです。

しかし、私が言う社員の幸せは、社員の言いなりになることではありません。いまや、年金も介護保険も当てにできず、国が国民を守ることができない状況で、自分の身は自分で守るしかありません。だから、自らの力で幸せをつかめる人材に育てることが、社員の幸せにつながるという考えなのです。

「健康」「能力」「やる気」を高め、業績向上につなげる

――「社員の幸せ」を実現するため、具体的に取り組まれていることとは。

小嶋

当社では、個人業績=「健康×能力×やる気」=社員の幸せという「能力アップの方程式」を設けています。もし、能力ややる気が人の2倍あっても、健康を害していれば業績はゼロで、幸せでもなくなってしまいます。したがって、業績を上げるためにはこの3つの要素が大切で、当社では、会社としてこれらを管理しています。

「健康」については、「両備健康づくりセンター」を作って、35歳からドック検診を義務づけています。検診でメタボだと診断されると、「両備健康塾」で健康改善に取り組みます。中でも成人病の4悪(肥満・高血圧・糖尿病・高脂血症)の症状がある人は、グループ代表管理のもと、産業医がついて徹底的に改善指導をします。自分の健康をどうしようと自分の勝手だという人がいますが、仕事で成果を出すために健康状態を気遣うことは労働者の義務です。ただし、それを自分だけでやれというのは大変なので、会社が側面支援しています。

「能力」の強化は、「両備教育センター」が担当します。現場第一ですから教育の基本はOJTです。しかし、グループ全体や複数社に共通する教育は、教育センターで行います。新入社員教育から管理職研修までの階層別教育の他、各社から推薦された将来経営層をめざす社員向けの「経営管理基礎講座(両備大学)」「青年重役制度(両備大学院)」、卒業試験の「マネジメント・エクスペリエンス(ME)」が当社の教育の目玉です。両備大学は、34、35歳を中心に上下5歳くらいを対象にした講座で、年2回開講し、夕方6時~9時に行います。あえて年代や職場の立場上からしても忙しい時期に行うのは、管理職になるには、意識して時間をつくることが必要だからです。ちなみに、このプログラムを作った時は、3分の1くらいが落伍すると見ていたのですが、皆とても頑張っています。落伍者は現在では、年に2回で約140人の受講生のうち、4~6人しかいません。

両備大学院は、両備大学修了生の選抜メンバー向けのコースで、新たな事業構築に向けての実践トレーニングを行います。MEは、私がビジネススクールで学んだものをベースに、両備の経営理念のフィルターをかけて作り直したケーススタディです。最初に優秀な人間が学び、後輩に教えていく方式で展開することで、教育費の削減になるだけでなく、教える側の勉強にもなっています。現在、課長職以上の95%が両備大学、両備大学院の卒業生で、教育が全社に行き渡ってはきましたが、反面、考え方が画一化する心配も出てきました。そこで、“金太郎飴”にならないよう、最近は中途採用で異文化を取り入れるようにしています。

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